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柳アトム
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柳アトムの小説

フィギュアオタクで手に触れた物をなんでもすぐ壊す僕が異世界全民ロードサバイバルで人類の分断を修繕する

フィギュアオタクで手に触れた物をなんでもすぐ壊す僕が異世界全民ロードサバイバルで人類の分断を修繕する

異世界ファンタジー冒険魔法聖女勇者ざまぁ転生
宇宙からある日突然、「天使(セラフィム)」を名乗る二柱の巨人が地上に舞い降りた。 その姿はとても神々しかったが、彼らが告げた言葉の内容は、人類にとっては死の宣告───「審判(ジャッジ)」だった。 しかし「天使(セラフィム)」は冷酷ではなかった。 人類に滅亡を免れるチャンスを与えてくれたのだ。 「今から人類を全員、異世界に転移させる」 「そこで世界の果てにあるという「至宝(シジル)」を見つけることができれば、人類を滅ぼすことをやめましょう」 こうしてフィギュアオタクで手にした物をなんでもすぐ壊す(=分解してしまう)僕も、異世界で人類の滅亡を回避すべく、全民ロードサバイバルの旅に出ることになってしまった。
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Chapter: 第017話 詩華と傑の出会い①
 この世界には同時多発的に多元宇宙が存在している。  それは僕たちの何気ない選択肢の数だけ広がり、今も無限に増え続けている。  そのうちの一つ、《《今の多元宇宙》》《《の僕は》》熱心なアイドルオタクだった。  子供の頃に見たグループアイドルの輝きに魅せられ、絵に描いたような「|信者《ファン》」に成長していた。  そんな僕には一番に推しているアイドルグループがあった。  そして|詩華《うたか》は、そのグループの不動のセンターだった。 あれはセラフィムがこの世界に出現し、人類に「《|初級文明審判《ジャッジ》》」を科し、「《|運命の2d6《ジェミニ・ディスティニー》》」を振って僕たちが十六歳の若者全員が「《|審判《ジャッジ》》」へ挑むことになって間もない頃のライブでの出来事だった。「こんな時(=《|天使《セラフィム》》が人類に《|審判《ジャッジ》》を科した)でも、私たちのライブに来てくれてありがとう。感謝の気持ちでいっぱいで、そんな時に、こんなお知らせをしないといけないことが本当に辛いのだけど……」 ライブの最後のスピーチで、詩華がそう前置きをする。  会場に集まったファンは、詩華がこれから話す「お知らせ」が何か気になって、ざわざわとどよめく。  もちろん、僕も気になってざわついた。「先日、《|天使《セラフィム》》が《|運命の2d6《ジェミニ・ディスティニー》》を振って出た目は「一」と「六」───つまり十六歳。十六歳の若者全員が異世界で《|天使《セラフィム》》が強いる《|審判《ジャッジ》》に挑まなくてはなりません。そして私も───十六歳の詩華も、その《|審判《ジャッジ》》に行かなくてはなりません。だから私たちグループの活動は今日からしばらく休止します」 会場は割れんばかりの怒声に包まれた。「いやだッ! 詩華ッ! 《|審判《ジャッジ》》になんて行かないでくれッ! 「休止するなッ! こんな時だからこそ最後まで俺たち(=|信者《ファン》)に夢と希望を届け続けてくれッ! それがアイドルの仕事じゃないのかッ!?」 「詩華ッ! 負けるなッ! 必ず《|審判《ジャッジ》》に打ち勝ち、また戻ってライブをしてくれッ!」 「何を言っているんだッ! 前回の《|審判《ジャッジ》》で異世界に転移させられた三十五歳は誰一人として帰ってこなかったんだぞッ! 全員、異世界
最終更新日: 2026-08-03
Chapter: 第016話 取引の再開と再会
