一発殴られたいのか？
司の目が鋭く光った。その瞬間、彼と和也の間には火花が散り、空気が一気に緊張に包まれた。
彩は衝撃を受けた。まさか和也が真夕のために司と喧嘩しようとするなんて思いもしなかった。
この二人は幼馴染なのに。
彩はすぐさま真夕を非難した。「あなた、満足したでしょ？男を誘惑して、男同士を喧嘩させるなんて、ほんとたいしたやり手だね！」
「君もいい加減にしろ！」和也が拳を握りしめた。
その時、真夕が手を伸ばして和也を止めた。「常陸さん、もういいよ。私のことで揉めないで。そんな必要ないから」
和也は真夕を見つめた。「違うよ、真夕。君にはその価値がある」
真夕の胸に、じんわりと温かいものが広がった。
その時、和也は自分のコートを彼女の肩にかけ、その小さな手をそっと握った。「真夕、行こう。ここは面白くない。帰ろう」
和也は真夕を連れてその場を離れようとした。
真夕「ちょっと待って」
和也は手を放した。真夕はスマホを手に取り、「常陸さん、行こう」と微笑んだ。
和也は口元をほころばせ、また真夕の手を握った。「じゃあ行こう」
ほどなくして、「空の間」には司と彩だけが残された。彩は言った。「司、和也が真夕のためにあなたとの友情まで捨てるなんて。あいつって本当に妖女だわ！」
司の整った顔は氷のように冷たかった。彼は突然長い脚を振り上げ、ゴミ箱を思いきり蹴り飛ばした。
「ガシャーン」という音が部屋中に響き渡った。
その光景を見て、彩は赤い唇をゆがめて微笑んだ。実は、コンドームとランジェリーをルームサービスに頼んだのは彼女だったのだ。これで目的は果たした。
司は腰に手を当て、胸の怒りを鎮めるように深呼吸した。「俺たちも帰ろう」
彩は機嫌がよかった。このバカンスは思い通りに進んでいる。「うん、舞を呼んでくるわ」
彩は部屋を出て、舞を探しに行った。ちょうど回廊で、向こうから歩いてくる虎兄に出くわした。
虎兄は部下を引き連れ、部屋に戻ろうとしていた。「まったく使えねぇ。温泉なんて狭いのに、女一人も見つけられねぇとはな！」
「虎兄、ほんとに全部探したんですけど、あの女、まるで消えたみたいで……」
「俺たち、あの女の顔は見てねえんっすけど、赤いビキニを着てたのは覚えてます」
彩の足が、ぴたりと止まった。赤いビキニ？それって、真夕じゃない？
