この男！
真夕は怒りに震え、つま先立ちになりながら司の唇の端を噛みついた。
司は痛みに顔をしかめ、口の中にほんのりと血の味が広がった。彼女は彼を噛んで血を出させたのだった。
司は手を伸ばし、彼女の小さな顔をつかんで無理やりすぼめた。彼の目には怒りの色が浮かんだ。「君、子犬か？ そんなに噛むのが好きなのか？」
真夕は負けじと彼をにらみつけた。「それよりも、明日どうやって彩に唇の傷を説明するか考えたほうがいいんじゃない？和也があなたの女を引き継いだのと同じように、彩も私のお下がりを受け取ることになるわね？」
司は言葉を失った。誰がお下がりだって？
この忌々しい女め！
「お互い自由にしてもいいが、和也だけは絶対にダメだ！」
「なんで？」
司にとって和也は兄弟同然の存在で、和也だけは司が耐えられないからだ。
司はじっくりと真夕を見下ろした。「君、本気で和也が君に惹かれると思ってるのか？ 夢を見るのもほどほどにしろ。せいぜいダンスフロアで腰を振るくらいしか能のない、十六歳で学校もやめた田舎娘だぞ？学歴も仕事もない君に、和也の見る目がそこまで落ちるわけがない。せいぜい新鮮さを楽しむだけで、すぐに飽きるだろうよ」
真夕「……」
結局、彼は彼女を見下しているのだ。
男って、そういうものなのかもしれない。自分が興味を持たないものは、他の誰にも触らせたくない。
真夕は怒るどころか、にっこりと微笑んだ。「今日のダンス、よかったの？」
司は一瞬、言葉を失った。「……何だと？」
真夕は力いっぱい彼を突き飛ばした。「これから毎日和也に見せるわ。毎日違う踊りをね。新鮮さは保証するわ」
そう言うと、真夕は司を無視し、階段を上がっていった。
司「……」
池本真夕！！！
真夕が寝室に入ると、司は不機嫌そうに後を追ってきた。
「おばあさんの体調が悪いから、離婚の話はしばらく保留だ。夜はちゃんとここに泊まって、俺と仲の良い夫婦を演じろ。分かったか？」
冷たかった口調だったが、大奥様のこととなると真夕も異論はなかった。
彼女は司を見つめ、優雅に微笑んだ。「私は構わないわ。ただし、彩は待てるかしら？」
司は冷たい視線を投げた。「君はベッドで寝ろ。俺はソファで寝る。先にシャ
