その時、彼の携帯が突然鳴った。
玲奈がちょうど見た時、テーブルに置かれた携帯の画面に「ダーリン」という文字が表示されているのが目に入った。
もう気にしないと思っていた。
でも、これだけ長く愛してきたのだから、簡単に割り切れるはずもない。
その文字に心を刺されて、すぐに視線を逸らした。
彼女の目の底にある痛みを、智昭は顔を上げた時に気付いたが、彼女の前で躊躇うことなく電話に出て、優しい声で「どうしたの?」と話し始めた。
茜も智昭の様子に気付いた。
茜の記憶の中で、智昭がこんな優しい表情を見せるのは、優里に対してだけだった。
一瞬玲奈の存在を忘れ、嬉しそうに尋ねた。「パパ、優里おばさん?」
智昭は淡々と「ああ」と答えた。
茜は優里おばさんと話したいと言いかけたが、玲奈がいることを思い出した。玲奈が優里を好まないことを思い出し、言葉を飲み込んだ。
でも、彼女の上機嫌は影響を受けてしまった。
小さな眉を寄せ、ママが優里おばさんと仲良くできたらいいのに、と思わずにはいられなかった。
向こうで優里が何か言ったのか、智昭は心配そうに眉をひそめ、朝食も終わらないうちに慌てて席を立った。
茜は智昭が急いで出て行く様子を見て、心配になった。
でも、玲奈がいるので、何も聞かなかった。
しかし朝食の食欲もなくなり、玲奈の手を引いて立ち上がった。「ママ、もう食べ終わったから、早く出かけよう」
茜は言葉にしなかったが、玲奈は彼女の全ての反応を見ていた。
急いで出たがるのは、優里の状況を早く知りたいからだと分かっていた。
でも何も言わなかった。
「まだあまり食べてないわ。車で食べられるように持って行きましょう」と言った。
「いいの、お腹すいてない……」
玲奈は一瞬止まった。
もう強要しなかった。
車に乗ると、茜は一秒も待たずに後部座席に座るなり、すぐに優里にメッセージを送った。
玲奈は見ていたが、何も言わなかった。
しばらくして優里から返信があり、単なる熱を出して風邪を引いただけで、大したことはないと言ってきた。
でも優里の音声メッセージは少しかすれた声で、茜はまだ心配で、すぐに放課後に様子を見に行くとメッセージを送った。
メッセージを送った時、茜は少し後ろめたさを感じた。
もう随分玲奈の料理を食べていなかったので、今夜は一緒に食事をしよ