義兄がそっと義姉の肘を軽く叩いた。
それでも、義姉は彼を鋭く睨みつけ、話を続けた。
「お母さんが渡したくないなら、渡さなければいい。でも、私を言い訳にするのはやめてよ」
その一言に、私は胸がキュッと締め付けられるような思いがし、差し出された封筒を受け取る手が止まった。
義母はついに堪忍袋の緒が切れたのか、封筒をテーブルに叩きつけた。
「何よ、あんたは妬んでるの?渼乃香は、本当に気が利いて親孝行な子なのよ。
私は渡したいから渡してるの。あんたは帰ってきたら食べるか寝るだけで、何の手助けもしないじゃない。あげないのが当たり前でしょ!」
義母の声は怒りに震え、その言葉には義姉への長年の不満が込められているようだった。
それでも、義姉は肩を軽くすくめただけで、それ以上反論することはなかった。
私は気まずい笑顔を浮かべながら、小さな声で言った。「お母さん、お金なんていりません。お母さんは海人のお母さんですし、お手伝いするのは当然ですから」
私がそう言い終えると、義姉が静かにため息をついたのが目に入った。
義母は途端に上機嫌になり、私の手を握りながら、「渼乃香は本当にいいお嫁さんだ」と褒め続けた。
その薄い封筒も、いつの間にか義母のポケットに戻されていた。
その時、黙々と食事をしていた義妹が突然叫んだ。
「この料理、生姜入ってるじゃない!」
彼女はそう言うと、口に入れたものをそのままテーブルに吐き出した。
「生姜入れないでって言ったのに!私、生姜大嫌いなの!
お母さん、ちゃんと伝えたの?」
義母は驚いたように反射的に答えた。「もちろん伝えたわよ。でもどうして入ってるのかしら」
義姉の視線が鋭く私に向けられた。
私は慌てて手を振りながら答えた。「私、本当に何も聞いていません。お母さんからは何も……」
その時、海人が私の腕をそっと掴み、小声で「もう言うな」と合図してきた。
義母の表情が厳しくなり、「何よ、私が言わなかったっていうの?妹が生姜を嫌いなのはとっくに伝えたはずよ。なんで忘れたの?」と声を荒げた。
胸の奥が重くなるような感覚に襲われた。夫が何かフォローしてくれるのではと期待したが、彼はただ私に「言うな」と目で訴えるだけだった。
義姉は箸をテーブルに叩きつけ、「もう食べない!こんなのどうやって食べるの?お正月なのにまともなご飯も食べられないなんて!」と怒りをあらわにした。
義母はすぐに義姉の頭を撫でながらなだめた。
「怒らないで、怒らないで。お正月に怒るのは縁起が悪いわ。渼乃香にもう一度生姜抜きの料理を作ってもらうから」
そして私に向かって当然のように言った。
「渼乃香、もう一度作り直してくれる?今度は絶対に生姜を入れないでね」
その理不尽な指示に、私は驚きと悔しさで言葉を失った。
海人の妹は私よりも2歳年下で、私よりも早く結婚している。
それなのに、実家に戻ってきてから一度も台所に立ったことがない。
義両親は彼女を甘やかし、食事を手に取って与えるかのような扱いをしていた。
その上、私が彼女のためにもう一度料理を作らなければならないなんて!
実家でもこんなわがままを言ったことは一度もなかった。
私が動かずにいると、義母が苛立った声で促した。「早く行きなさいよ、渼乃香。何をぼーっとしてるの?」
夫は私の耳元で、小さな声で頼むように言った。「悪いけど、もう二品だけ作ってくれないか?妹は本当に生姜が苦手なんだ」
しかし、これは彼女が生姜を食べられるかどうかの問題ではない!
私は眉をひそめ、じっと夫を見つめた。
彼が何を考えているのか理解できなかったし、どうしてこんな行動をするのかもわからなかった。
もしかして、義姉が言っていたように、本当にいじめられているのだろうか?
夫は困った表情をしながら私の腕を引き、こう言った。「お願いだ、俺のためだと思って作ってくれないか?」
母の言葉が頭をよぎった。
「思いやりを持って接すれば、相手もあなたをわかってくれるわ」
場の空気はますます険悪になり、義姉は今にも泣き出しそうだった。
夫の必死な眼差しに負けた私は、胸の中の悔しさを飲み込み、再び台所へ向かい、料理を2品作り直した。