えっ、市立病院?自分を担当してくれている看護師は新人なのか、まだ自分の素性を知らないようだ。凛音はぐっと拳を握りしめると、重い足取りで病室の入り口へ向かった。すぐ横のナースステーションでは、新人看護師たちが世間話をしている。彼がどれほど結衣を溺愛しているか、その噂はもう院内に広まっているようで、会話の端々に善紀の名前が出ていた。張り詰めた神経が疼くように脳を刺し、凛音は指先が自分の掌に深く食い込むほど、強く握りしめた。しばらくの間、動けなかった。凛音は踵を返し、自分の病室へと戻る。善紀と直接対峙するつもりだったが、看護師たちの会話を聞いて、もはやその必要はないと思った。善紀の行動なんて、結局は結衣の機嫌取りに過ぎない。今さら言い争ったところで何が変わるのだ?善紀の性格からして、どうせ変わらないし、かえって刺激して余計な罠を仕掛けられたらたまらない。善紀、そして結衣。そっちがそのつもりなら……思う存分遊んであげるよ。……凛音は2日間ほど病室で静かに過ごした。退院して家に戻ると、偶然にも宗厳が帰ってきていた。「日中からマスクなんてして、どうしたんだ?」宗厳は怪訝そうな顔でそう言ったが、大したことではないと思ったのか、手をひらひらさせて続ける。「ちょうどいい。話があるんだ。明日、結衣が退院する。退院祝いの食事会を開くから、お前も出席しろ」それは有無を言わせぬ強い口調だった。凛音は思わず苦笑いを浮かべる。こっちだって、つい今しがた退院してきたばかりだというのに。2日間も行方がわからなかった娘に対し、心配する言葉一つなく、結衣の退院祝いの食事会へ参加しろだと?凛音は息を飲み、冷たく言い放った。「行かない」「なぜだ?」宗厳の眉が険しく吊り上がる。「結衣が入院することになったのは誰のせいだ?お前に不満があるのかもしれんが、結衣は無実だ。それに、あの子はお前の唯一の妹なんだから、仲良くできるのも、あとどれだけ残っているか分からんのだぞ……」「結衣、もう死ぬの?」宗厳は虚を突かれた顔で、言葉の真意を測りかねていた。「そうでなきゃ、そんな言い方はしないでしょ?」凛音は嘲笑を浮かべた。「それとも、また私の知らないところで何か企んでるの?」凛音の目は真っ直ぐで透き通っていて、
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