「(お、おい。本当に交換する気だぞ)」 「(あ、ああ。本当だな。こんなガラクタを水と食料と交換してくれるぞ)」 僕は何人目かの戦友と「取引」をしていた。  彼らは黒鉄宝箱を三つ獲得していて、かなりの量の「資源」を持っていた。  但し、彼らはその「資源」をガラクタだと思い、持て余していたが───。「じゃあ、取引成立だね。僕はペットボトル入り飲料水一本と、圧縮ビスケットを三個渡すよ」 僕はステータスウィンドウを開いて取引で渡す品を選択する。  相手も同様に取引する品を選択し、僕たちは物資のやり取りを行った。「な、なあ、一つ聞いていいか」 取引終了後、戦友の一人が僕に尋ねてくる。「何? 僕も先を急ぎたいから手短にお願いね」 僕は質問を了承するが、短時間で終わるよう戦友にお願いする。「わかった。じゃあ、これだけ教えてくれ。どうしてそんなガラクタを集めているんだ?」 「そ、そうだよ。そんなガラクタ。何の役にも立たないだろ? それを貴重な水と食料とわざわざ交換するなんて、なんでなんだ?」 戦友たちがそう疑問に思うのはもっともだった。  因みにこう聞かれたのは今回が初めてじゃない。  僕は、その前の取引でも、その前の前の取引でも戦友から同じ事を尋ねられた。  そして僕はそう尋ねられた際、嘘をついたり、真実を隠したりすることはしなかった。  ありのままの事を正直に彼らに伝えていた。「僕のスキルは「改装」なんだ。一見するとガラクタでも、それらを「資源」として車を修理したり、簡単な装置を作ったりすることができるんだ。だからこれらの「物資」は君たちにとってはガラクタでも、僕にとっては貴重な「資源」なんだ」 僕がそう説明すると、戦友たちは「そ、そうなのか……」と驚いたような、信じられないといったような、そんな反応で納得してくれた。「そんなに貴重な資源というなら、もっと高値で交換してくれよ」 僕は後ろから声を掛けられ、驚いて振り向く。  どうやらまた別の戦友が僕と取引をしにやってきたようだったが、僕はその相手を見て驚いた。「ぐ、|軍毅《ぐんき》……!」 それは軍毅だった。  そして軍毅がいるということは───。「ま、|傑《まさる》くん……」 軍毅の背後に隠れるように従っていた |詩華《うたか》が顔を出す。「|同級審判全体チャンネル《
最終更新日: 2026-08-01
Chapter: 第015話 取引の失敗
 僕は自分の目を疑う。「こ、このログは……!」 僕は何度も何度も何度もログを読み返す。  そしてその度に、これは今、僕が行った取引で、自分の事を嘲笑うログである事を痛感する。 燃え上がるような怒り。  同時に、裏切られた事への悲しみ。  そして騙されていたのは自分だとわかった絶望。 僕は身体が震え、身動きが取れなくなった。「お、落ち着け……。落ち着くんだ……」 前世、そして別世界でも同様に他人に裏切られ、利用され、騙され、蔑まされた心の傷が大いに疼いた。「まただ……。またこうして僕は相手に好き勝手に使われてしまうんだ……」 涙が出そうになるほどの感情の渦だった。  僕は長い間その濁流に流される。  しかし、それは体感時間で、実時間はほんの一瞬だったかもしれない。 気が付くと怒り───。 僕に残ったのは怒りだけだった。「せ、せっかく貴重な水と食料を渡して、スコップまでタダであげたのに……」 自分は親切が踏みにじられた事を知り、さらに怒りが爆発した。「そういうことならこっちも遠慮しないよ」 僕は鼻息も荒くトラックから飛び出すと、戦友たちが乗り捨てたスポーツカーに向かう。「この車はもういらないんだよね。新しい車をスタート地点に探しに行ったんだから。この車は乗り捨てたってことだよね」 僕は魔力石のエネルギー切れで、路傍に停め置かれた彼らのスポーツカーを確認する。「だったらこの車は僕が貰うよ。エネルギー切れだって構わない。車を修理したり改造したりする「材料」として見れば、小さな蟻が大きな角砂糖を見つけたかのような宝物と一緒だからね!」 