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Novels by 柳アトム

『ふたつの鼓動が気づくまで』 双子の妊娠がわかった日に離婚届を突きつけられました

『ふたつの鼓動が気づくまで』 双子の妊娠がわかった日に離婚届を突きつけられました

杵島 充希(きじま みつき)は大手企業・大和田グループの社長の娘。 そんな充希は大和田グループとライバル関係にある杵島グループの社長・杵島 宗司(きじま そうじ)と結婚をする。 しかし、この結婚は偽装結婚で、三年間という期間限定で離婚する「白い結婚」だった。 だが、結婚二年目の節目の日に、充希と宗司は白い結婚の誓いを破り、一線を越えてしまう。 このことで双子を妊娠した充希は、これを機に、偽装結婚ではなく本当の夫婦として暮らすことを宗司に提案しようと考える。 しかし、妊娠が判明したその日に、充希は宗司から離婚届を突き付けられてしまう。
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Chapter: 第三十一話 取り乱す私 1
 母が身支度を整え、病院に急行しようとしている。  母の身支度は速い。それはいつ呼び出しがあっても、すぐ駆けつけられるように、常に意識と準備を怠らないからだ。「……私も一緒に行く」 母にすがるように私は呟く。  自分の声が、他人が喋っているように聞こえる。  もしくは、毛布をすっぽり被って、その中で喋っているような感覚。 ───私は気が動転している。 頭では理解できたが、この動揺にどう対処すればよいのか方法がわからなかった。 そんな私を母がしっかりと抱き締めてくれた。「|充希《みつき》、気をしっかり持ちなさい。落ち着いたら連絡するから、あなたは家にいるのよ」 抱き締められると頭の中の霧が急速に薄らいだ。  私は耳が聞こえるようになり、普段通り喋れるようになる。「でも───っ!」 咄嗟に私は母に食い下がろうとする。  家に留まるよう言われたが、居ても立ってもいられそうになかった。  しかし、それは|幸恵《さちえ》に制された。「充希、お母さんのおっしゃる通りよ。家で待ちましょう。あなたが病院に行ったって、何もできないでしょ?」「でも、私は宗司さんの妻よ! 夫が事故に巻き込まれたのに病院に行ってはいけないの!?」 そう叫ぼうとしたが、私は叫べなかった。  叫ぼうとした瞬間、離婚届にサインをした記憶が鮮明に蘇ったからだ。    ───そうだ……。私は宗司さんの妻じゃない。もう……もう、私は赤の他人なんだ……。 私は幸恵にしがみつくと声をあげずに涙を零す。  そんな私を幸恵は優しく包むように抱き締めてくれた。「|碧《みどり》さん、私が充希と一緒にいます。今日は泊めていただいても宜しいでしょうか?」 幸恵の申し出を母は二つ返事で了承した。「もちろんよ。幸恵さん、ありがとう。幸恵さんが充希と一緒にいてくれるなら安心だわ。宜しくね」 それから母は、家を出る前に私に話しかける。「充希、辛いけど頑張るのよ。あなたは今日、誓ったわよね? 宗司さんにふさわしい妻になるって。充希ならできる。充希なら宗司さんにふさわしい妻になれる。お母さんはそう信じてる。だって充希はお母さんの娘なんだから」 母の言葉は胸にしみた。  母の深い愛情が感じられ、私は力を取り戻す。「わかった。家で待つ。でも、何かあったらすぐに連絡をお願い。  それか
Last Updated: 2025-08-30
Chapter: 第三十話 親友と母に相談 2
