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第1283話

Author: 夜月 アヤメ
千景は急いでスマホを取り出し、若子に電話をかけた。

だが、返ってきたのは「電源が入っていません」という冷たい音声。

千景は眉をひそめ、胸に嫌な予感が走った。

さっきまで警察が若子と連絡を取っていたはずなのに、なぜ今は繋がらない?

若子が一人で出かけて、赤ちゃんを家に残していくなんて、絶対にありえない。

家の中から聞こえる赤ちゃんの泣き声はますます大きく、切迫感が増していく。

千景は焦りでいっぱいだったが、暗証番号が分からない。

それでも、今すぐどうしても中に入らなければならない。

あたりを見回し、人目がないことを確かめると、懐から銃を取り出し、サイレンサーを装着した。

そして銃口を電子ロックに向けて、素早く二発撃ち込む。

パスワードロックは壊れ、千景はすぐにドアを開けた。

中に入ると、暁が床に転がって、声を限りに泣いているのが見えた。

千景が駆け寄ろうとしたその瞬間、天井から電気ネットが降ってきた。

咄嗟の反射で、千景は床を転がりながら避ける。

電流がビリビリと流れるネットが床に落ちる。

もしも今のが体にかかっていたら、きっとその場で気絶していただろう。

部屋を見渡すと、若子がここに厳重なセキュリティを施していたのがよく分かった。

どうやらドアが壊された時点で、システムが「強制侵入」と認識して自動的に防御装置が作動する仕組みになっているらしい。

千景は頭を振り、細かいことを考える暇もなく、すぐに暁を抱き上げ、電気ネットから離れた。

「暁、ママはどこに行った?ママは?」

「ママ......いない......ママ......」暁は泣きながらも必死に「ママ」と呼び続けている。

千景は、このままでは近所に泣き声が響いてしまうと心配になり、暁を寝室に連れていき、あやした。

「大丈夫だよ、叔父さんがいるからね」

千景の腕の中で、暁はやっと泣き止んだ。

千景はそっと暁をベッドに寝かせ、オムツが濡れているのに気づいて、すぐに替えてあげた。

続いて、粉ミルクを作って飲ませると、暁は夢中で哺乳瓶に吸いつき、すぐに落ち着いてくれた。

千景は暁を揺りかごに寝かせ、家の中とリビングをくまなく見て回った。

若子が家にいないのは明らかだ。

絶対に子どもだけを家に置いて出かけるような人じゃない。

しかもスマホも繋がらず、厳重なセキュリティも
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Comments (3)
goodnovel comment avatar
hayelow488
ノラ!腹立つ! ボコボコにしてやりたい! 若子は、警戒心がなさすぎたので仕方ないけど、修は悲惨すぎる。。命の危機、これで何回目よ。 千景は命掛けで、若子を守るんだろうな。 ノラとの対決で悲しい結末になりませんように。
goodnovel comment avatar
シマエナガlove
修大丈夫なのか どれくらいの事故か 若子は自業自得 言わされたとしても 毎回修傷つけてるから もう信用されない 最終的にはノラにも西也にも騙されて 寄ってくる人善良だと勘違いして 結局拉致されて 乱暴されないでいられればいいけど ノラ凶暴だし 薬飲まされてるからな ヴィンセントが修に監視カメラ見せたら 何か動くかもしれないけど そろそろ終わりに近づいてる? バットエンドって感じる
goodnovel comment avatar
barairose88
これほど不快で、辛い更新はあったでしょうか…  ノラ、若子への偏愛、修へ凝り固まった常軌を逸した妬み、変質行動!! こんな嫌悪感溢れる横暴が一切、許されるわけはない! 修はきっと無事なはず! あの耐え難い言葉の数々にも怯まず、真実を見極めたはず! あなたこそが、若子を救い出すのです。 そして千景、やはりあなたはすごい! その冷静な行動と判断が救いです。
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