あの時、彼女はどれほど痛かったのだろうか?
司はそっと彼女の柔らかな腰に手を添え、彼女への哀れみが心に湧き上がったのを、否応なく感じていた。
司は顔を伏せ、彼女の顔に近づいた。目覚めたばかりの声には、まだ少し寝起きのかすれが残っていた。彼は低く囁いた。
「真夕。俺、痛くさせちゃったね。ごめん」
彼は静かに「ごめん」と彼女に言った。
夢の中の真夕はなんの反応を示さなかった。彼女の呼吸は浅く、まるで一本一本の髪の毛までが香り立つようで、柔らかだった。
司の喉は、熱い炭が転がるような感覚に襲われた。彼女の若く瑞々しい、魅力的な身体を見ていられなかったが、それでも衝動は抑えきれず、司はそっとその香る髪にキスをしたくなった。
もうすぐ唇が触れるというとき、真夕が「んん……」と声を漏らし、ゆっくりと目を開けた。
彼女は目を覚ました。
司は瞬時に理性を取り戻し、自分が何をしようとしていたのかに気づき、愕然とした。
なんと、彼は真夕の髪にキスしようとしていたのだ!
あれほどの女を見てきた司が、真夕ごときに我を忘れるとは。
司はすぐに彼女から手を離し、布団をめくってベッドを降りた。
真夕はベッドから起き上がり、何も知らずに小さな拳で目をこすりながら、「起きたの?熱は下がった?」と聞いた。
真夕はベッドを降り、司の額に手を伸ばした。
だが、触れる前に司が彼女の手をはねのけた。
真夕は戸惑った。
ただ額に触れようとしただけなのに、こんなに大げさな反応をするの?
司はそのままシャワールームへ向い、「シャワーを浴びてくる」とだけ言った。
すると、シャワールームの中からすぐに「ジャーッ」という水の音が聞こえてきた。彼は冷たい水でシャワーを浴びていた。
真夕は困惑した。「司、朝からなんで冷水シャワーなんか……背中の傷、水に濡らしちゃダメよ。聞こえてるの?」
司は返事をしなかった。
真夕は自分が心配しすぎたのかと思った。朝っぱらから一体彼は何を考えているのか……まあ、放っておこう。
夜、バー1996にて。
司は豪華なボックス席で辰巳を見つけた。「俺が頼んだものは?」
「ちゃんと持ってきたよ」
辰巳は薬用酒が入った瓶を取り出した。
小山家に代々