国外で娘の詩織と医療提携プロジェクトの視察を終えて帰宅すると、私は思わず立ち尽くした。
家には人が溢れかえり、普段は姿を見せることもない遠い親戚まで揃っている。
この様子では、まるで若江家の家族会議でも開かれているようだ。
そして、その中心にいて一番目につくのが、泣きじゃくる白井雅絵だ。
私の「良き夫」であり、ほとんど家に帰らない若江和嘉は、彼女を優しく抱きしめて心配そうに慰めている。
私は眉をひそめ、スーツケースを脇に置くと若江和嘉に視線を向けた。
「今日は一体、何の記念日?こんなに賑やかで」
後ろからついてきた詩織は、冷たい目つきで腕を組み、白井雅絵を嫌悪感たっぷりに睨みつけている。
どうやら、彼女が誰なのか察し始めているようだ。
姑は主座に座り、顔色が良くなく、言おうとするも言葉を飲み込んだ。
若江和嘉が口を開く前に、白井雅絵が泣き崩れながら詩織に向かって飛びかかった。
「娘よ、私があなたの本当のお母さんなのよ!」
詩織は器用に身をかわし、顔をしかめて白井雅絵を見る。まるで汚れ物でも見るかのような目つきだ。
彼女は一歩引き下がり、冷たい声で言い放った。
「私の母親は若江雨音」
さすがは私の頼れる娘だ。
私は詩織の手を握り、落ち着かせるように視線を送ると、白井雅絵に向かって手を振り上げた。
そして、パチンと響く音が、客間に広がった。
「勝手に家族ヅラしないでよ」冷たい声と鋭い視線が白井雅絵に突き刺さった。
若江和嘉は驚いたように立ち上がり、白井雅絵を庇いながら私を怒鳴りつけた。
「若江雨音、正気か?雅絵を殴るなんて!」
彼は手を上げて私を殴ろうとしたが、その瞬間、詩織が素早く動き、彼にも平手打ちを食らわせた。
「母さんを殴るつもり?」詩織の声は小さいが、そこには絶対的な威厳があった。
若江和嘉は唖然とした表情を浮かべ、怒りで顔を赤くしながら再び手を上げようとする。
しかし、白井雅絵が彼の腕を掴み、泣きながら止めた。
「和嘉、やめて。それは私たちの娘よ!」
この偽善者じみた母親の姿に、私は思わず吐き気を覚える。
若江和嘉は手を下ろし、詩織を睨みつけながら吐き捨てるように言った。
「本当の母親に免じて、今日のところは見逃してやる」
詩織は冷笑し、皮肉たっぷりに言い返した。
「ふん。どんな手で私を懲らしめるつもりか、見せてもらおうじゃない」
その鋭い眼差しは、まるで若い頃の私を見ているようだ。
心の中で思わず歓喜する。さすが私が丹念に育て上げた娘だ!