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みだん
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Romances de みだん

婚約破棄されました。告発内容は、すべて事実です  ~前世で魔王だった悪役令嬢は、宿敵だった皇太子に溺愛される~

婚約破棄されました。告発内容は、すべて事実です  ~前世で魔王だった悪役令嬢は、宿敵だった皇太子に溺愛される~

「この女は――数万を焼き殺した、魔王です」 聖女候補の告発は、一言残らず事実だった。 前世、わたくしは大陸の三分の一を焼いた魔王。今世では普通の恋に憧れる公爵令嬢として生きていたのに、卒業パーティーで正体を暴かれ、婚約破棄と処刑を言い渡される。 そこへ現れた隣国の皇太子は、すべてを知った上でわたくしを求めた。 「ええ。あなたが魔王だったことも、すべて信じております」 濡れ衣ではない。罪も過去も、すべて本物。 罪を抱えた元魔王の令嬢と、彼女のすべてを知って愛する皇太子。 二度目の生で結ばれる、宿敵たちの溺愛ラブファンタジー。
Ler
Chapter: 第21話 ――ヴェルギア、下がれ
時間が、止まった気がした。短刀は、届かなかった。私は下がっていた。名を呼ばれた通りに、考える前に、身体が従っていた。刃が空を切り、アルヴィス様の影の魔力がそれを絡め取って、地に落とした。男が拘束される音がした。ガイル様の声が何か言っていた。けれど、私の耳には、もう何も入ってこなかった。私は、彼を見ていた。アルヴィス様は、剣を下げたまま、こちらを見ていた。彼の顔から、色が引いていた。完璧な皇太子の仮面が、初めて、完全に剥がれていた。「――ヴィオレット」彼が、私の名を呼び直した。けれど、遅かった。もう遅い。「今」自分の声が、遠くから聞こえた。「今、なんて」「ヴィオレット、これは」「なんと、仰いました」彼は答えなかった。答えられなかったのだと思う。私は、その名を知っている。もちろん、知っている。ヴェルギア。前世の、私の名だ。焔獄の魔王ヴェルギア。大陸の三分の一を支配し、勇者一行を退け、そして――一人の男と相打ちになって死んだ、私の名前。この世界で、その名を知る者は。いない。いないはずだった。私は誰にも語っていない。シェラにさえ、自分から名乗ったことはない。前世の名は、私一人だけの、閉じた記憶のはずだった。なのに。今、この人の口から。|躊躇《ためら》いもなく。呼び慣れた響きで。周りの音が、戻ってきた。騎士たちが負傷者を運んでいく音。ガイル様が誰かに指示を出す声。片づけられていく短刀や矢の、金属が擦れる音。日常の音だ。けれど私には、それがひどく遠くに聞こえた。「アルヴィス様」私は
Última atualização: 2026-09-01
Chapter: 第20話 暗殺者
木立の影が、動いた。一つではなかった。私は窓から離れなかった。離れれば、こちらが気づいたと悟られる。――数を、数える。木立に三。噴水の裏に二。東の回廊の柱の陰に、たぶん一。六。いや。屋根に、二。八だ。私は、ゆっくりと窓辺を離れた。灯りを消さなかった。消せば合図になる。寝間着のまま、壁伝いに扉へ向かった。――シェラを起こす。そう思ったところで、扉が音もなく開いた。シェラが、すでにそこにいた。「お嬢様」囁き声だった。侍女服ではなく、動きやすい黒の上下に着替えている。いつ着替えたのか。「八人」私が言うと、彼女は首を振った。「十一でございます」「……十一?」「厨房の裏に三。あれは先ほど壁を越えました」彼女は淡々と言った。「屋根の二名は弓。回廊の一名が指揮。残る八名が突入班かと」「シェラ、あなた」「四天王が一、灰塵のシェラハドでございます」彼女は初めて、少しだけ笑った。「斥候と暗殺を束ねておりました。同業の手癖は、見れば分かります」「アルヴィス様は」「あちらはご心配なく」「なぜ」「宮の警備が動いておりません」シェラは言った。「これだけの人数が壁を越えて、見張りの一人も騒がぬはずがない。にもかかわらず静かだということは」「……内応者がいる」「あるいは」彼女は目を細めた。「――すでに、あちらが把握して泳がせている」*廊下へ出た。灯りが半分落とされている。夜半以降はいつもそうだ。角を曲がったところで、正面から人影が来た。私は反射的に構えを取り、そして止めた。「ヴィオレット」アルヴィス様だった。夜着ではなかった。黒の軍装だ。剣を佩いている。「起きていたか」「……はい」「窓から見たな」「はい」「そうだと思った」彼は微かに笑った。「あなたの部屋の灯りが、見張りより先に消えなかった。よく気づいてくれた」「泳がせておられたのですか」「三日前から」彼は言った。「グレンツ侯の家令の一人が、先週アーデルハイドの商人と会っている。金の出所は聖教会だ」私の指先が冷えた。「侯爵閣下が――」「侯は関係ない」彼は即答した。「家令が個人的に買われた。侯自身は今夜、東棟で私の兵と一緒にいる。自ら申し出た」「ヴィオレット。頼みがある」「はい」「後ろにいてくれ」私は、
