真奈の記憶では、冬城家が本格的に財を成したのは冬城の祖父――すなわち冬城おばあさんの夫の代からだった。そして、そのあとを継いだのが冬城の父親だ。
だが、その祖父の代について、冬城はこれまで一度も話したことがなかった。
この部屋にも、冬城の祖父の位牌だけが置かれていた。
「……ああ」
「ということは、冬城家の事業は本当は百年以上続いてるってこと?」
冬城家は外向けには百年の歴史を持つ企業と名乗っていたが、実際に財を築いたのはここ数十年の話であり、当時の基準では成金と見なされていた。だからこそ、冬城おばあさんは自分の息子や孫には教養ある名門の令嬢を娶らせようと、強くこだわってきたのだ。
「そうだろうね」
「おじいさまとおばあさまは海城で財を築いたわけではないらしい。正直言って俺もあまり詳しくは知らないんだ」
真奈はふと、思考に沈んだ。その間に、冬城は静かに三本の線香に火をつけ、真奈に手渡した。
その線香を見た瞬間、真奈は冬城の意図を理解した。彼女は線香を受け取り、深々と頭を下げ、心を込めて礼を捧げたあと、香炉にそれを挿した。
冬城は穏やかに言った。「これで、儀礼も済んだ。ようやく、形になったな」
「私はそんなこと、気にしていないわ」真奈は淡々と答えた。「それより、あなたはどうやって大奥様に孫を見せるか考えた方がいい。あの方は本当に年を取られていて、次の世代の誕生を心から望んでいるのだから」
そう言って、真奈は踵を返し、持仏堂を後にしようとした。冬城が呼び止めようとしたちょうどその時――「私を入れてよ!入れてってば!」屋敷の外から、女の鋭い声が響いた。「私を入れてよ!入れてってば!」
「小林さん!お入りいただけません!冬城総裁は奥様とお話中です!」
「奥様?何が奥様よ!どきなさい!」
小林の声があまりにも大きくて、持仏堂から出たばかりの真奈も思わず足を止めた。
エレベーターの前では、小林が二人のメイドに両腕を掴まれていた。彼女は真奈の姿を認めた瞬間、顔色を一変させた。冬城は眉をひそめ、不機嫌そうに言った。「許可もないのになぜ彼女をここに連れて来たのだ?」
「そ、それが……小林さんがどうしてもとおっしゃって、私たちでは止められなくて……」
「そうです、小林さんが冬城総裁が戻ってきたって聞いて、それで……」
メイドたちは頭を深く下げていた