「そ、そんなに可笑しいことを私は言った? 真剣に悩んで相談してるんだけど」 私は口を尖らせる。「ごめんね、充希」 母は目じりに浮かべた涙を指で拭う。  幸恵は息が出来なくなるほど大笑いして苦しそうだったが、ようやく落ち着いて私の話を聞く姿勢に戻った。「どちらにせよ、宗司さんとちゃんと会って、お話をすることは良いことよ。応援するわ、充希」 母は私の手に自分の手を重ねると、力強くギュッと握ってくれた。「私も宗司と充希が話し合いをすることには賛成よ。  ───但し! 今度は私も充希と一緒に行きます」 私は幸恵のその宣言に「え~?」と不服そうに声をあげる。「当たり前よ。前回、充希だけを行かせてどうなったか忘れたとは言わせないわよ。親友としてもそうだけど、充希の担当産婦人科医としても、一人で宗司との話し合いに行くことは許可できません。  でも、安心して。一緒に行くけど話し合いのテーブルには同席しないから。宗司とは充希が二人だけでじっくり話をして。私は離れた場所から充希を見守っているからね」 幸恵も自分の手を私の手に重ねて握ってくれた。 二人から勇気をもらった私は早速、決意を行動に移そうとする。 そんな矢先───。  突然、母のスマホの着信音が鳴った。  その音に母の表情が引き締まる。  何故なら、この着信音は病院からの呼び出し電話の際に鳴る着信音だったからだ。 母は電話を受けると、真剣な表情で相手の話を聞き始めた。 しかし、すぐに「───えっ!?」と声をあげて立ち上がると、大慌てでテレビのリモコンを掴み、音量をあげた。 丁度、夜のニュース番組の途中だったが、そこでは私たちの住んでいる町のすぐ近くで、車同士が正面衝突し、一台の車が爆発炎上するニュースが報道されていた。 大きな事故がすぐ近くで発生している事実に驚き、私と幸恵もテレビに釘付けになる。『───現場は片側二車線の幹線道路で、高齢者男性が運転する車が何らかの理由で道路を逆走し、事故を起こしたものとみられます。  被害者の車は|杵島《きじま》グループ社長・|杵島 宗司《きじま そうじ》氏の乗った車で、杵島氏は車の爆発に巻き込まれて意識を失い、病院に運ばれたとのことです。  尚、杵島氏の生死は明らかにされていませんが、搬送時に意識はなかったとのことです。  繰り返します──
Last Updated: 2025-08-29
Chapter: 第二十九話 親友と母に相談 1
 餃子パーティーをひとしきり楽しんだ私たちは後片付けをし、食後に温かいお茶で一服した。「それで、|充希《みつき》が私たちに相談したいことって何?」 |幸恵《さちえ》が話の口火を切ると、母も私の「相談したい」という話の内容が気になったようで、後片付けの手を止めてテーブル席についてくれた。「そのことなんだけど、私は宗司さんの妻として自覚が足りてなかったことに気が付いたの」 幸恵と母は、それはどういうことかと顔を見合わせた。  私は総合病院の事務の同僚に言われた「男性に好かれそう」という一言の件について、幸恵と母に伝えた。「それは考え過ぎじゃない?」 まず母がそう言って私を擁護してくれた。「そうよ。充希が誰に対しても分け隔てなく、優しく接するのはとても良いことよ。充希は悪くないわ。充希に優しくされて勘違いする男が悪いだけよ」 幸恵も私を励ましてくれる。 二人の優しさは嬉しかったが、私は甘えるわけにはいかなかった。「偽装とは言え、私は有名大企業の社長の妻だったの。その立場には責任が伴うわ。でも私はそうした責務を全うしたかと聞かれたら、胸を張れる自信がないの。  どこかに宗司さんの「本当の妻じゃない」という甘えがあったわ。  宗司さんと本当の夫婦になりたい。これからもずっと一緒に結婚生活を送りたい。もし私が本気でそう思ったなら、自ずと立ち振る舞いや、他の人との接し方も変わったはず。  でも私はそうしなかった。そうできなかった。そうした考えに至っていなかった。  未熟だったわ。  宗司さんはそんな私に愛想を尽かしたと思うの。だからまずは宗司さんに謝りたい。そして自分を改め、宗司さんに|相応《ふさわ》しい妻になることを誓いたいの」 幸恵と母は、口を少し開いてポカーンとした表情になったが、すぐに二人で同時に吹き出すと、声をあげて大笑いをした。「充希ったら、そんな風に思い詰めていたのね」 母は大笑いをしたが、真剣な私の悩みに対して笑ってはいけないと思ったのか、手を口に当てて笑いを抑えようとした。  しかし、どうしても抑えきることができず、笑いが喉の奥でクックックッと漏れた。「本当に充希は真面目なんだから! 中学や高校の頃から何も変わってないのね。まあでも、とても充希らしいわ」 幸恵は私に何一つ憚ることなく、お腹に手を当てて笑
