「......」
初はそう言ってドアを開け、奈津美に車へ促した。
「滝川さん、緊張しないでください。この界隈の人間は、他の世界の人とはほとんど知り合いません。経済状況が似通っているからです。私が滝川さんに何か下心があると疑う必要もありません」
「下心があるとは思いませんけど、ただ単純に、どうして冬馬があなたに私の治療を頼んだのか不思議で」
「それは、滝川さんが彼に聞くべき質問でしょう」
「あなたは彼と親しいんですか?」
「まあ、友達ですね」
「彼のような人に、友達がいるんですね」
奈津美には想像もつかなかった。
冬馬のような人間と付き合うのは、どれほど恐ろしいことだろうか。
「滝川さんはまだ冬馬をよく理解していませんね。彼は確かに外面は悪いですが、深く知れば知るほど、その悪質さが想像以上だということが分かります」
「......」
初のジョークに、奈津美は苦笑いを浮かべた。
面白くない。
全く面白くない。
彼女は今、それを身をもって実感していた。
初は車を走らせていたが、途中で奈津美は異変に気づいた。「私のマンションとは違う方向に向かってる」
「滝川さん、鋭いですね」
初はわざわざ奈津美のマンションの前を通り過ぎ、3回も曲がったというのに、奈津美は違う方向に向かっていることに気づいたのだ。
「どこへ連れて行くの?」
「冬馬から連絡があり、必ず滝川さんを連れてくるようにと言われました」
初は意味深に言った。「どうやら冬馬も、ついに恋をしたようですね」
「佐々木先生、その冗談、全然面白くないわよ」
「冗談はさておき」
初は言った。「あなたを呼んだのは、真面目な話があるからです。彼があなたに気があるからではありません。冬馬が女性を好きになったところを、私は見たことがありませんから」
「まさか......彼は男が好きなの?」
奈津美がそう尋ねると、初は一瞬黙り込み、それから彼女にシーッという仕草をした。「シーッ、私は何も言ってませんよ」
奈津美は苦笑した。
前世、冬馬が綾乃に狂おしいほど惚れていたことを知らなければ、奈津美は初の言葉を信じなかっただろう。
しばらくして、初は入江家の屋敷の前に車を停めた。
奈津美は初と一緒に車から降り、冬馬がこんなところに住んでいるとは信じられなかった。
「この家...... 20