奈津美は興奮して腕を上げようとした拍子に、傷に響いてしまった。
奈津美のそそっかしい様子を見て、冬馬は思わず微笑んだ。
初は長年の付き合いがある冬馬が、こんな表情をするのを見たことがなかった。彼は思わず奈津美に視線を向けた。
なかなか面白い女性だ。
初はまるで冬馬の弱みでも握ったかのように、不敵な笑みを浮かべた。
「もう復讐は済ませたが? まだ怒っているのか?」
「殴られたのは私よ、あなたじゃない。あなたもボコボコにされてみなさいよ」
奈津美も反撃できなかったわけではない。ただ、相手が多すぎたのと、腕に怪我をしていたので、多勢に無勢だったのだ。
もう一度やり直せるなら、今度こそ負けない。
「初、彼女の怪我はどうだ?」
初は言った。「女のわりに、結構ヤバいね。他は擦り傷くらいだけど、手と腕の傷は深い。もうちょい強く殴られてたら、滝川さんの手、使えなくなってたかも」
「見せてみろ」
冬馬は奈津美に手を差し伸べた。奈津美は反射的に避けようとしたが、冬馬は軽く引くだけで、奈津美の手を自分の前に引き寄せた。
奈津美の手の甲は紫色に変色しており、見るも痛々しかった。緊張のせいか、奈津美の手はわずかに震えていた。
冬馬は言った。「筋を痛めているな。3ヶ月は治らないだろう」
「あんたが医者なの? あんたに見せる必要ないわよ」
そう言って、奈津美は手を引っ込めた。
冬馬に対して、彼女は全く好意を抱いていなかった。
どんなにハンサムでも、好意を持つことはなかった。
「冬馬の言う通りだ。外傷を見る目に関しては、私は彼に及ばない」
傍らの初がそう言った時、奈津美は疑わしげな表情をした。
海外で有名な入江グループの社長が、医者でもあるというのか?
初は真面目な顔で言った。「冬馬は昔、医学を学んでいたんだ。知らなかったのか?」
「嘘でしょ? ろくに学校にも行ってないはずよね」
奈津美は以前、冬馬のことを徹底的に調べていた。
冬馬は幼い頃に学校に通っておらず、その後は自分の拳だけで入江グループの地位を築いたのだ。
初は奈津美を騙せないと思ったので、わざと言った。「滝川さん、冬馬のことをよく調べていますね。学校に行ってないことまで知っているなんて」
「そ、それは...... 噂で、噂で聞いたのよ」
奈津美は思わず水を飲んだ。
喉は渇いていな