僕はトラックの「アオリ」を降ろすと、板を渡してスロープを作り、スポーツカーをトラックの荷台に運び乗せた。  亀が亀を背負うような状態になってしまったが、僕は満足だった。 少しは彼らに「仕返しができた」というような思い。  そしてもちろん、貴重な「材料」を手に入れた満足感。 少しは気持ちを持ち直し、怒りが収まった僕は、今度こそトラックを走らせる。 そして僕は「同級審判全体チャンネル」も確認する。「ガラクタを水と食料と交換してくれるだって?www」 「いいね! 交換してくれよ! 黒鉄宝箱を開けたんだが本当にガラクタしか入ってなくて困っていたんだ!www」 「おーい。どこにいるんだー。ガ
最終更新日: 2026-07-31
Chapter: 第014話 取引の成功
「と、取引成功だね」 僕は異世界で初めての取引を成功させてホッと安堵の溜息を漏らす。「あ、ありがとう。本当にありがとう……」 戦友の一人が心の底から───嘘偽りのない本心から僕に感謝の言葉を述べてくれる。 僕はまたもや良心が痛み、申し訳ないと思ってしまう。「マグライトは純正の正規品で、現実世界で買うとすれば、かなり高額の品だ。ガラクタも彼らにとっては不用品でも、僕にとっては改造や修理に役立つ貴重な資源ばかり。それを僅かなビスケットと水だけで交換させるなんて……」 僕は自分の事が嫌いになりそうだった……。  僕は眉間に深い皺を刻んだが、それでもなんとか表情を取り繕う。「ま、まあ、君たちも大変そうだし、困ったときはお互い様って言うからね。ま、また、何か交換できる物があったら取引しよう」 僕にお礼を述べてくれた戦友は何度も何度も僕に頭を下げて、仲間と一緒に元来た道をスタート地点に向かって歩き出す。  そうして何度もお礼を言われる度に、僕の良心は鋭い針で刺されるようにチクチクと痛んだ。「ま、待ってッ! こ、これもあげるよッ!」 僕はトラックを降りて彼らに駆け寄ると、廃材の鉄板を折り曲げて作ったお手製の「スコップ」を彼らに渡す。「地面を深く掘って、湿った土の層が出てきたら、その土を服で包んで吊るすんだ。そうすると土に含まれている水分が滴って、僅かだけど水が得られるよ」 戦友たちは顔を見合わせて驚いた。「そ、そうなのか?」 「お前、凄いな。そんなことを知っているなんて……」「僕の両親が最初の《|審判《ジャッジ》》の生還者で、色々とサバイバル術を教えて貰ったからだよ」 とは僕は言わず───。「い、異世界に来る前に政府の授業を受けただろ? その中で説明があった技だよ」 戦友はまたも顔を見合わせたが、真面目に授業を受けていなかった自分たちなら、そうした情報を見落としてしまうこともあるだろうと納得したようだった。「あ……。でも、私たち、もうあなたと取引できる品物を持っていないわ……」「え? あ、いや、いいんだよ。このスコップはタダであげる。僕のほんの気持ちさ」 僕がタダでスコップを差し出すことに、戦友はとても驚いたようだったが、遠慮なくスコップを受け取ると、僕に手を振って「ありがとう~! 新しい車に乗り換えて、すぐにあなたを追いかけるから
最終更新日: 2026-07-29
Chapter: 第013話 取引開始④
「マグライトと圧縮ビスケット一個と交換。この条件が呑めないなら交渉は決裂だね」 僕は、冷たく言い放つ。  良心がズキズキと痛んだが、僕は懸命に頑張った。「ま、まってッ! 黒鉄宝箱には他にも色々入っていたの! 他にも欲しい物がないか見て頂戴ッ!」 戦友の一人がそう言って宝箱の中身を披露する。「おいッ! やめろッ! 無駄だってッ!」 「そうさ。だって宝箱の中身はこのマグライト以外はガラクタばかりだったじゃないか……」 戦友たちは望み薄といった様子で最初から諦めていた。  それもそのはず。  彼らが見せてくれた宝箱の中身は、僕が開けた黒鉄宝箱同様、本当にガラクタや鉄クズばかりだったからだ。