冬馬は2階にいた。この古い屋敷にはエレベーターがない。
奈津美は重傷を負っているので、初に支えられながら、ゆっくりと階段を上った。
二人が2階の書斎の前に着いた時には、奈津美の額には汗がにじんでいた。
「冬馬、わざとでしょ? リビングで話せばいいじゃない」
初はため息をつき、諭すように言った。「冬馬はそんな人ではありません......ただ、君をからかっているだけかもしれません」
牙は二人の会話を聞いて、思わずまぶたがぴくぴくとした。
書斎のドアが開いた。
冬馬はテーブルに座り、二人に席を勧めた。
奈津美は冬馬の書斎が他の人とは全く違うことに気づいた。ここには事務机も椅子もなく、ソファとテーブルしかない。
先日、冬馬が神崎に来た時は、神崎ホテルに滞在していたはずだ。
この様子だと、この家を買って、神崎に住むつもりなのだろう。
「何ぼーっとしてるんだ?」
冬馬は奈津美を見て言った。「座れ」
初は奈津美を支え、ソファに座らせた。
奈津美は足をひきずって歩いていたので、滑稽に見えた。
「入江社長、私に何か用? 遠回しな言い方はやめて、はっきり言って」
わざわざここに来たことが涼にバレたら、また面倒なことになる。
「金はすでに滝川グループに振り込んである。これは、滝川グループへの贈与株式だ」
そう言って、冬馬は奈津美の前に契約書を置いた。
奈津美は契約書に書かれた「入江グループ株式譲渡契約書」という文字が目に入った。
奈津美は契約書を開く勇気がなく、恐る恐る尋ねた。「......どれくらいくれるの?」
「たいしたことはない、10%だ」
奈津美は息を呑んだ。
10%が、たいしたことはない?
「冬馬、冗談じゃないわよ! 10%って、入江グループの大株主じゃない! あなたが何かやらかしたら、私も巻き添えを食らうのよ! 私が何かした? 何で私を陥れようとするのよ!?」
「滝川さん、落ち着いて」
初は奈津美をソファに座らせ、非難するように冬馬を見た。「冬馬、それはないだろう。親切に土地を売ってあげたのに、恩を仇で返すのか?」
こんなやり方じゃ、女性は振り向かない。
冬馬は落ち着いて言った。「この10%の株式は、毎月莫大な利益を生み出す。俺の好意なのに、滝川さんは誤解しているようだな」
「冬馬、私はバカじゃない。あなたが海外でどん