若子の瞳には、焦りと不安が色濃く浮かんでいた。
「......早く教えて」
薬品と器具がぎっしり詰まった薬箱を前に、怖さはある―でも、状況は一刻を争う。
逃げている暇なんて、ない。
ヴィンセントは震える声で問いかけた。
「......怖いか?」
若子はこくんと小さく頷いた。
心臓が跳ねる。
緊張で全身が張り詰める。
「怖い......でもやる。だから、早く教えて」
「ヨードチンキと消毒用のコットンを取れ。コットンにヨードをたっぷり染み込ませて、傷口の周りの皮膚を拭いてくれ」
若子は慎重に、彼の指示通りに動いた。
震える指でヨードの瓶のキャップを開ける。
ツンとくる消毒液の匂いに、少し頭がクラクラする。
でも、そんな反応を押し殺して集中した。
コットンにヨードを浸し、慎重に、傷口の周囲を優しく擦る。
指先は震え続け、怖くてたまらない。少しのミスで、もっと悪化させてしまうかもしれないから。
「......っ」
ヴィンセントの低い呻きが耳に届く。
ヨードが傷に触れれば、強い痛みが走るはずだ。
若子の胸が痛む。
でも、手を止めず、丁寧に、そして確実に消毒していった。
「......これでいい?次は?」
震える声で尋ねると、ヴィンセントが答えた。
「箱の左にある滅菌注射針と、生理食塩水を取ってくれ」
若子は言われた通りに針を手に取る。
針の先端を見た瞬間、弾丸を取り出したときの記憶がよみがえり、全身が再び強張った。
大きく深呼吸をして、なんとか気持ちを落ち着ける。
「針を食塩水に浸して、しっかりと消毒してくれ」
彼の声はかすれていたけれど、的確だった。
若子は唇を噛みしめながら、消毒針を塩水にゆっくり沈める。
「......次は?」
「その針を......傷口にゆっくり挿せ。できるだけ安定させて」
心臓の鼓動がうるさいほど響く中、若子は手に針を握り、深く息を吐いてから、そっとヴィンセントの傷口へと挿していく。
顔が青ざめ、額には汗が滲む。
ヴィンセントの体が微かに震える。
「......大丈夫?」
彼女が問いかけると、ヴィンセントは歯を食いしばりながら小さく頷いた。
「......針を軽く回して、傷の中の汚れを取り除いてくれ.