Chapter: 第六十九話 桔梗第六十九話 桔梗 この日、定彦は三原屋に呼ばれて座敷に座っていた。 「すみません、定彦さん…… こんなに久しぶりなのに……」 玉芳はお茶を出す。 「そうだね。 十数年ぶりだもんね…… それにしても、綺麗になった」 ここでは時間外に男の出入りがあると、客が流れ込んでも迷惑になるので定彦は女装をしていた。 (背も高く、綺麗……) 「何を言いますか。 定彦さんこそ、色気が増しているんじゃないですか?」 玉芳は、師との再会に笑顔だったが 「それで、梅乃の事でありんす…… 連れて行ったのは玲と聞きました。 玲は、以前に梅乃を殺しかけて逮捕状が出ていると聞きましたが……」 「その件だよね。 本当に妹が迷惑をかけました」定彦が静かに頭を下げる。 その姿は美しく、歌舞伎役者だった頃を彷彿させるものであった。「それで、梅乃を何処に連れていったんだい?」 采が定彦を睨むと、「きっと、実家になります」 「案内しておくんなんし……」 玉芳が立ち上がると、「私は舞台子になった時から家を勘当されていまして……」 苦笑いをすると、「定彦さん― 今は梅乃の大事でありんすっ― また殺されるんじゃ……」玉芳が言うと、「それはない。 玲は梅乃ちゃんが好きなんです! 以前、梅乃ちゃんが生き
最終更新日: 2026-02-09
Chapter: 第六十八話 縫合第六十八話 縫合梅乃が誘拐されて四日。 三原屋と鳳仙楼だけはソワソワしている。“コンコン―” 「失礼しんす」 鳳仙楼の戸を叩いたのは菖蒲と勝来である。「こんにちは」 頭を下げて挨拶をするのが瀬門だ。「主人様は?」 勝来が聞くと 「梅乃を探しに出たままです……」それを聞いて、勝来が安心する。まだ吉原に残っていたら腹を切らせると言ったからだ。「それで、情報は?」 瀬門が聞くと、菖蒲は首を横に振る。「営業できますか?」 「父様が居ないと会計が……」 「今までも主人がやっていたのですか?」 「はい。 ここ最近では、昼間は梅乃がやってくれたりもして……」瀬門が答えると、 (なんで梅乃は、どこでも遣り手が出来るのよ……) 菖蒲と勝来は苦笑いをする。「きっと、三原屋でも特別だったのでしょうね……」「まぁ、色んな意味で特別ですね」 そして、今後の鳳仙楼の方針などの説明をする。 采の指示を受けての伝言であった。「菖蒲、勝来~」 そこに鳳仙がやってくると「鳳仙花魁……」 そこには安堵の笑顔が出てくる。 菖蒲と勝来は鳳仙楼の中に入り、梅乃の誘拐の話をすると「何っ―?」 鳳仙の眉間に力が入る。「お前、どうして大事な事を知らせないん
最終更新日: 2026-02-03
Chapter: 第六十七話 吉原外第六十七話 吉原外 男が梅乃を連れ去り、半日が経った。 船はお歯黒ドブから川へ向かい、浅瀬の岸に着く。 男は梅乃の猿隈を外し、「ごめんな…… 痛かったかい?」 そう言って謝っていると「痛いと言うより、本当に驚きました……」 梅乃は困惑している。夜明け、空は藍色に変わった頃に玲がやってくる。「梅乃ちゃん、ゴメンね。 驚かせちゃったね」 「はい。 お歯黒ドブに跳んだ時は終わったと思いましたよ……」 梅乃は平然を装い、話している。「それで、どこに連れ去る気ですか?」「どうしても梅乃ちゃんに来て欲しかったの。 付いてきて」 玲が案内をすると、梅乃は後ろを歩く。 梅乃の後ろには男が監視するように歩いていた。(これじゃ逃げられないな……) 梅乃は観念したように歩いていく。朝になり、三原屋では噂が広まっていた。「梅乃、どこに連れて行かれたのかしらね……」 妓女たちの話し声が聞こえてくる。その横には呆然とする小夜と古峰が立っていた。「そんな簡単な話じゃないよ……」 小夜が小さな声で呟くと、(そりゃ、双子のように育った相手が目の前で誘拐されたんだから……)古峰はチラッと小夜を見る。すると、早々に鳳仙楼
