家に入った瞬間、ひどい悪臭が鼻をついた。
私は思わずドア枠に寄りかかり、吐き気を催した。
食べ残しの出前の容器にはウジが湧いていて、ハエが部屋中を飛び回っていた。
部屋は暗いカーテンで覆われ、一切の光が差し込まない。
床にはゴミが散乱していて、腐敗臭が蔓延していた。
突然、その「ゴミ」が動いた。彼女が頭を持ち上げた瞬間、それが母だと気づいた。
彼女は私を見るなり泣き出し、車椅子を懸命に動かして私に近づいてきた。
「晴ちゃん、やっと帰ってきたのね。お母さん、もう二日もご飯を食べてないの。お願い、何か作って」
私は思わず後ずさりした。車椅子に座った母の肉の塊を見て、言葉を失った。
「たった数ヶ月で、どうしてこんな姿になったの?」
母は泣きながら、私たちがいなくなった後の出来事を話し始めた。
「お父さん、あの畜生......私がご飯を持って行ったのに、殴ろうとしたんだよ。あの日からだいぶ良くなって、ようやく話せるようになったの」
「そのとき、何を言ったか知ってる?」
私は首を振った。
母は涙をぬぐいながら、訴えるように言った。
「なんと、お父さん、私に『お前が俺をこんな風にしたんだ』って言ったのよ」
「私はあんなに愛していたのに......こんなこと言われて、もうお父さんには優しくしないわ。晴ちゃん、お願い、私をここから連れて行って、こんなゴミ屋敷で暮らすなんて耐えられない」
突然、私は嫌な予感がした。母を押しのけてゴミの山を越え、ドアを開けた。
ドアを開けると、ハエと腐った匂いが一気に襲ってきて、私はまた吐き気を催した。
地域の担当のおばさんが顔色を変え、叫び声を上げた。
「うわっ!死んでる!!!」
母は大きく口を開けて、電気ショックでも受けたように固まった。
「まさか......毎日ご飯を持って行ってるのに、どうして死ぬなんてことが!」
私は近づいて見ると、玄関に積まれた食事はすでに腐っていたが、父は一口も手を付けていなかった。
母はずっと死体にご飯を持って行っていた。もう彼女も完全に狂ってしまったのだろう。