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第1221話 どこに連れて行くつもり
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会社を辞めてから始まる社長との恋 第1345話 それこそが成長の証だ
「新しい友達なんていらない！澈くんがいいの！彼が帝都に行ったら、きっと向こうで新しい友達をいっぱい作るのよ！時間が経ったら、ゆみのことなんて忘れちゃう！」ゆみは泣きながら訴えた。「まだ駄々を捏ねているのか？」紀美子は頭を抱えながら眉間を揉んでいる様子を見て、傍らにいた晋太郎は資料を置いて尋ねた。「ええ」紀美子は頷いた。「ずっと泣いていて、どう慰めていいかわからないの」晋太郎は立ち上がり、紀美子の携帯を受け取った。受話器を耳に当てた瞬間、ゆみの激しい泣き声が耳に届き、晋太郎の胸は締め付けられた。「ゆみ」晋太郎は低く厳しい声で言った。「もうわがままはやめろ」「お父さんまでそんなことを言うの？」ゆみの声は震えていた。「ただ友達と別れたくないだけなのに、何が間違ってるの？」「そこまでして彼を引き留めたいのか？どうしても彼じゃなきゃダメなのか？」晋太郎は反問した。「うん！」ゆみは強く言い切った。「澈くんがいいの！他の子たちはみんな嘘つき！！」「彼を引き止めたければ、自分で方法を考えろ。俺たちはもう一切口出ししない。自分の力でそれができないなら、文句を言うな！」晋太郎は冷たく言った。「私が？」ゆみはそれを聞いてすっかり泣き止んだ。「彼を引き止めたいのはお前だ。俺たちではない」晋太郎は紀美子の隣に座った。「そこまで自分の意見を押し通したいなら、自分で成し遂げてみろ」「あなた、そんなに厳しく言わなくても……ゆみはまだ小さいのに」紀美子は心配そうに晋太郎を見た。晋太郎は彼女を見て、黙ってと合図をした。 「泣いても、怒っても、何も解決しない」晋太郎は諭すように続けた。「もちろん思い通りにならないこともあるが、努力すれば思いがけない結果が待っているかもしれない」「わからない…」ゆみは膝を抱えて縮こまった。「わからなければ、理解しようとしろ。いつも誰かに頼ってばかりでは、何も成し遂げられない！」そう言って、晋太郎は電話を切った。「そんな言い方して良かったの？」紀美子はため息をついた。「甘やかす時は甘やかすが……」晋太郎はきっぱりと言った。「今はあの子のわがままを許す時ではない。彼女のためにならない」「ゆみ、一体どうしたんだ
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1344話 どうしたんだ？
「お前の言うことならなんでも聞いてやりたいと思っているが、こればっかりは手助けできん。別れは避けられないものだ。最初からそう伝えていただろ？」小林は首を振って言った。「でも……」ゆみは悔しそうに涙を拭いた。「『でも』はない」小林はゆみの泣く姿に胸を痛めつつも、慰めの言葉はできなかった。時には、子供に自分で理解させないといけない。生きていると、つまずくことも、無念さや悲しみを感じることも、もちろん喜ばしいこともある。これらを味わってこそ、人生なのだ。「ちゃんとお別れの挨拶をしてこい。後悔だけは残すな」ゆみに寄り添いながら、小林は再び口を開いた。「嫌だ！お別れなんてしたくない！お別れなんて大嫌い！」ゆみは、怒りに任せて叫ぶとベッドに飛び込んだ。そして、ゆみはより激しく泣きじゃくった。澈の家夕食の時、澈はほとんど箸をつけなかった。叔母に心配をかけまいと、少しご飯を口にするとすぐに席を立った。「澈、どこへ行くの？」庭へ出ようとすると、叔母が声をかけてきた。「ゆみに夕飯後に勉強を教える約束をしてるんだ」澈は振り返って答えた。「送ってあげようか？」「いいよ、すぐそこだし」そう言うと、澈は庭を出た。外に出ると、彼は急足で小林の家に向かった。明かりのついた小林の家を見上げ、澈はドアを叩こうと手を上げた。しかし同時に、午後ゆみが自分を無視した姿を思い出し、暗い表情で手を引っ込めた。彼はうつむき、しばらくドアの前で黙って立っていた。両親の事故以来、澈は叔母についてあちこち移り住んできた。学校も何度も変わり、新しい友達もたくさんできた。だが、心から打ち解けられたのはゆみだけだった。彼女の活発さや、思いやり、そして優しさはこれまで出会ったことのないものだった。そんな友達と今後会えなくなるのは本当に寂しい。しかし、周りに迷惑をかけるのは嫌だった。長い間立ち尽くした後、澈は深く息を吸った。あと2日しか一緒にいられないのだから、もう一度ゆみとちゃんと話さなければ。彼は叔母が言っていた言葉を思い出した。「お別れは大切なことだが、きちんと向き合うのは難しい」どれだけ難しくても、受け止めて向き合わなければ。再び勇気を出してドアを叩こうとしたその時、