「但し、それは「彼らにとっては」だけどね……」 僕は彼らが見せてくれたガラクタに価値を見出す。  どれも僕の「改装」のスキルがあれば修理や加工の材料として重宝する物ばかりだった。 僕はまたしても物欲しそうに顔を緩めそうになるが、寸前で興味のない様子を保った。「だ、駄目だよ、どれも使えない物ばかりじゃないか。そ、そんなガラクタいらないよ」 僕がそう拒絶の言葉を述べると、もともと望みはないとわかっていた戦友たちも落胆の色を隠せなかった。 僕の良心の痛みは最高潮に達してしまう。「困っている彼らを利用し……自分だけ生き残ろうとするなんて……」 僕は爪が手に喰い込む程、強く拳を握った。  そして何とか前世、さらに別世界で蔑まされ、利用され、捨てられ、路頭に迷い、命を落とした自分を懸命に思い出し、何とか自分を貫こうとした。 ───貫こうとしたが。 ───貫こうとしたが……。 ───…………。 ───……駄目だった。 ついに僕は良心の呵責に耐えきれず、彼らに提案の譲歩をしてしまう。「ま、まあ、でもそのガラクタは量が凄く多いし、マグライトとそのガラクタを全部くれるなら、圧縮ビスケットにペットボトル入りの飲料水一本をつけて交換してもいいけど、ど、どう……?」 僕がそう提案すると、戦友たちはパッと顔を輝かせる。「ほ、本当か?」 「ほ、本当にいいのか?」「ああ、かまわないよ。それじゃあ取引成功だね」 僕と戦友はステータスウィンドウを開き「取引システム」の項目をタップする。  するとそこには自分の所持品のリストが表示されていた。「なるほど……。こ
最終更新日: 2026-07-28
Chapter: 第012話 取引開始③
「さっき黒鉄宝箱を開けたんだが、中にこんな物が入っていた。これならどうだ?」 彼らが差し出したのは三十センチサイズのマグライトだった。  マグライトは頑丈な手持ちライトで、光も強く、またボディもとても頑丈なので、国によっては警察組織の標準装備として採用され、暗闇を照らす用途はもちろん、打撃武器としても使用されているライトだった。「すごい。異世界でマグライトと出逢えるなんて……!」 僕は宝物を見せられた子供のように顔を輝かせる。「マグライトがあれば色々と「改装」が出来そうだ。ライトを光らせる機構を利用して照明弾や閃光弾を作ったり、着火装置として利用すればライターのようなものも作れるかも」 僕は「改装欲」が掻き立てられ、涎を垂らすような勢いでマグライトに喰い入る。 しかし、そこでハッと気づく。「駄目だ。これは取引の交渉だ。相手の提案する品に興味を示しては駄目だ。あくまで欲しくないものであるかのように振る舞わないと……」 僕は口元の涎を拭い、咳払いをして仕切りなおす。「た、確かにマグライトは異世界でサバイバルをするのにとても役立つアイテムだよね。でも僕は暗い洞窟を冒険したり、灯りのない建物の中を探索する予定はないから、今すぐ必要というアイテムではないかもね」 僕の興味がなさそうという演戯に、彼らは焦りの色を見せる。  僕は良心が痛んだが、上手く自分の本心を隠せたことに安堵した。「圧縮ビスケット一個となら交換してもいいよ。それでどう?」「圧縮ビスケット一個だとッ!?」 「足元を見やがってッ! いくら何でも買い叩き過ぎだろうッ!」 僕の提案に戦友は烈火の如く怒り出す。  焦燥し、苛立ち、余裕のない彼らがそうして感情を露わにするのはよくわかる。  そもそも僕たちは望んで《|天使《セラフィム》》の《|審判《ジャッジ》》に挑んでいるわけではないのだ。  こんな命を賭けた異世界でのサバイバルなんて、誰もやりたいなんて思っていない。  そんな心境で、相手(=僕)に不利益な取引を提案されたら、誰だって鬱積した感情を爆発させてしまう。「そう……。かつての僕のように……」 僕も前世、そして別世界で上位のスキルではなく、「改装」というDランクスキルしか持たず、周囲から無能と蔑まれ、絶えず足元を見られて利用されていた。  僕も出来る