Última atualização: 2026-08-29
Chapter: 第19話 眠れない夜
その夜、私は数えようとした。寝台に横たわって、天井を見上げて、数えようとした。――何人だったろう。数万、とミナさんは言った。正確な数字を、私は知らない。前世で、そんなものを勘定した覚えがない。落とした街の名前は覚えている。焼いた城の位置も、季節も、天気さえ覚えている。けれど、人の数は。一度も、数えなかった。数えられないなら、顔を思い出そうとした。ひとつでいい。誰か一人の顔を。目を閉じた。炎が見えた。それはすぐに出てくる。赤の、もっと奥にある色。あの色は忘れようがない。その中に、人がいたはずだ。――誰か。輪郭が浮かびかけて、すぐ崩れた。もう一度、試した。崩れた。私は寝台の上で身体を起こした。思い出せなかった。一人も。前世で、私が終わらせた人間の顔を、私は一つも覚えていない。背中は覚えている。逃げていく背中。あれは風景として覚えている。けれど顔は、ない。――見ていなかったからだ。私は、見ていなかった。戦の前に敵の総数を数え、地形を測り、退路を塞ぎ、そして片づけた。片づけるものを、一つずつ見る必要がなかった。見ていたら仕事にならなかった。だから見なかった。そうやって十九年生きて、二十三で死んだ。私は寝台から降りて、窓辺の椅子に座った。膝を抱えた。――ならば、私が背負っているものは、何なのだろう。数も知らない。顔も知らない。名前など、一つも。私が知っているのは「数万を焼いた」という言葉だけだ。言葉だけを抱えて、私は罪だ罪だと言っている。それは、償っていることになるのだろうか。――なっていない。はっきりと、そう思った。罪の重さを感じている自分に、少し酔っていたのではないか。赦されてはいけないと繰り返すことで、何かをした気になっていたのではないか。本当に背負うというのは、たぶん、そういうことではない。けれど、では、どうすればいいのか。分からなかった。窓の外は、深い夜だった。庭の輪郭がぼんやりと見える。タリアの木立。石畳。噴水。――この国は、大陸に敵と呼ばれる。昼間の書簡が、頭の中で繰り返される。教会は大陸中の信徒に告知する。レーヴェンハルト帝国は災厄を庇護している、と。港が締まる。交易が滞る。そのぶん、誰かが困る。宿場の主人。息子が騎士団にいる
Última atualização: 2026-08-29
Chapter: 第18話 聖女の託宣
封を切ったのは、アルヴィス様だった。「私が読む。……構わないか」「はい」朝食の間に、四人がいた。私とアルヴィス様。壁際にガイル。扉の脇にシェラ。彼は書面を広げ、しばらく黙って目を走らせた。そして、言った。「――くだらん」初めて聞く声だった。「アルヴィス様?」「読み上げる。腹が立ったら止めてくれ」「『聖教会アーデルハイド管区、大司教バルドウィンより、レーヴェンハルト帝国皇太子アルヴィス殿下へ』」大司教。聞き覚えのない名だった。あの夜の司祭は、もっと下の位のはずだ。「『先般、貴国が我が国より連れ出されたヴィオレット・ノクスハイムなる女につき、看過し難き事実が判明いたしました』」「……はい」「『聖女候補ミナ・レンフィールドに、繰り返し託宣が下されております。曰く、かの女は人の身に非ず。曰く、かの女は大いなる災いを大陸にもたらす』」私は、フォークを置いた。「『我らは貴国の主権を尊重するものでありますが、事は一国の問題に留まりません。つきましては、かの女の身柄を聖教会に引き渡し、審問に付されたく』」ガイルが、低く唸った。「『応じられぬ場合、教会は大陸全土の信徒に向け、レーヴェンハルト帝国が災厄を庇護せる国であることを告知せざるを得ません』」アルヴィス様は、そこで書面を置いた。「――以上だ」「殿下」ガイルが一歩前に出た。「これは、脅しでございます」「そうだな」「教会が大陸中の信徒を煽れば、交易に響きます。北の三国は教会の影響が濃い。港が締まれば」「締まればいい」彼は即答した。「三年は持つ。その間に別の航路を開く。ガイル、東方の商会に人をやれ」「……はっ」「それと、この文面を写して各国の宮廷に回せ。原文のままでいい」「原文を、でありますか」「読んだ者は考える。『次は自分の国か』と」ガイルが、深く礼をして出ていった。私は、その背中を見送った。そして、口を開いた。「アルヴィス様」「うん」「わたくしが、行けば」「駄目だ」「ですが、これは帝国に何の利も――」「ヴィオレット」彼は書面を折りたたんだ。「この文書には、決定的な嘘がひとつある」「嘘」「『審問に付されたく』の部分だ」彼は言った。「教会に審問という手続きはない。あるのは糾問だけだ。あれは結論の決まった儀式で、二百年の記録で無罪が