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1343話 幸せな家庭を築いて
「させない」晋太郎はきっぱりと答えた。「たとえ君が何を考えていようと、今から永遠に君は俺のものだ。『妻』、これからもよろしくな」「これからもよろしくお願いします」紀美子は優しく微笑んで返事した。晋太郎の視線はゆっくりと紀美子の唇に落ちた。彼は彼女の腰を自分の方へ引き寄せると、身をかがめ、紀美子の柔らかい唇にキスをした。「末永くお幸せに！」客席で晴が興奮して立ち上がった。「紀美子、ずーっと幸せでいて！」佳世子も立ち上がって叫んだ。賓客たちも一斉に声を上げた——「末永くお幸せに。幸せな家庭を築いて！」……冬休みが始まる3日前 ゆみは机の中の持ち帰るものを整理し、隣で澈も一緒に荷造りをしていた。「澈くん、あと2日したらまた学校に戻るじゃない？前は今年の休みに帝都に帰る予定って言ってたけど、正確にはいつ頃なの？」ゆみはカバンに荷物を詰めながら尋ねた。「ゆみ、ちょっと話がある」澈は手を止め、少し俯きながら静かに言った。「なに？」ゆみは顔を上げた。「来年、僕はここには戻らない」澈の声は淡々としていたが、表情には悔しさが滲んでいた。「戻らないって……帝都の学校に行くの？」ゆみは目を見開いて言った。「うん、叔母さんが帝都で仕事をすることになって、一緒に行くんだ」澈は頷いて答えた。「澈くん、叔母さんに頼んでみてよ！ダメなら小林おじいちゃんと一緒に暮らせばいいじゃん！この前だって、おじいちゃんと一緒に楽しく過ごしてたじゃない！」それを聞いたゆみは急いでカバンを放り出した。「叔母さんは許してくれないよ。あの時も、おじいちゃんに迷惑かけたってずっと気にしてたから」澈はゆっくりと首を振った。「本当に行っちゃうの？」ゆみの目は赤くなった。「うん」澈はゆっくりと息を吸い込んだ。「ゆみ、連絡手段はあるし、また遊べるよ」「それでも、会えなかったら友情なんて長く続かないよ！」ゆみの声は弱々しくなった。「やっといい友達ができたと思ったのに……」彼も同じ気持ちだった。澈は心の中でそう呟いた。「もういい！」澈の返事を待たず、ゆみは涙を拭い、むくれながら言った。「澈くんがいなくたって、他の友達作るもん！」 ゆみが怒りながら急いで荷
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1342話 今ならまだ間に合う
「ゆみ、まさか澈を家に泊めているんじゃないだろうな？」念江も頭を抱えた。「いや、それもありえるな」佑樹は拳を握り締めた。「もし今携帯があれば、あいつに電話してめちゃくちゃ叱ってやれるのに！」「諦めろ。今の僕たちにはどうしようもない。きっとお父さんが、ゆみのことちゃんと見ててくれるさ」念江はため息をつき、首を振った。「帝都でならともかく、こんな遠く離れた場所にいては何もできない！」佑樹の目つきはスクリーンを突き抜けそうなほど鋭くなった。結婚式会場。ゆみと澈は、並んで歩きながら紀美子の前に花びらを撒いた。その後ろで、紀美子は裕也の腕を組んで、ゆっくりと歩みを進めた。前方では、晋太郎が黒のスーツを着て背筋を伸ばして立ち、紀美子を見つめていた。晋太郎の前に到着すると、ゆみと澈はそのまま手を繋いでステージを降りた。裕也は、晋太郎に軽く頷き一息ついてから、そっと紀美子の手を晋太郎の手の上に置いた。「晋太郎、今日から紀美子を君に託す」裕也の目は少し赤くなっていた。「これからはちゃんと守って、愛してやってくれ」「全てを尽くして、最高の人生を送らせる」晋太郎の熱い視線は紀美子に注がれ、重々しい表情で誓って言った。