最終更新日: 2026-07-27
『ふたつの鼓動が気づくまで』 双子の妊娠がわかった日に離婚届を突きつけられました

『ふたつの鼓動が気づくまで』 双子の妊娠がわかった日に離婚届を突きつけられました

ハッピーエンド一途家族愛CEO・社長・御曹司幼なじみ契約結婚離婚後仲直り離婚
【受賞作:『💕契約から始まる恋』シリーズコンテスト】 杵島 充希(きじま みつき)は大手企業・大和田グループの社長の娘。 そんな充希は大和田グループとライバル関係にある杵島グループの社長・杵島 宗司(きじま そうじ)と結婚をする。 しかし、この結婚は偽装結婚で、三年間という期間限定で離婚する「白い結婚」だった。 だが、結婚二年目の節目の日に、充希と宗司は白い結婚の誓いを破り、一線を越えてしまう。 このことで双子を妊娠した充希は、これを機に、偽装結婚ではなく本当の夫婦として暮らすことを宗司に提案しようと考える。 しかし、妊娠が判明したその日に、充希は宗司から離婚届を突き付けられてしまう。
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Chapter: 第百二十話 エピローグ
「どうしてこうなった……」 |宗司《そうじ》さんはがっくりと項垂れていた。「もう。宗司さん、まだそんなことを言っているの? もう式が始まりますよ。早く準備をしてください」「充希、俺は言ったはずだ。絶対にだめだぞ、と」「はいはい。そうでしたね。でも仕方ないじゃないですか。本人たちがお互いを好きになっちゃったんですから」「そうなるように仕向けたんじゃないのか?」「それは……。まあ、幸恵と私は親友だから、よくお互いの家を行き来していたし、接触機会は多かったとは思うけど。でも結婚まで話が進んだのはお互いの気持ちがあってのことよ。親や周囲がどうこう言って結婚させられるものじゃないわよ」「それはそうかもしれないが……」 宗司さんがそうやってグズグズしていると幸恵と秘書さんがやって来た。「なによ、宗司。まだうじうじ言っているの? そう言われるとね、私は自分の娘が気に入らないと言われているみたいで本当に不愉快なの。失礼だからやめてちょうだいよね」「そうですよ、宗司会長。娘を嫁に出す僕たちの気持ちも考えてください」 宗司さんは二人に責められて溜息をついた。「娘を嫁に出す親の気持ちなら、去年、うちの|琴《こと》が|武《たける》くんに嫁ぐときに嫌というほど味わった」「そういえばそうだったわね」「確かにそうでした。宗司会長があんなに泣くなんて思いもしませんでした」「お前も泣くぞ。絶対に泣く。泣くもんかと思っていたって泣けてしまうんだ」「そんなに脅さないでください。僕だって自信がないんですから」「恥ずかしいからやめてよね。父親らしく胸を張ってどっしり構えていてちょうだい」 幸恵が秘書さんの背中を叩いて喝を入れた。「でもまさか本当に私の子と幸恵のお子さんたちがクロスカップルになるとは思いもよらなかったわ」「本当にそうよね。去年は充希の|琴《こと》ちゃんとうちの|武《たける》が結婚して、今年はうちの|巫《みこ》と充希の|勇《いさむ》くんが結婚するんだもの」 幸恵は溜息交じりだったが、とても嬉しそうだった。「|武《たける》くんはお母さんに似て本当にかっこいいから、|琴《こと》はそんな武くんが大好きみたい」「それでいうなら|勇《いさむ》くんだって、お父さんの芯の強さに、お母さんの優しさが加わっているから、本当に理想的な好青年よね。うちの|巫《みこ》が好き
最終更新日: 2025-12-25
Chapter: 第百十九話 大和田 毅
