結菜は完全に呆然とした。
まさか智昭が動いても解決できないとは思ってもみなかった。
彼女は慌てて言った。「まだわかんないよ、こ、こんなのただの小さなトラブルじゃん?こんなことで訴訟して契約解除なんて、本当にあり得るの?!」
「藤田総研と長墨ソフトが最初に結んだ契約は、もう弁護士に確認済み。そこにはどちらかが相手の名誉を侵害した場合、被害を受けた側が契約解除を請求できるって明記されてた」
「で、でも、今回の件が名誉を傷つけたとしても、そんな大ごとじゃないでしょ——」
優里が言った。「そう、大ごとではない。普通なら、長墨ソフトへの影響をちゃんと払拭して、謝罪と賠償をすればそれで済んだはず。でも——」
正雄が話を継いだ。「優里ちゃんがすぐにお前に謝罪させてたら、たとえ長墨ソフトが契約を切りたくても、その理由がなくなってたはずだ」
「でも優里ちゃんは事情を知ってから、すぐに長墨ソフトをかばって謝罪させるどころか、逆に長墨ソフト側の社員が会社を守ったことに対して行き過ぎだって責めた。そうなると、湊礼二がもう信頼できないって判断して、契約を切る理由にされてもおかしくないんだ」
「ビジネスの世界じゃ、目的を果たすために相手のミスや矛盾をちょっと誇張するだけで、十分な理由になることも多い」
「でも、姉ちゃんは後でちゃんと謝ったじゃん」
「でも彼らからしたら、契約解除のリスクが高すぎるから仕方なく謝っただけって見られるかもしれない。本気で反省したとは思われない」
結菜は言葉に詰まった。
正雄が訊いた。「湊礼二の方は、本当に全然譲歩する気はないのか?」
玲奈か礼二のどちらかを説得できれば、この件はまだ何とかなるかもしれない。
玲奈は無理として、礼二の方はどうだ?
「電話のときの彼の態度は、かなり強硬だったよ」
正直、その場にいた誰もが分かっていた。礼二がここまで契約解除にこだわるのは、玲奈のためだ。
もし礼二を説得できれば……
でも、どうやって礼二を説得すればいい?
彼を動かせるような切り札なんて、こっちには何もない。
智昭が出てきたってのに、礼二はまったく取り合わなかった。
契約解除なんて、藤田総研にとってはあまりにも痛手。でも礼二の態度がはっきりしている中で、優里はそれでも一度試してみようと考えた。
その夜、優里はもう一度礼二に電話をかけ