「紀美子、おじさんはこれで失礼するよ」裕也は満足そうに頷き、紀美子に言った。「ありがとう、おじさん」紀美子は鼻に奥が少しツンとなった。裕也は頷き、背を向けて去っていった。紀美子は裕也の後ろ姿を見送り、それから晋太郎を見上げた。二人は顔を見合わせて微笑み、会場の賓客たちに向き直った。二人の式には進行役がいなかったため、余計な言葉もなく、式は淡々と進められた。ゆみが再びステージに駆け上がり、小さな箱を二つ持って紀美子と晋太郎の前に立った。「お父さん！世界一きれいなお母さんに指輪をはめてあげて！」「お母さん！世界一かっこいいお父さんに指輪をはめてあげて！」ゆみの言葉に、客席からは爆笑が起こった。紀美子と晋太郎はゆみの言う通りに、お互いの指に指輪をはめた。「えーっと、今日から、お二人は幸せな夫婦です！」ゆみは小さな拳を口元に当てながら言った。「お父さん、お母さんを世界一幸せな女性にするんだよ！生死を問わずお母さんの夫でいること！もし心変わりしたら
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1341話 誰だこいつは？
すると、本当に紀美子のウェディングシューズが見つかった。「あったあった！」晴はシューズを取り出して晋太郎に渡し、得意げに佳世子を見た。「見たか？晋太郎の頭の回転の速さ！紀美子がヒントを出さなくても、見つけれたじゃないか！」「はいはい、もうわかったわよ！晋太郎さん、早く紀美子に靴を履かせてあげて！」晋太郎は、シューズを手に紀美子の前に歩み寄った。片膝をつき、紀美子の白く透き通るような足を優しく持ち上げ、シューズを履かせた。紀美子は顔を真っ赤にしながら、優しい表情で靴を履かせてくれる晋太郎を見つめた。彼は、甘い言葉も、愛を込めた視線も与えてくれなかったが、その優しい仕草には彼女への思いやりが溢れていた。「キスだ、キス！！」シューズを履かせ終えると、傍にいた隆一が興奮して叫んだ。晋太郎は一瞬固まったが、すぐに鋭く隆一を睨みつけた。隆一はわざと無視し、晴を引き込んで一緒に煽り始めた。瞬く間に、部屋中が騒ぎに包まれた。晋太郎は紀美子を見上げ、紀美子も彼を見つめ返した。紀美子の透き通るような瞳を見て、晋太郎は思わず喉を鳴らした。紀美子は、恥ずかしさに耐えられず目を逸らした。「時、時間がもう……ん……」晋太郎は、紀美子がまだ言い終わらないうちに、彼女の後頭部を押さえ身を乗り出してキスをした。周りの人々は興奮し、携帯を取り出して撮影しようとしたが、晋太郎はすぐに紀美子を離した。「わあ、あと少しで撮れたのに！」「そんなに急がなくてもいいだろ？ちょっと見せてくれても損はしないのに！」「行くぞ！」晋太郎は彼らを無視し、ベッドに座っている紀美子を抱き上げた。隅で騒ぎを見ていた肇は、急いで赤い封筒の入った箱を出して、ブライズメイドたちに配った。……夜の披露宴は、街中の注目を集めた。特別に入場を許可された記者たちは、カメラを高く掲げてライブ配信を行った。同時に、この結婚式はA国にいる二人の子供たちの目にも届いていた。「お母さん、本当にきれいだ」念江はスクリーンの前で感嘆した。「お父さんが用意した演出もすごい」佑樹の目には満足の笑みが浮かんでいた。「佑樹、これで、お父さんがお母さんをちゃんと守ってくれてるって安心できただろう？言わなくてもわかってたよ。A国に来てから
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1340話 そんなに早く花嫁になりたいの？
彼は足を進め、ゆっくりと紀美子に向かって歩み始めた。紀美子の前にたどり着く前に、突然数人の影が飛び出してきた。「森川社長！」佳世子は悪戯っぽく彼を見ながら言った。「紀美子、すごく美しいでしょう？」晋太郎は少し気を取り直したが、視線は依然として恥ずかしさで顔を上げられない紀美子に注がれていた。「うん」彼は惜しみなく褒めた。「驚くほど美しい」「そうでしょう！こんなに美しい紀美子を、私たちが簡単に渡すわけがないじゃない？」佳世子は晋太郎に罠を仕掛けていた。晋太郎は佳世子たちが本気だと悟った。付き人たちが先ほど翻弄されたのを見れば、自分も簡単には紀美子を連れ出させてもらえそうにない。