「お、お父さん。どうしてここに?」 私は予告なしに父・|大和田 毅《おおわだ つよし》が現れたことに驚く。「|充希《みつき》の親友の|幸恵《さちえ》さんがご出産されたと聞いたからお祝いとお見舞いにきたんだ。 幸恵さん、お久しぶりです。出産おめでとう。幸恵さんも充希と同じく双子をご出産されたと聞いて驚いているんですよ」 幸恵と私の父・毅は面識があった。 それは中高一貫校時代、私と幸恵はお互いの家を盛んに行き来していたので、その時に何度も会っていたのだ。「|毅《つよし》おじ様。お久しぶりです。そしてありがとうございます。今は無事に子どもが出産できて、とても喜んでいます」 幸恵はとてもかしこまった様子で返事をした。「いや、しかし、あのお転婆だった幸恵さんが二児の母になられたとは。娘の充希が子どもを産んだ時も驚きでしたが、それ以上に驚きですよ」 父・毅は冗談めかして幸恵をからかった。 その点をくすぐられると幸恵も弱いようで「もう。毅おじ様。やめてください」と恥ずかしそうだった。「あ、あの……。お父さ……。いえ、大和田さん」 狼狽えていたのは彩寧だった。 彩寧は私の父・毅が現れたことを本当に驚き、そして「どう対応して良いのか」について困っている様子だった。 それは先日、自分が|篠原 真紗代《しのはら まさよ》と大和田 毅の子どもではなく、篠原 真紗代と|杵島 巧三《きじま こうぞう》の子どもであるという事実を知らされたからだった。「彩寧。こっちにきなさい」 そんな彩寧を父・毅は優しく手招きする。 そして彩寧が自分の元にやってくると包み込むように抱きしめた。「お前は私の娘だ。誰がなんと言おうとお前は私の娘だ。だからお前も、これまで通り私のことを自分の父だと思って頼りなさい。何一つ引け目を感じる必要はない。私たちは親子だ。血の繋がりなんて関係ない。親子なんだ。そのことを絶対に忘れるんじゃないぞ」 父にそう諭されると、彩寧も両手を父に回し、父の胸に顔をうずめて涙を流した。「それで宗司社長。先日のお話の件ですが───」 ひとしきり彩寧と抱擁を交わした父・毅は今度は宗司さんに向き直る。「はい。大和田社長。杵島グループと大和田グループの合併の件ですが、ぜひ前向きにご検討いただきたいと思っております」 私は宗司さんの言葉に驚く。
最終更新日: 2025-12-24
Chapter: 第百十八話 幸恵のお見舞い
「ずいぶんと賑やかね」「病院ではお静かに。他にも患者さんや妊婦さんがいる」 そう言って現れたのは|彩寧《あやね》と|種村 崚佑《たねむら ゆうすけ》だった。「彩寧!? それに崚佑も!?」 幸恵が二人の登場に声をあげる。 幸恵にとって二人は得意な間柄というわけではなかった。 彩寧は幸恵にとって、中高一貫校時代の剣道部の部活動で、真面目に練習に取り組まず、宗司さんの姿ばかり追いかける不真面目な部員で、剣道部の部長として幸恵は彩寧にほとほと手を焼いていた。 崚佑さんは大学時代の同級生だったようだが、ことあるごとに「あいつは見た目はイケメンだけど、中身はヤバイ奴なの」と警戒心をあらわにしていて、苦手にしている相手だということは周知の事実だった。「な、何をしに来たのよ、ふたりとも」 幸恵は警戒心をあらわにする。「何をしに来たって言うのはひどいですね。お見舞いと出産のお祝いに来たんです」 彩寧はお見舞いとお祝いの品を幸恵の夫である秘書さんに手渡す。「僕は産婦人科医として赤ちゃんを診に来た。うん。無事に産まれたみたい。問題はなさそう。でも不満がある。出産の担当医は僕にさせてもらいたかった」「ば……っ! ばかじゃないのっ!? そんなことさせるわけないでしょ! 顔見知りの、それも大学時代の同級生の男子に、自分の出産の担当医なんて、そんなことさせるわけないじゃない!」 幸恵はヒステリー気味に崚佑さんを非難する。 それに対して崚佑さんは、「なんで?」といった様子で小首をかしげていた。「そんなこともわからないの!? ノーデリカシー! やっぱりあんたはヤバイ奴だわ! 彩寧! やめなさい! 今すぐこんな男と付き合うのはやめなさい!」 そう言われた彩寧は目に見えて驚く。 そして実は私も驚いていた。「え? うそ。な、なんで? なんで幸恵部長は私と崚佑が付き合っていることを知っているの?」 「え? 彩寧って崚佑さんとお付き合いしているの?」 私と彩寧が驚く姿を見て幸恵は「当り前じゃない! それで隠しているつもりなの? 見え見えよ!」と息巻いた。「そ、そうなんだ。彩寧、それに崚佑さん。おめでとうございます」 私は二人を祝福した。「この前、赤ちゃんを預かったとき、|彩寧《サルーキ》さんはお礼に「なんでも言うことを聞いてあげる」といった。だから僕