Última atualização: 2026-08-29
Chapter: 第17話 はじめての、褒められかた
決闘の翌日から、皇城が変わった。廊下ですれ違う侍女が、壁際に寄らなくなった。寄らないどころか、立ち止まって礼をする。そのあと、顔を上げて笑う者までいる。「おはようございます、ヴィオレット様」「……お、おはようございます」「昨日は、拝見しておりました。三階の窓から」「そう、ですか」「あの、その」若い侍女は頬を紅潮させて言った。「かっこよかったです!」そして|脱兎《だっと》のごとく走り去った。私は廊下に取り残された。*そういうことが、一日に十回ほど起きた。厨房の前を通れば料理人が出てきて「今朝の焼き菓子は特別に作りました」と言う。中庭を歩けば庭師が「あの砂は片づけましたのでご心配なく」と言う。練兵場の前を通ったら、修繕中の石工が槌を置いて頭を下げた。「あの、修繕費は、わたくしが」「とんでもない」石工頭は笑った。「あれは名誉の穴でさあ。うちの若いのが、削った石を欲しがって喧嘩しております」「……喧嘩」「お守りにするんだと」私は、返す言葉がなかった。*昼過ぎ、マルグリット夫人の教育があった。彼女は白磁の茶器を前に、片眼鏡を光らせた。「本日で、七日目でございます」「はい」「破損、ゼロ」「……はい」「歩容、良好。礼の形、完成。表情については――」夫人は言葉を切った。「本日の侍女の交代は、ございません」私は目を瞬いた。「あの、それは」「一人も、逃げませんでした」夫人は片眼鏡を外した。「ヴィオレット様。四十年やってまいりましたが、七日でここまで来た方は、記憶にございません」「……いえ、そんな」「ご謙遜は不要です」「本当に、たまたまで」「たまたま、五客割ってから七日で白磁を扱えるようにはなりません」「ですが、皆さんが手を貸してくださったので」「ヴィオレット様」夫人の声が、少しだけ硬くなった。「なぜ、受け取らないのです」*その夜、私はそのことを考えていた。窓辺の椅子に座って、暮れていく庭を見ていた。――受け取らない。そう言われて、初めて自覚した。今日一日、私は何十回か褒められた。そのすべてに、私は同じ返事をしていた。いえ、そんな。たまたまです。皆さんのおかげです。嘘ではない。本当にそう思っている。けれど。「入っても」扉の外から声がした。「……どうぞ」アルヴィ
Última atualização: 2026-08-29
Chapter: 第16話 決闘
決闘は、翌朝と決まった。帝国の作法では、申し込みは即日、立ち会いは翌朝と定められている。夜を一つ挟むのは、双方に考え直す機会を与えるためだそうだ。私は、その夜を眠らずに過ごした。「やめてもいい」夜半、部屋を訪ねてきたアルヴィス様が言った。「私が発端だ。私が撤回すれば、彼も引く」「……いいえ」「無理をする必要はない」「無理では、ありません」私は窓辺に立ったまま答えた。「怖いのです」彼は黙った。「負けるのが怖いのではありません。それは、たぶん、ありません」言ってしまってから、傲慢だと思った。けれど嘘は言えなかった。「怖いのは」私は、自分の右手を見た。「――殺してしまうことです」「わたくしは、今世で人と戦ったことがありません」指が、震えていた。「魔獣は違います。あれは反射で構いません。ですが、人は」前世で、私が人に向けて手を上げた回数を、私は覚えていない。覚えているのは、どうやったかだ。身体が覚えている。相手の呼吸のどこを狙えば一息で終わるか。刃をどの角度で入れれば苦しませずに済むか。逃げる者をどう追えば最短か。そういう技術ばかりが、綺麗に残っている。「手加減というものを、わたくしは習ったことがないのです」私は言った。「加減して勝つ、という戦い方を、教わったことがありません。前世で必要がなかったから」「……そうか」「明日、あの方が本気で来られたら」私の指が、勝手に動く。魔獣のときのように。馬車の木枠のときのように。侍女の腕のときのように。「――わたくしは、たぶん、応えてしまいます」アルヴィス様は、しばらく何も言わなかった。やがて、彼は言った。「ヴィオレット」「……はい」「あなたは、七つのとき侍女の腕を折った」私は顔を上げた。話した覚えがなかった。「……なぜ、それを」「調べた」彼はあっさり言った。「不快なら謝る。だが、知っておきたかった」「……いえ」「その侍女は、今も公爵家にいる。三年前に厨房の主任になっている」「……はい」「あなたは、折った。折っただけだ」私は、息を止めた。「七つのあなたは、加減を知らなかった。だが、殺してはいない。腕を掴んで、折った。それだけで止めている」彼は、静かに続けた。「三月の階段でも、あなたは掴んで引き上げた。痣は残ったが、それだけ
Última atualização: 2026-08-29
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