晋太郎はさりげなく眉を上げた。「言ってみろ、条件は何だ？」「簡単なことよ」美月が口を開いた。「社長が3分以内に紀美子のウェディングシューズを見つけられたら、紀美子を連れて行ってもいいわ」晋太郎は部屋を見回した。「それだけ？」「それだけ？」瑠美は舌打ちした。「晋太郎兄さん、そんなに甘くないわよ。彼女たちの隠した場所は絶対に予想できないわ」晋太郎は軽く笑ってから、紀美子に向かって歩き出した。近づく足音に、紀美子はきょとんとした表情で晋太郎を見上げた。紀美子の前に立つと、晋太郎は腰をかがめ、さっと彼女の腰に腕を回した。「きゃっ！」という紀美子の声とともに、彼は軽々と彼女を持ち上げた。シューズが紀美子の下にあると思った彼は、ベッドに何もないのを見て軽く眉をひそめた。「ここじゃないわ！早く下ろして！」紀美子は急いで彼を押しのけ、ベッドに戻った。「プッ」佳世子は噴き出した。「森川社長、どうしてウェディングシューズがドレスの下にあると思ったの？」晋太郎の表情がさっと険しくなり、着替えを終えて戻ってきた晴と隆一を一瞥した。二人は晋太郎の険しい視線にきょとんとした。「どうしたんだ？」ゆみは訝しげに尋ねた。「お前たち、ウェディングシューズはドレスの下に隠すものだと言ったな？」晋太郎は歯を食いしばるように言った。「だが紀美子の下には何もなかった」隆一は目を見開いた。「ない？！そんなはずが！」「よく考えてみて。時間はあまりないわよ」美月は唇を手で覆っ
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1339話 代わりになんかないのか？
佳世子はにっこり笑って言った。「こっそり準備しておいたの。心配しないで、旦那さんを困らせるつもりはないから」旦那さん……紀美子の顔は一瞬で真っ赤になった。瑠美はドアのそばに歩き、外に向かって叫んだ。「入ってきたいの？」「もちろん！早く開けてくれ！」瑠美は笑いをこらえながら言った。「向かいの部屋に、ワンピースを5着用意してるわ。それを着たら、ドアを開けるよ！」ドアの外で、晴と隆一たちは顔を見合わせて驚いた。「マジかよ……俺たちがワンピースなんて！」晴は思わずツッコミを入れた。隆一はすぐに彼の腕を掴んで、小声で言った。「ただ、着たって言えばいいだけだろ？どうせ向こうは見えないし」「ずるは許さないよ！」彼らがどうするか悩んでいると、瑠美の声が再び部屋から聞こえてきた。「ワンピースを着たら、佳世子姉さんに写真を送ってね。さもないと、ドアは開けないから！」隆一は目を細めた。「こんな変態ゲーム……代わりになんかないのか？」「ないよ！」晴と隆一らは晋太郎に助けを求めるような視線を向けた。「晋太郎、ただのドアだろ？いっそのことボディガードに壊させちゃえばいいんじゃないか？俺たちの面子がかかってるんだから！」晋太郎は微笑みながら彼らを見て言った。「これはお前たちの仕事だ。壊すかどうかはお前たち次第だよ。もちろん、ワンピースを着るのは構わないけど」「ダメだ！！」他の付き人たちが抗議した。晴は力強く頷きながら言った。「もちろんダメだ！ボディガードに頼んでドアを壊させろ！！」「ドアを壊す？」突然、佳世子の声が部屋から響いた。晴は思わず体を固くして、口を開く暇もなく、佳世子が再び言った。「晴、またそんなバカなこと言うなら、今夜は玄関で寝て！」その言葉に、付き人たちは一斉に晴を見つめた。男としての意地を見せてほしいという視線だった。晋太郎さえも興味深そうに晴の反応を待っていた。重い空気を感じた晴は、咳払いをしてドアに向かって叫んだ。「え、えっと……佳世子！冗談もほどほどにしろよ！今すぐドアを開けないと、俺が……」「このままじゃ婚姻届を出すかどうか、考え直させてもらうわよ！」晴がまだ言い終わらないうちに、佳世子の警告が再び部屋から響いた。「分
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1338話 突破もなにも