最終更新日: 2025-12-23
Chapter: 第百十七話 幸恵の出産
「私が臨月の間に、そんなことがあったなんてね」 幸恵は病室のベッドの上でぐったりしていたが、最後まで私の話を聞いてくれた。「そうなの。本当に大変だったの。もう自分の赤ちゃんに二度と会えないんじゃないかと本当に怖かったんだから」 私は|幸恵《さちえ》の傍らでリンゴの皮を向き、食べやすい大きさにリンゴをカットすると、餌付けするように幸恵の口にリンゴを運んだ。 幸恵は餌をねだる雛鳥のように口を開ける。 そして口の中にリンゴが入れられるとショリショリと音を立ててリンゴを食べた。「|宗司《そうじ》も宗司よ。なにをしているのよ。父親としてはもちろんだけど、大企業の社長としての自覚があるの? 自分の子どもを奪われるなんて。これが身代金目的の誘拐だったらどうする気?」 幸恵にそう責められた宗司さんは居心地が悪そうだったが、真摯に反省しているようだった。「確かにその通りだった。迂闊だった。それ以降は二度とこのようなことがないよう、充希一人に任せっきりにせず、俺も子どもたちを今まで以上に気にかけ、守るようにしている」 宗司さんは反省の弁を述べたが、尚も幸恵に「最初からそうしてなさいよ」などとさらに責められ続けた。 私はそんな二人のやりとりに、少しだけ、中高一貫校時代の部活動のときのようだと懐かしんだ。「|幸恵《ハニー》、それに充希さん、そして宗司社長! うちの子たちの健康チェックが終わって、新生児室に戻ってきましたよ!」 病室に駆け込んできたのは幸恵の夫にして宗司さんの会社で宗司さんの社長秘書をしてくださっている|鬼灯 猿田彦《ほおずき さるたひこ》さんだった。 とても興奮した様子で、早く来てくださいと盛んに私たちを手招きした。「幸恵は起き上がれるの? 新生児室まで行くことができるの?」 私は何とか起き上がろうとする幸恵を気遣った。「これまで何人もの妊婦さんに、産後だからといって寝てばかりじゃなく、立って歩いた方がおりものが早く排出されて良いと指導してきたの。そう言った本人が自分の言った通りにしないなんて絶対に許されないわ」 そう言うと幸恵は無理をしてベッドから降り、私と夫の秘書さんの肩を借りながらだが、一緒に新生児室まで歩いた。「少子化が叫ばれる昨今だけど、それでも赤ちゃんがいっぱいね」 私は新生児室に並んでいる赤ちゃんを廊下のガラス越し
最終更新日: 2025-12-22
Chapter: 第百十六話 彩寧が信頼する人
「ずいぶんと立派なマンションだな。|彩寧《あやね》の言う「信頼できる人」はここに住んでいるのか?」「そうです。さあ、急ぎましょう」 先を急ぐ彩寧は言葉短く返事をすると小走りにマンションのエントランスに入った。 私と|宗司《そうじ》さんも彩寧の後に続く。 ───ここに子どもたちが───私と宗司さんの赤ちゃんがいる。 会いたい。早く子どもたちに会いたい。 きっと子どもたちは母親がいなくて寂しくて大泣きをしているだろう。 私は子どもたちのそんな姿を想像して不憫でならず、自分も涙が出そうになった。「|琴《こと》と|勇《いさむ》、待っていてね。すぐに行くからね。すぐにお母さんが二人を助けるからね。そしてごめんなさい。お母さんがしっかりしていなかったために、あなたたち二人を不安にさせてしまって……」 私は自責の念に捉われつつ、祈るような気持ちで、彩寧がマンションのエントランスで、目的の部屋番号を入力してインターホンを鳴らすのを見守った。 