My Step Brothers

手にした生命の終わりを宣告する診断書を見て、私は神様が悪戯をしているとしか思えなかった。

だって、今夜、水野曜太（みずの ようた）がプロポーズするんだから。

すがるわらを求めるように、私は医師の手を必死に握り、あとどれだけ生きられるのかと尋ねた。

「胃がん末期ですが、積極的に治療に協力してくれれば、希望が全くないわけでも……」

「良かった、良かった。これからも曜の心臓の面倒を見られる」私は低声で呟き、自分を慰めた。

プロポーズとはいえ、特に盛大な儀式があるわけではなく、ただ私と曜太が家で交わす、ごく普通の会話の中での出来事だ。

「母さんの意向だ。どうするかはお前次第だ」曜太が指輪を取り出した時、そう付け加えた。

この人って、本当に場を壊すのが上手いんだから！

私が指輪を受け取ろうとしたその時、曜太の携帯電話が鳴った。ちらりと「雪奈」という名が目に入った。

電話を切った曜太は、振り返りもせず、ソファの上の上着を手に取って出て行こうとした。

突然、嫌な予感が襲う。私は慌てて曜太の袖を掴んだ。「どこへ行くの？今日結婚しなかったら、後で私と結婚したくてもできなくなるわよ」

曜太は軽蔑的に笑い、皮肉たっぷりに言った。「時雨、そんな日が来ると思うか？」

それは……確かに、来ないだろう。

そもそも付き合い始めたときだって、彼が私を哀れんでくれたからだ。

私が呆然と立ち尽くすのを見て、曜太は再び口を開いた。

「雪奈が帰国したんだ」白波雪奈（しらなみ ゆきな）の名を出すと、曜太の口調が少し柔らかくなった。「彼女たちと一杯行ってくる」

「曜、心臓に悪いからお酒飲めないんでしょ！また飲んだらあなたは……」

「うるさいな」曜太は私の言葉を素早く遮った。

また飲めば、命に関わるんだ！

私は安心できず、無理を言って一緒について行った。

個室に着くと、私と曜太はその一同の訝しげな視線を浴びながら中に入り、席に着いた。

彼らも、私が来るとは思っていなかったようだ。

「曜太さん、結婚するんだってな」誰かが突然その話を振った。

曜太の表情が曇るのが見えた。

「またそのうちな、急ぐことじゃない」

曜太の口調は適当で、話題にすらしたがらない様子だった。

私はわかっている。それは彼の初恋である雪奈が真正面に座っているから。

雪奈はほほえみ、曜太に一杯の酒を差し出そうとしたが、私は手を伸ばして遮った。「雪奈、曜が飲めないって知ってるでしょ」

「余計な世話だ」曜太が厳しく言い放った。

曜太の言葉が終わらないうちに、雪奈は挑発するように私を見た。「ほら、曜太が私と飲みたいんだから」

私が何か言おうとした時、雪奈は手にしたその杯を置き、テーブルの上で度数の高いウォッカを選び、私に差し出した。

「曜太が飲めないなら、あなたが代わりに飲みなさい。これまでもずっと代わりに飲んできたんでしょ？」

曜太のそばにいたこの4年間、彼の代わりにたくさんの酒を飲んできたことを思い出す。それは同時に、私自身の酒量を大きく変えることにもなった。

周りの人たちが野次り始めた。

一言も発しない曜太を見つめ、私はその杯を受け取り、一気に飲み干した。

辛口の酒がずるずると食道を突き抜け、胃の中で煮えたぎるように疼き始めた。

私は喉元までこみ上げてくる血の味を必死に飲み込みながら、それでも曜太に、もう二度と飲まないでくれと懇願するように言った。

何しろ、私はもうすぐ死ぬから。この先、誰が彼の代わりに酒を飲むんだ？

そう言いながら、突然、胃の中がむかむかするような感覚に襲われ、私はトイレへ向かった。

しかし、雪奈は曜太を見逃すつもりはなかった。

トイレから戻った私の目に飛び込んできた光景は、雪奈が一杯の酒を手に取り、曜太に飲ませているところだった。

パン！

私は突然手を挙げ、響き渡る平手打ちの音が個室にこだました。

次の瞬間、個室は静まり返った。

雪奈は頬を押さえ、信じられないという様子で私を見つめた。