Last Updated: 2025-08-29
Chapter: 第二十八話 餃子パーティー
 今日は|幸恵《さちえ》が母・|碧《みどり》の家に来ていた。「はい、|充希《みつき》」 幸恵は|餡《あん》を|一掬《ひとすく》いすると、餃子の皮の上に乗せて私に手渡す。 私は「はい」と返事をして受け取ると、手慣れた手付きで餃子の皮を包む。 私が餃子を包み終えると、幸恵はまた「はい、充希」と言って餡を乗せた餃子の皮を私に手渡す。そして私はまた餃子を包む。 こうして私たちは手作り餃子を次々とお皿に並べていった。 こうした流れ作業を黙々とこなすことを、私は嫌いではなかった。 むしろ、お皿いっぱいに自分が包んだ餃子が綺麗に並べられた「《《成果物》》」を見ると、大いなる達成感が得られて心地良かった。 私は手芸が好きで、よく刺繍や編み物もするが、黙々と作業をこなし、ある程度、時間が経過してから全体を見渡した際、ずらりと刺繍や編み物が出来上がっている姿に喜びを感じるのだが、手作り餃子はそうした刺繍や編み物に通じる達成感を得られた。「はい。餃子が焼けたわよ」 母・|碧《みどり》がキッチンからフライパンを持ってやってきた。 フライパンには、初めに私、幸恵、母の三人で手分けして包んだ手作り餃子が香ばしい匂いを漂わせつつ、美味しそうに焼き上がっていた。 私と幸恵は歓喜の声を上げる。 そして嬉々として餃子に箸をのばし、自分たちで作った手作り餃子に舌鼓を打った。 今日は久しぶりの「《《餃子パーティー》》」の日だった。 偶然にも、私、幸恵、母の三人の休みが重なったのだが、その瞬間、私と幸恵が「「餃子パーティーをしましょう!」」と声をハモらせたのだ。 幸恵とは中高一貫校の六年間以来、ずっと親友の間柄だったが、定期的にお互いの家に集まっては、こうして餃子パーティーを開催していた。 出来合いの餃子や、中華料理店の餃子も美味しいが、手作り餃子は、まず自分たちで作るという行為自体が楽しいのと、ニンニクを少量に抑え、ショウガを多めにするなど、好みの味付けにカスタマイズできる自由さや、変わった具材を入れてみて、味がどう変化するか試してみるという冒険のスリルも味わえる事が楽しくて、私たちは定期的に餃子パーティーを開催していた。「碧さんが包んだ餃子はすぐにわかるわね。本当にお店で買ってきた餃子みたいに完成度が高いもの」 幸恵が言う通り、母の包んだ餃子はお店で買ってきた餃子
Last Updated: 2025-08-28
Chapter: 第二十七話 事故(side:宗司) 2
 まさかこんな町中の幹線道路でも、こうした逆走車がいるなんて……! 慌てて秘書がハンドルを切ったようだ。 俺は身体が振り回される。 しかし、大きな衝突音───。 これまで経験したことがない程の衝撃───。 次に気付いた時、俺は天地がひっくり返っていた。 どうやら車が|転覆《てんぷく》したようだ。 そう瞬時に理解した俺はシートベルトを外し、なんとか車のドアを開け、車外に脱出した。 シートベルトで締め付けられた肩や胸が痛んだが、重篤な状態ではなかった。 辺りを見渡すと、俺たちの車と、逆走車の破片が周囲に散乱していた。 逆走車も横転し、痛々しい状態だった。 逆走車の運転手は無事だろうか? そう思った俺はもう一人の運転手の事を思い出す。 そうだ! 秘書は無事なのか!? 