「行きたいなら、さあ早く起きて歯を磨きなさい。朝ご飯を食べたら、一緒に行くわよ」さっきまで元気がなかったひなのも、このときばかりは勢いよく立ち上がり、小走りで洗面所に向かった。陽平もそれに続いた。洗面所には瑛介の母が用意しておいた歯ブラシとコップが並んでおり、歯ブラシにはすでに歯磨き粉までつけられていた。それを見たひなのが陽平と目を見合わせ、やがて瑛介の母が入ってくると、声をそろえて言った。「おばあちゃん、ママが自分のことは自分でやりなさいって言ってたの。だから歯磨き粉は自分たちでつけるから大丈夫だよ」その言葉に、瑛介の母はふと手を止め、二人の頬を見つめた。孫たちに少しでも良くしてあげたい一心で、つい歯磨き粉まで用意してしまった。長年待ち望んだ、たった二人の孫だからこそ、知らず知らずのうちに甘やかしていたのだ。「そうね......おばあちゃんが間違っていたわ。便利にしてあげたつもりだったけど、ママの言う通り、自分のことは自分でやらなきゃね」「でも今日はおばあちゃんがしてくれたんだから、お礼を言わなきゃ」陽平がすぐに言い直した。「ありがとう、おばあちゃん!」ひなのが元気よく続けた。瑛介の母はこの二人の愛らしさにすっかり心を溶かされてしまった。身支度を整え、朝食を済ませると、瑛介の母は使用人を呼び寄せ、車が用意できているか確認した。必要な荷物もすでに積み込まれていると聞き、二人を連れて家を出た。出発は早かった。屋敷に残された使用人たちは、去っていく車を見送りながら口を開いた。「奥様がいないなら、この一週間は手を抜いてもいいんじゃない?」「そんな馬鹿なこと言うな。ここの給料は破格だぞ。他の場所で何倍も働いても、この半分も稼げないんだから」主人の不在をいいことに怠けようとしていた者も、その一言に頭を冷やされ、余計な考えを抱くのをやめた。車が大通りに出たとき、向かいから黒いワンボックスカーが近づいてきた。すれ違う一瞬、互いに何にも気づくことなく通り過ぎていった。その頃、瑛介の母は車内で用意してきた飴を取り出していた。「今日は田舎に行くから、途中ちょっと揺れるかもしれないわ。飴を舐めれば酔わずに済むでしょう」二人は一つずつ受け取り、瑛介の母は袋をしまった。「おばあちゃん、なんで田舎に
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