慎一の瞳には、言葉にし尽くせない想いが宿っているようだった。「まずは病院へ行こう。絶対に、お前が納得できる答えを出す」
ぼんやりと霞む視界の中、私ははじめて慎一の目に、確かな決意を見た気がした。
信じたい。今度こそ、彼は私にちゃんと向き合ってくれる。そんな気がしたから。
私は慎一を見上げて、微笑んだ。「うん」と小さく頷いた。それだけで、胸が張り裂けそうだった。
彼に抱きかかえられながら、私はぼうっと外へ運ばれていく。景色が瞬く間に流れ去り、気づけば、視界は赤一色に染まっていた。
意識は妙に鮮やかなのに、体はどんどん遠のいていく。
これは夢なのだろうか。私はたくさんのことを考えた。
人生はまるで芝居のようだというけれど、どうして私の人生は、こんな芝居みたいになったのだろう?
体の痛みは本物で、子どもを失った悲しみも、胸を締めつける苦しさも、全部本物だ。それなのに、どうして心だけを切り離して「芝居みたい」だなんて、思えるはずがない。
でも、これは芝居じゃないなら、何だというのだろう。
私は、こうなることを、心のどこかで覚悟していたはずだった。
思考は次第に薄れて、辺りはすっかり闇に包まれる。もう何も考えたくなかった。
流産した私は、医者に「最低でも一週間は安静にしていなさい」と言われた。
だけど、そんな気持ちの余裕なんて、私にはなかった。
雲香のネットでの炎上は収まる気配もなく、まるで誰もが石を投げる存在になってしまった。
霍田当主は、私の妊娠を知ってとても喜んでくれたのに、その矢先、流産のニュースがSNSのトレンドにまで上がってしまった。
ショックで倒れた霍田当主は、そのまま救急室に運ばれ、命さえ危なかった。
霍田当主は決意した。雲香は何度も霍田家を乱してきた。これ以上は許せない、と。父の逆鱗に触れた雲香は、もはや家に置いておけない存在になった。
霍田夫人は、霍田当主の前に一昼夜ひざまずき、今度は私の病室にやってきて、また一昼夜、私に謝り続けた。
ベッド脇には慎一が座っている。彼の瞳には、どうしようもない葛藤が浮かんでいた。
一方は父の命令、もう一方は二十年もお母さんと呼んできた人への情。
霍田夫人の泣き声に頭が痛くなってきた頃、雲香が現れた。
彼女は血まみれの手首で病室に駆け込んできて、床に倒れ込みながら絶叫した。「佳奈、