「雪奈、曜の体調がどんなものか、あなた知らないの？彼が飲めるわけ……」

私が雪奈を問い詰めていると、もう一つの平手打ちの音が私の言葉を遮った。

ただ、今度は殴られたのは私だった。

そして私を殴ったのは、曜太だった。

曜太は今、我が子を守るライオンのように、悪意に満ちた目で私を睨みつけた。

「桐野時雨（きりの しぐれ）、俺が本当にお前と結婚すると思うか？自分の身分をわきまえろ。お前に雪奈に大声で啖呵を切る資格がどこにあるんだ？」

私は一瞬呆然と立ち尽くした。曜太は私に反論する機会も与えず、私をぐいと引き寄せ、個室の外へ引っ張り出した。

「さっさと失せろ、お前がここにいると場がしらけるだけだ」

よろよろとしながら、私は家にたどり着いた。

床に倒れ込むように座り込み、乾いた血の跡を袖でぬぐった。

曜太のあの一撃は、本当に容赦ないものだった。

曜太のさっきの言葉が脳裏を繰り返しよぎる。

私に資格がないか？

曜太が心臓移植手術を受けた時、昼夜を問わず彼の世話をしたのは私だった。あの拒絶反応を抑える薬でさえ、今や私が毎日持ち歩かねばならないものになっている。

一方の雪奈は？

曜太の心臓が良くないと知ると、毅然として異国へ旅立ち、あの外国人教師と一緒になったのではないか。

それなのに結局、資格がないのは私の方だ。

目を閉じると、抑えきれない咳が込み上げてきた。

眩暈が押し寄せ、私はトイレに駆け込み嘔吐した。

流しの水が私の吐き気の音に合わせて流れ落ちた。

うつむく私の髪が水面に垂れ込める。

最初はただひたすらに吐き気を催していたが、すぐに血を吐き始めた。

止めどなく吐き続け、鮮血が私の口から曲がりくねりながら流れ落ちた。

顔を上げると、鏡にはみすぼらしい私が映っている。

頬骨が突出するほど痩せこけ、顔が赤く腫れ上がっている。そして口からは絶え間なく血が流れ出ている。

生ける屍のようだ。突然、滑稽に思えた。

死にかけているのは私だ。

それなのに私は、酒が曜太の心臓に良くないと心配していたのだ。

トイレを片付けた後、私はリビングに戻った。

ソファの上に、夜、曜太がさっと置いていった指輪を見て、私は口元に苦い笑みを浮かべた。

「耐え忍べばいつかは明るい日が訪れる」なんてありはしない。あるのは、彼の容赦ない一撃だけだった。

もうここにいる必要はない。私はスーツケースを一つ取り出し、自分の荷物の整理を始めた。

しかし、見回してみると、私の物らしきものはほとんどない。曜太が私にあまり自分の物を置くのを好まなかったからだ。

整理していると、家中の至る所に様々な形の付箋が貼りつけられているのに気づいた。

高校時代にどこにでもありそうなメモのようだ。

ソファの上の付箋がこう書いてある。【長く寝転がっちゃダメよ。適度に運動して！】

冷蔵庫の上の付箋がこう書いてある。【塩分の高いものと刺激物は控えて！心臓を守るためにお酒は絶対に飲んじゃダメ！】

引き出しの上の付箋がこう書いてある。【拒絶反応を抑える薬を毎日分、用意してあるから、忘れずに持ち歩いて！】

クローゼットの上……

家中の至る所に、これらの付箋があった。

曜太は自分の心臓病を話題にされるのを嫌い、自分自身でも気にかけていなかった。

それなのに私だけが、彼の心臓のことをやけに心配し、まるで息子を育てるように彼の世話を細部まで行ってきた。

世話をしすぎたせいで、今では彼は他の女性と酒を飲めるほど元気になったのだ。

曜太との家を出て、私はタクシーで実家の古い家へ向かった。

曜太はここが嫌いだ。辺鄙で狭いと言って、一度もドアをくぐったことはなかった。

家の中に入り、良い時もあったことを思い出した。

私は生来、食べ物の好き嫌いが激しく、家の経済状況が悪いのにも関わらず、何でもかんでも嫌だと言っていた。だが、大人に怒られるのが怖かったので、いつも彼が嫌がらずに私の食べ残しを食べてくれた。