程なくしてマンションの自動ドアが開いた。 おそらく、その「信頼できる人」が応答してくれたのだろう。 自動ドアを開けるボタン操作をしてくれたようで、私と彩寧、そして宗司さんは入室を許された。 私たちはすぐにエレベーターに乗り込み、最上階を目指す。 エレベーターのドアが開き、廊下に出た私はあることに気付いた。 ───赤ちゃんの泣き声が聞こえる。 私はその泣き声に聞き覚えがあった。 それは宗司さんも同じだった。「「|琴《こと》と|勇《いさむ》の声だ!」」 私と宗司さんの顔にパッと歓喜の表情が広がる。 居ても立ってもいられず、私と宗司さんは走り出し、赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる部屋の前に走った。 彩寧も私たちと一緒に走り、到着するなりインターホンを鳴らした。 待つまでもなく、すぐに部屋のドアが開き、彩寧が言う「信頼できる人」が現れた。 その人物を見て私は驚く。「あ、あなたは……!」 その人物は|種村 崚佑《たねむら ゆうすけ》だった。「遅い。すぐ戻るっていうから赤ちゃんを預かった。なのにぜんぜん帰ってこない。約束が違う」 崚佑はご立腹の様子だった。「赤ちゃんが泣いているじゃない。あなたは産婦人科医でしょ? 赤ちゃんの扱いはお手のものじゃないの?」「妊婦さんのケアと出産が僕の仕
最終更新日: 2025-12-21
Chapter: 第百十五話 兄の呼び方
「お兄ちゃん、次の信号を右に曲がって」「あ、ああ。わかった。次の信号を右だな」「お兄ちゃん、信号を曲がったら道なりに真っ直ぐ走って」「あ、ああ。わかった。信号を曲がったら道なりに真っ直ぐ走る」 |宗司《そうじ》さんの運転する車の助手席で、|彩寧《あやね》が宗司さんに道案内をする。「お兄ちゃん、そのT字路を右折して」「あ、ああ。わかった。T字路を右折するんだな」「あっ。お兄ちゃんっ。対向車が来ているっ。気をつけてっ」「わ、わかっている。ちゃんと対向車を認識している。それより、彩寧。その「お兄ちゃん」という呼び方はなんとかならないか?」 何度も何度も彩寧に「お兄ちゃん」と呼ばれ、さすがの宗司さんもまいってしまったようだ。「……そうね。確かにこの年齢で「お兄ちゃん」は子どもっぽいかもね。それじゃあ「お兄さん」でどう? ……いえ、まって。「お兄さん」だと、なんだか他人行儀に聞こえるわ。「お兄様」は……堅苦しい感じがするし、「兄上」は古風だし、「兄貴」はガラじゃないし。うーん。困ったわ。宗司先輩のことをなんて呼べばいいのかしら」「いや、お兄ちゃんの呼び方ではなく、俺を兄と呼ぶことをなんとかならないのかと言っているんだ。今まで通り、宗司先輩、もしくは宗司社長でいいじゃないか」 宗司さんはほとほと困り果てていた。「……だめです。宗司先輩。無理をしてでも宗司先輩を「兄」として呼ばないと」「なんでなんだ?」「……私も、まだ実感がなくて、それにやっぱりショックなんです。いきなり宗司先輩が自分の兄だなんて言われても、話が大きすぎて受け止めきれないんです。だから繰り返し宗司先輩を「兄」と呼んで、慣れないと───自分に言い聞かせないとダメなんです」 彩寧の苦悩はその通りだった。 いきなりこれまで想いを寄せていた相手が「兄」だと告げられたのだ。 その衝撃はどれほどのものか、私は自分に置き換えるまでもなく、彩寧の驚愕の程を共感した。「私は「お兄ちゃん」でいいと思うわよ。少し子どもっぽいけど、宗司さんが「お兄ちゃん」と呼ばれている姿はなんだかちょっと可愛いし。それに私は彩寧に「お義姉ちゃん」と呼ばれたいの。だから宗司さんは「お兄ちゃん」、私は「お義姉ちゃん」でどうかしら?」 私は宗司さんを助けるためにも提案を出した。「宗司先輩を「お兄ちゃん」と呼ぶの
最終更新日: 2025-12-20
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