「池本彩」という名前を見て、司の理性が戻ってきた。
そのとき、彼は混乱していた。服は半分濡れていて、体にキスされた跡があり、呼吸もまだ乱れていた。さっき、彼は欲望を感じたのだ。
彼は真夕に対して欲望を感じた!
彼は真夕のことが好きではない。欲望を感じた原因を、男として一人の美女の誘惑に抵抗できなかったからだと自分に言い聞かせた。
司は電話に出た。彼は彩に対し罪悪感を持っていた。罪悪感が強ければ強いほど、彼女を憐れむ気持ちも強くなってきた。その声も普段より幾分優しくなった。「彩」
彩の側からはヘビーメタルの音楽が聞こえた。彼女は甘い声で言った。「司、今バーにいるの」
司「お酒を飲んじゃいけないよ。秘書にミルクを注文させて」
彩「わかったわ。私の秘書なのに、あなたの言うことを聞くのね。司、一緒に遊びに来てよ。待っているから」
司は振り返って、出ようとした。
しかしその時、ある小さな手が伸びてきて、彼のシャツの袖を掴んだ。
司が振り返ると、真夕は全身が濡れていた。ストラップのドレスがびしょ濡れで体に密着し、その体の曲線を際立たせていた。彼女は目を赤くして、必死に彼を引き止めようとした。
司は動いて、彼女の手から袖を引き抜こうとした。
しかし真夕は執拗に引き止め、目をさらに赤くして彼を見つめた。
司が話そうとした時、真夕が飛びついてきて、彼を抱きしめた。彼女は彼の耳元で囁いた。「行かないで、お願い」
何年も経っているうちに、真夕はもう大人になっていた。しかし、彼女は自分が依然として一人にされることを恐れていることに気づいた。
彼女は人混みの中に一人立っているのが怖いのだ。
司が真夕に絡みつかれてどうしようもないそのとき、彩の声が向こうから聞こえてきた。「司、聞いている?早く来てよ」
真夕はつま先立ちになり、突然軽く叫んだ。「お兄ちゃん」
お兄ちゃん!
この呼び方は、あの子だけのものだった。
しかし、あの子って彩じゃなかったのか?
司は突然顔色を変えた。「彩、ちょっと急用があるから、そっちへ行けないよ」
電話を切り、司は真夕を壁に押し付け、彼女を鋭く見つめた。「急にどうしてお兄ちゃんと呼んだんだ?真夕、君って一体誰だ?」
真夕は彼の首に手を回し、直接彼の薄い唇にキスした。
彼女の柔らかく紅い唇が突然押し寄せ、芳しい香りが広がった