今の曜太とは違う。私が口をつけたコップに、彼は二度と触れようとしない。

学校でいじめられると、彼はいつでも真っ先に立ち上がり、私をいじめる奴らを殴ってくれた。

子供の頃、私は内気で養子でもあったため、彼の保護がなければ、おそらくひどいいじめに遭っていただろう。

養母が亡くなった日、私は泣きすぎて、ショック状態になりかけた。

「誰も私を必要としない」と私は言った。

「俺はいつだっている」と彼は言った。

私が繰り返すと、彼も繰り返した。

……

曜太の手術の日々、私はよく手作りのお粥を持って彼に会いに行った。

ある時、彼は突然癇癪を起こし、粘り気のある熱い汁が私の手の甲にこぼれ、瞬時に赤く腫れ上がった。

それでも曜太は私を一瞥さえしなかった。

ただその日、私が雪奈の話をしたから。

ベッドに横になり、なぜ私と曜太が一緒になったのかを考えた。

本来、私はただ彼を守り、彼の心臓が鼓動するのを見ていられればそれで良かったと思っていた。

転機はやはり、あの数珠がきっかけだった。

ある寺でお祓いされた数珠が病気平癒のご利益があると評判だと聞いた。そこで、私は山道を何度も歩き、ようやく曜太にも一連の数珠を手に入れることができた。

ただ、あの日、下山の途中で突然雨が降り出した。

そのせいで、私は高い熱を出した。

曜太が病室で私のことを愚かだの何だの罵っているちょうどその時、私は青白い顔で数珠を彼に手渡した。

曜太の目が赤くなった。彼が感動してくれたのだと思った。

後になって知ったのだが、あの日、雪奈がSNSで彼女と外国人教師の恋愛関係を公表し、親密な写真を添えていたのだ。

しかし、変わらない事実は、私と曜太が付き合い始めたということだ。

考えてみれば、雪奈に感謝しなければならないのかもしれない。

真っ暗闇の中、私は天井にかすかに見えるシャンデリアの輪郭を見つめた。

やはり人は死期が近づくと、心境はむしろ平穏になるものだ。

翌日目が覚めた時、胃の痛みがひどく、むかむかしてきた。まるで大きな手が内臓を締め上げているようだ。

ちょうどベッドで丸くなっている時、曜太専用の着信音が鳴り響いた。

痛みに耐えながら携帯電話を手に取ると、曜太のいら立った声が耳に届いた。

「時雨、どこにいるんだ？」

「ああ、引っ越したの」私はできるだけ平静な声を出すよう心がけた。

「何をやってるんだ？俺が平手打ちしたからって？」曜太は信じられないという口調で尋ねた。

彼はこれは取るに足らないことだと思っているようだ。

「ええ、私たち、終わりよ」私の口調は冷たくなった。

曜太は逆上した。「そうか、後で後悔しても知らないぞ」

私は歯を食いしばり、再び痛みに耐えながらゆっくりと言った。「後悔しないわ」

それから彼が返事する前に、私は電話を切った。

私は家に長くこもっていた。

私と曜太は互いにこれ以上干渉しなかった。かつて私が恋い焦がれた鼓動の音も、次第に曖昧になっていった。

最初のうちは、あの美しい思い出に支えられて、日々はそれほど辛くはなかった。

しかし次第に、私は深夜に目を覚ますことが多くなった。針で刺されるような痛みが胃の中で渦巻き、耐え難い苦痛にもがき苦しんだ。

人の生存欲求は、この時特に顕著に現れた。

鎮痛剤がもはや痛みを止められなくなった時、私は無理やり体を引きずりながら病院へ行った。

私は医師に、来週入院して治療を受けることを承諾した。

外に出ようとした時、病院の曲がり角で、雪奈の診察に付き添って来た曜太と偶然出くわした。

私は一目見て、産婦人科の検査だとわかった。

はあ、もう妊娠したのか。

曜太が突然振り返ったので、私は驚いてすぐに背を向けて逃げ出した。今のみすぼらしい私の姿を見られるのが怖かったのだ。

考えてみれば可笑しい。まるで私が悪事を働いた側であるかのようだ。

しかし、思いがけず、曜太は私の姿を見かけてしまった。