最終更新日: 2026-01-30
Chapter: 第六十六話 悲痛の捜索第六十六話 悲痛の捜索「梅乃―っ」 吉原には呼ぶ声が響く。「いた?」 「ううん……」 慌てる妓女は、走って吉原中を探している。大見世の多い江戸町は宴席の声が響き渡っていた。鳳仙楼の主人も必死に走り回っている。(どこに行っちまったんだい……)その頃、三原屋では采がソワソワしている。(お婆、何かあったのかな……) 傍で見ていた片山も不思議そうな顔をしている。二階は酒宴で盛り上がっている。 古峰が酌をすると、外からの声が耳をかすめた。(誰かが梅乃ちゃんを呼んでいる……)古峰は、菖蒲を見て「菖蒲姐さん…… 私、お腹が痛い……」 小さく声を出すと「古峰? 大丈夫? すみません、古峰だけ下に連れていって構いませんか?」菖蒲が客に話す。「もちろんだよ。 古峰ちゃん、しっかり休んでな……」 客が心配そうにしていると、「すみません……」 古峰は菖蒲と一階に降りていく。「岡田先生…… 古峰を診ておくんなんし……」 そう言って、古峰を岡田の部屋で休ませる。(菖蒲姐さん、ごめんなさい……)&n
最終更新日: 2026-01-25
Chapter: 第六十五話 春の嵐第六十五話 春の嵐「おはようございます。 姐さん……」 梅乃が挨拶をして大部屋にやってくる。「おはよう、梅乃♪」梅乃が鳳仙楼にやってきて一ヶ月が経とうとした頃、妓女たちは『梅乃ちゃん』から『梅乃』と呼ぶようになっていた。 「ようやく見世が再開できて良かったですね♪」 「ありがとう…… 本当に梅乃には感謝だよ。 いてくれなかったら、鳳仙楼《ここ》の妓女の全員が生きてなかったからさ……」 「そうですか、本当に助けられて良かったです」 そう言って、梅乃がニギニギをすると 「前に九朗助稲荷で見たんだけんど、そのニギニギは何なんだい?」 妓女の一人が聞く。「これは三原屋で、小夜と古峰との約束の形なのです。 「みんなで花魁になろう……」って。 でも、叶わなくなってしまいましたが……」 梅乃は笑って話すが、「……」 鳳仙楼の妓女たちは黙ってしまった。(大変、申し訳なく感じる……)それから昼見世が始まり、「梅乃、遣り手をお願いできるかい? ちょっと挨拶回りがしたいんだが……」 主人は、迷惑を掛けた妓楼へ挨拶をしたかったようだ。「構いませんが、過去簿を見せてもらえますか?」 梅乃は過去簿から、妓女の値段や宴席の価格などを確認していく。(なんなの
最終更新日: 2026-01-19
Chapter: 第六十四話 再燃第六十四話 再燃梅乃が鳳仙楼にやってきて、一ヶ月になろうとしていた。「もうすぐ三月かぁ~」 梅乃は、仲の町で梅の花を見ていた。(こんな時期に、お婆は私を拾ってくれたんだよな……)采が拾って名付けをしたのは、仲の町に梅の花が咲いていたからだと教えてくれた。 これを梅乃は気に入っていた。「なんか嬉しくなるな~ もうすぐ十四歳か~」 そんな独り言を言っていると、「珍しいな! お前が一人で歩いているなんて」「喜久乃花魁……」 梅乃が頭を下げると、「んっ? なんか雰囲気が変わった?」 喜久乃が梅乃をジロジロと見る。「あれ? 花魁の情報網でも知らなかったのですか?」 梅乃がニコッとする。「何? 何があったんだ?」 喜久乃がキョトンとしていると、「梅乃~ 久しぶり~」 菖蒲が梅乃に抱きつく。(久しぶり? どういうこと?) 喜久乃は混乱している。「あっ、喜久乃花魁。 もう一ヶ月も前のことですが、私は鳳仙楼でお世話になっているんですよ」 梅乃が話すと、喜久乃はポカンとしている。そこから数秒が経ち、喜久乃が顔を真っ赤にして「どういう事だ? なんで梅乃を…… 采さん、ボケたのか?」「私も思いましたが、普通に生活は出来ている様子ですが……」 これに菖蒲が真面目に答えている。(まぁ、歳だしね……) 梅乃
最終更新日: 2026-01-14