お正月。結婚式当日、都市全体が花火を打ち上げた。百台の高級車が並ぶその様子は、帝都史上最も豪華な結婚式と言えた。記者たちはカメラを担いで花嫁の車列を追いかけたが、新郎新婦の姿を捉えることはできなかった。車列が渡辺家の門前に到着すると、肇が助手席から降り、後部座席のドアを開けた。長い脚が車内からすっと伸び、花束を手にした男性が、気品と威厳を纏ってゆっくりと車から降りてきた。彼は二階の紀美子の部屋を見上げ、唇端に微笑を浮かべた。晴と隆一が彼のそばへ駆け寄った。「晋太郎」隆一が渡辺家の庭を指して言った。「翔太が大勢引き連れて玄関前で立ちふさがってる。俺たちじゃ、とても突破できないぞ」「突破もなにも！」晴はわざと大声で言った。「ボディーガードに排除させればいいじゃないか！」それを聞いた翔太は笑いながら返した。「ボディーガードを通しても、上の関門はさらに厳しいぞ」「結婚式なんだから、これくらいの手順は踏まないと！ボディーガードに俺たちを無理矢理どかせるなんて、ちょっとズルいじゃないか？」「我々はともかく、紀美子の叔父さんがここで見張っているよ。晋太郎、これは力技では無理だよ」晴は頭を掻きながら言った。「紀美子の叔父さんが守ってるのに、無理に押し通すのはちょっとまずいな……」「ご祝儀を渡せ」晋太郎の指示で、肇は助手席から紙箱を取り出した。中にはたっぷりのご祝儀袋が詰まっていた。晋太郎がうなずくと、肇はその箱を抱えて門の前に歩み寄り、一束のご祝儀袋を取り出して差し出した。「渡辺様、お願いですから邪魔しないでください。晋様を入江さんの元へ通してください」中からご祝儀を受け取った者がそれを撫でながら言った。「これだけでは晋太郎の財力が示せないな！箱ごとよこせ！」肇はたじろいだ。残りは上の階のブライズメイドたちへの分も入っている。ここで全部使ってしまってはまずい。「そ、それはちょっと……」「なんだよ！図々しすぎるだろ！」隆一が我慢できず、ボディーガードに向かって叫んだ。「ここを通してくれないっていうなら、ちょっと手荒にいくぞ！」晴も続いて叫んだ。「みんな庭に飛び込んで、全部どかしてしまえ！」「わかりました！」ボディーガードたちは一斉に返事を
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1337話 思っていたよりもずっと欲張り
晋太郎はサキュバスクラブの店の前に立ち、空を覆う無数のドローンを見上げながら静かに口を開いた。「……俺は、サキュバスクラブにいる」「そこにいて。すぐに会いに行くから！」晋太郎は視線を空から戻し、眉をひそめて尋ねた。「一人で？」「うん」紀美子は感情を抑えながら言った。「あなたに会いたい。今すぐ会いたい！」「ホテルで待ってろ！」晋太郎は車に向かって歩き出した。「一人で来させるわけにはいかない。その場を動くな！」紀美子は携帯を強く握りしめ、目頭からは涙が溢れた。「あなたバカじゃない？」紀美子は声を震わせて言った。「私なんかのために、ここまでする価値なんて……」晋太郎は少し驚いた様子を見せたが、すぐに唇を軽く上げて車に乗り込んだ。その黒く深い瞳には優しさが満ちていた。「紀美子、君のためなら何でもする。それに、これはただの物にすぎないんだ。明日から君は俺の妻だ。財産も、命さえも、喜んで捧げる」紀美子は声を詰まらせた。「そんなもの要らないの。私が欲しいのはあなたの心だけ」晋太郎は紀美子のいる方向へ車を走らせながら、冗談めかして言った。「そう言われると、君は俺が思っていたよりもずっと欲張りだね」紀美子の泣き声がぴたりと止まった。彼女は顔を上げ、どんよりとした声で尋ねた。「どういう意味？」晋太郎は微笑みながら答えた。「今受け取ろうとしてるのは、これまでの俺の全財産だ。だが心まで欲しいとなると、俺という人間全てが君のものになる。俺が生きている限り、結婚式のプレゼント以上の富をまた生み出せる。そう考えると、君はかなりの欲張りじゃないか？」紀美子は一瞬、彼の言う理屈に頭が追いつかなかった。反応した後、彼女は思わず笑い出した。「バカみたい」「間違ってるか？」「いいえ」紀美子は深く息を吸い、再び空を見上げた。無数のドローンが織りなす光景──それは、彼女のためだけのものだった。「晋太郎、ありがとう」晋太郎の声がさらに柔らかくなった。「何に？」「私を選び続けてくれて。諦めずに探してくれて。私だけを見つめてくれて。そして……私と手を取り合って、ずっと一緒にいてくれてありがとう……」「バン——」紀美子がそう言い終わると同時に、空に鮮やかな花火が打