運転席に駆け寄ると、秘書は気を失っていたが、エアバッグのおかげで、こちらも大事には至っていないようだ。 悪戦苦闘しつつも、俺は秘書を車から引きずり出し、安全な路肩に移動させた。 その頃には周囲に人が集まり、スマホで写真を取ったり、どこかに電話をかけたりと大騒ぎになっていた。 人々の声を聞いていると、警察や救急車に電話をしてくれている人もいるようだった。 その事は有難かった。自分で事故を通報しなくても周囲の人が助けてくれそうだ。 俺は安堵し、その場に腰を下ろそうとしたが───。「ガソリンの匂いがする!」「ガソリンが漏れているぞ!」 人々の悲鳴に近い叫び声だった。 周囲に集まった野次馬が二、三歩後ずさった。 見れば横転した逆走車からガソリンが漏れ出し、道路に広がっていた。「引火すると大変だ……!」 そう思った俺は考えるより先に身体が動く。 逆走車に駆け寄ると、車内を確認する。 中には運転席に一人、高齢の男性の姿があった。 しかし、どうやら気を失ってしまっているようだ。 俺は運転席のドアをこじ開け、なんとか相手を引きずり出すと、とにかく急いで車から離れようとする。 しかしその時、周囲の人々が叫んだ。「火が出たぞ!」「爆発する!」 俺は視界の端で、横転した車のエンジンルームから火花のような炎がチラリと吹き出したのを捉えた。 次の瞬間、辺りは真っ白になり、一瞬、爆発音が聞こえたが、次の瞬間に無音になった。 もの凄い力で自分が押し出されるのを感じる
Last Updated: 2025-08-28
Chapter: 第二十六話 事故(side:宗司) 1
 秘書がバックミラー越しに、何度も俺をチラ見してくる。 俺が何度「病院に行くのは身体に不調があるからじゃない」と答えても、それでも心配が拭えないようだ。 そこまで俺を気遣ってくれるのはありがたいが、少しばかり過保護が過ぎるのではないだろうか? まあ、でも今の俺は|充希《みつき》が心配で居ても立ってもいられず、充希がいないとわかっていても充希の勤めている病院に行こうとしているのだ。 身体は大丈夫でも、心は病んでしまっているといっても過言ではないかもしれない。「あの……。社長、本当に───本当にお身体のどこかに不調があるのではないのですね?」 もう何度目かの同じ質問をまた秘書がしてきた。 どうやら俺が繰り返し「大丈夫だ。俺の身体はなんともない」といっても秘書が安心しないのは、俺自身が「心が病んでいる」と自覚しているように、自信のなさがあらわれているからかもしれない。「本当に大丈夫だから、そんなに心配しないでくれ」「はあ……。しかし、やはり社長はどこか疲れているというか、悩んでいるというか。とにかくいつもと違う感じがしてならないのです」 この秘書は本当に俺をよく観察しているな。 俺は舌を巻いた。 秘書の言う通り俺は悩みを抱えているわけだが、そのことに気づくとは───。 それだけ俺のことを気遣ってくれているということだ。 感謝しなくてはならない。 しかし過保護が過ぎるのはいただけないので、俺はまた何度目かの返答をする。「本当に大丈夫だ。ちょっと思う所があって病院を見たいだけだ。そんなに俺を心配せず、しっかり前を向いて運転をしてく───」 ───最後まで言いかけたその時だった。  片側二車線の幹線道路を走行していた俺たちだったが、前を走る車が急に車線を変更し、何かを避けるように隣のレーンに移動した。 次の瞬間───。 目の前に車のヘッドライトが飛び込んできた。 なぜだ!? どうして目の前に車のヘッドライトが!? 背中に冷や水を浴びせられたように、全身に危機感が駆け巡る。 ───《《逆走車》》だ! その瞬間、昨今、車の逆走による事故が全国で多発しているニュースが脳裏に浮かぶ。
Last Updated: 2025-08-28
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