一時間後、私と慎一が役所の前で六十秒間抱き合って別れる動画が、あっという間にトレンド入りしていた。
動画の中で、慎一のコートの裾が風に舞い、私が背を向けて歩き去る姿を見つめている。そのシーンは、まるでドラマのラストシーンみたいだと、ネット民たちの間でネタにされていた。
【どれだけ絶望したら、流産したその足で離婚届を出しに行けるんだろう?】
どれだけ絶望してたのか?
私は苦笑いするしかなかった。今どきのネット民は、言葉で人の心を切り裂く術をよく知っている。
二人の過去に興味を持った人もいたけど、調べても出てくるのは、雲香の記者会見で、私と慎一がわざと仲の良さをアピールした、あの場面だけ。
私のツイッターには、【こんなに賞味期限切れの早いイチャイチャ、推せないわ】とか書かれている。
結局、私と慎一の破局には、四文字のタグが付けられることになった。
#仮面夫婦
みんなは、全部嘘だったんだなと言う。
私はスマホを投げ出し、虚ろな目で天井を見つめながら、力なくベッドに身を沈めた。
動画の光景が何度も頭の中で再生される。慎一の問い詰める声が、胸に突き刺さる。
私はもう、窓の前に立つ勇気すらなかった。彼がまだ下にいるのを知っていたから。
落ち着かない心臓を抱えたまま、玄関の方からノックの音がした。数秒息を潜めて聞いてみる。あまりにも礼儀正しいノック。
慎一ではない。
気力もなく、無視しようかと思ったけれど、田中さんの声が聞こえてきた。
ドアを開けると、田中さんはたくさんの荷物を抱え、手には新鮮な食材を提げていた。
でも、その後ろには、思いもよらぬ人物が立っていた。
まさか、こんなに早く慎一と顔を合わせることになるとは思わなかった。
別れたばかりなのに。
私は彼を見据えた。憎しみがこみ上げる。思い出の中だけならまだしも、なぜ目の前に現れるのか。
私は玄関口で立ちはだかり、冷たく言い放つ。「霍田社長、しつこくすると見苦しいよ」
慎一は唇をきつく結び、黙ったまま、顎のラインがナイフのように鋭く光る。
田中さんが私の手を握った。「奥様、ご主人様を入れて差し上げて。奥様がちゃんと食べてるか、心配で私を呼んだのよ。ご主人様は奥様のこと、本当に気にかけてるんですから」
彼がどう思おうと、私には関係ない。
母が亡くなってから、田中さんだけが私を気