若子の声にはかすかな震えが混じっていた。目元は潤んでいたけれど、それでも彼女は涙をこぼすまいと必死にこらえていた。
―私は、あなたの前でなんて、絶対に弱さを見せない。
最初に西也と結婚した時、たしかにその関係は「本物」なんかじゃなかった。
でも、あれこれと出来事が積み重なって、気づいたらすべてがぐちゃぐちゃに絡まり合っていた。
そして今となっては、もう誰にもどうにもできないほど、取り返しがつかなくなっていた。
修はふいに手を伸ばした。若子の肩に触れようとする―その一瞬。
「触んないでッ!」
彼女は彼の手を激しく振り払って、次の瞬間、またしても彼の頬を平手で打った。
すでに腫れ上がっていた修の顔は、さらに赤く膨れ上がる。
―なのに。
若子の胸には、少しもスッキリする感覚なんてなかった。
怒鳴り返すわけでも、手を上げるわけでもなく、ただ黙って打たれ続ける修の姿を見て、怒りと苦しさだけがますます募っていった。
「それで満足なの?これが、あなたの答えなの?」
彼女は拳を握ったまま、彼の胸元を何度も何度も打ちつけた。
「こんなの......私、もうイヤなの!大っ嫌いよ、あなたなんか......っ!なんで、なんでいつもそうなの!?なんで離れてくれないの!?どうしてよっ!!」
「もうやめてぇぇ!!」
侑子がとうとう堪えきれず、駆け寄ってきた。
そして若子の腕をつかむと、そのまま力いっぱい突き飛ばす。
若子の体は、床に叩きつけられるように倒れた。
侑子はすぐに修の前に立ちふさがり、まるで子どもを庇うように、彼を守るような姿勢になった。
「お願い......もう殴らないで。これ以上、もうやめてよ......お願いだから......」
「若子!」
修はすぐに侑子を押しのけて、若子の元へ駆け寄る。
そして倒れた彼女をそっと抱き起こした。
「若子、大丈夫か!?」
「触らないで!!」
彼女はその手を振り払い、怒りのままに叫ぶ。
侑子はその光景を、ただ呆然と立ち尽くして見ていた。
修が―迷いもなく、若子のもとへ向かったこと。
その姿に、彼女の全身から力が抜けていった。
―どうして、こうなっちゃったの?
侑子は胸を押さえ、そのまま「ドサッ」と音を立てて倒れ込む。
息が、