真奈は黒澤の方を見やった。その瞬間、どういうことか察した。
彼女は電話口の大塚に向かって言った。「わかった。あとでこちらから連絡する」
「かしこまりました」
通話を終えると、真奈は視線を黒澤に戻し、問いかけた。「私の携帯、覗いたわけ?」
「見てないよ……」
黒澤の表情には嘘をついている様子はなかったし、真奈自身も携帯をずっと身に着けていた記憶がある。
しかし直感が告げていた。これは、黒澤の仕業だ。
「正直に言えば許してあげる。ごまかすなら容赦しないよ」
その最後通告に、黒澤は観念したように正直に打ち明けた。「……智彦と美琴さんが、お前の携帯にチップを仕込んだんだ。冬城からの電話もメッセージも、全部自動的にブロックされるようにしてあった」
「じゃあなんで私に言わなかったのよ?」
「……忘れてた」
黒澤の表情は、まるで子どものように無邪気だった。
真奈は思わず額に手を当てた。確かに、これは伊藤と幸江がやりそうなことだった。
どうやら、前回の一件以降、伊藤と幸江は冬城が彼女に連絡を取ろうとするのを、あの手この手で止めようとしているらしい。
「……わかった。今すぐ冬城に電話する」
真奈はスマホを取り出し、電話をかけようとした。けれどそのとき――黒澤の無邪気な視線が刺さった。
仕方なく、真奈はその場で電話をかけ、スピーカーモードをオンにした。
コール音はわずか一度だけ。すぐに冬城が出た。低く落ち着いた声で、尋ねてくる。「どこにいる?」
「家よ」
「迎えに行く」
「……やめて」
真奈は眉を寄せて言った。「マンションには…いないの」
受話器の向こうで、しばし沈黙が流れた。そして冬城は、重い声で問いかけた。「黒澤の家か?」
「……うん」
真奈は黒澤の方を見た。
とにかく、冬城に今自分が瀬川家の本家にいることだけは、絶対に知られてはならなかった。
「おばあさまが会いたがってる」
「大奥様が会いたいの?それとも皮肉を言いたいだけかしら?」
冬城家のあの大奥様は、もうニュースで知っているはずだ。自分と冬城が晩餐会で復縁を発表したことを。そんなタイミングで呼び出すなんて、どう考えてもまともな意図じゃない。
「心配しないで。俺がそばにいる。おばあさまがお前にひどいことを言うのは止めるから」
冬城の声はどこか疲れた響きを帯びていた。「