Semua Bab そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜: Bab 101 - Bab 110

144 Bab

25.離さない⑤

「その……昨日は悪かったな。お前の手、振り払ったりして」 いきなり本題に突入してくる辺りが寛道らしい。 だけどお願い、もう少しクッションをっ。 心の準備が出来ていなかった私は、そわそわしながら、「あ、あのっ、それ、お、お互い様……だから」と途切れ途切れに返した。 そう。そもそも最初に寛道の手を拒絶したのは私。 そのくせ寛道から同じようにされて、ショックのあまり居た堪れなくなって逃げ出しちゃうとか……。 ワガママにも程があるよね。 「あ、のね、寛道。昨日……何で怒ったのか……聞いても……いい?」 私の手を振り払った時、寛道は確かに怒りに震えていた。 私はそんな寛道を見たことがなかったの。 いつまでも――。 例えばお互いに彼氏や彼女が出来たとしても。 私たちはずっとずっと仲の良い幼馴染みのままでいられると思っていた。 あの拒絶は、それを根底から覆すものに思えたから。 だから私、すごく不安になってあの場を逃げ出したの。 寛道の怒りの理由を聞いてしまったら、今までの関係ではいられなくなる。 直感的にそう思ったのだけれど。 でも、それを明らかにしないままじゃ、私は頼綱と幸せになることは出来ない。 「あれは――。お前が俺のやったモン、人に……っていうかそこのオッサンに食わしたって言うから」 そこまで言ってバツが悪そうに頼綱を気にする寛道に、私はキョトンとする。 「それって……そんなに重大なことだった?」 恐る
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-01
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25.離さない⑥

 私は寛道のことを幼馴染み以上とも以下とも思ったことがなかったから。 だからその関係をダメにしてしまいそうな寛道の感情が本気で憎らしくて――。 それと同時に、どうして私、寛道を好きになれなかったんだろうって思った。「花々里《かがり》。お前は――」 寛道が、私の手を握る手に気持ち力を込めてきて。 私は運転に集中している〝ふり〟をしている頼綱《よりつな》にちらりと視線を投げかける。「ごめん、寛道。私、貴方の気持ちには……応えられない」 寛道の手を、握られていない方の手でそっと外しながら、一生懸命言葉を紡ぐ。「あのね、寛道。私、頼綱のことが……好きなの。多分……出会った瞬間から……ずっと」 それは、頼綱自身にですら面と向かって告げてはいない言葉。 私が寛道にそう告げた瞬間、今までポーカーフェイスを決め込んでいた頼綱が、一瞬ピクリと肩を震わせたのが分かった。 私はそれを見て、にわかに恥ずかしくなる。***「着いたよ」 車内が気まずい空気に包まれたちょうどその時、幸いと言うべきか、大学《もくてきち》に着いたことを頼綱《よりつな》が知らせてくれて。 私は弾かれたように窓外に視線を向けた。 そこは、往来の多い大学の正門前で。 あちこちから、門前に乗りつけられた如何にも高級車です、という頼綱のレクサスに好奇の視線が集まっている。「ひ、ろ、みち……」 それに気が付いてソワソワした私が、「降りよう?」って続けようとしたら、黙り込んでいた寛道《ひろみち》が、何も言わずにドアを開けて。 降りしな、頼綱に向かって「俺、1度フラれたぐらいじゃ、花々里《かがり》のこと、諦めたりしねぇから。アンタもそのつもりで」って吐き捨ててビックリする。 そんな寛道と頼綱を交互に見比べてオロオロしている私をミラー越しに確認した頼綱が、パワーウィンドウを少し開けて、「〝僕〟も花々里の手、死んでも離さないつもりだから。キミに付け入る隙はないと思うけどね」って聞いたことのないような低音で返すの。 寛道は頼綱の言葉に忌々しげな顔をして、ドアを少し乱暴にバタンと閉めた。 窓が開いていたからか、思いのほかドアが勢いよく閉まった気がして。 そのせいか、ドアが閉まる音に呼応したように、頭の奥の方が、ひときわ強くズキン!と痛んだ。 まさか頼綱と寛道が私を挟んでこんなことになるな
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-02
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26.この味、覚えてる!①

 屋敷に帰り着くなり、八千代さんに私の部屋に床《とこ》をのべるよう頼んだ頼綱《よりつな》に、「頭痛の原因はただの寝不足だと思うの。そんな大袈裟にしなくても大丈夫だよ?」って言ったら、「寝不足なら尚のこと布団に入るべきだと思うがね?」と睨まれる。 本当、ごもっともな言い分で。 何も言い返すことが出来ないままグッと言葉に詰まった私に、頼綱が「ときに鎮痛剤は飲んだのかい?」と畳み掛けてきた。 ふるふると首を横に振ったら、重ねて常備薬の有無を問われる。 時々生理痛がひどい時があるので、それ用の鎮痛剤を鞄の中に入れていたことを思い出しながらうなずいたら、キッチンに連れて行かれてすぐそこの椅子に座らされた。 そのまま待つように言われた私が、ポーチから取り出した薬を食卓に置いてぼんやりと座っていたら、グラスに水を注いで手渡してくれる。「今日は薬を飲んで大人しく寝ているように」 言われて、水の残ったグラスを手にしたまま「頼綱は平気なの?」と問いかけたら「俺は慣れてるからね」との返事。 そこで、スッと取り上げられたグラスを見るとは無しに目で追いながら、「慣れてるって……頭痛に? それとも寝不足に?」って思いを巡らせる。 どちらにしても、慣れるようなものじゃないのに!って結論に達して眉根を寄せたら「痛むのか?」と頭を優しく撫でられた。 ――今のは痛くて顔をしかめたんじゃないよ? そう返さなきゃいけないのに、手のひらから伝わってくる頼綱の温もりが心地よくて、ついつい手放したくないと思ってしまう。 結局、肯定も否定もしないままに「平気」とつぶやくように応えて、頭に載せられたままの頼綱の手にそっと触れてみる。「――あのね、頼綱。さっき……」 寛道《ひろみち》と話している時に、思わずポロリと吐露してしまった告白を、恐らく頼綱はしっかり聞いていたはずだ。 だけど……あれは頼綱に向けて発したものではなかったから……ちゃんと彼の方を見て伝え直し
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-03
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26.この味、覚えてる!②

「これをつまんでくださいまし。坊っちゃまも大好きなお菓子でございます」 そうして八千代さんが風呂敷から取り出した小箱を小さく揺すると、中からカサカサと微かな音が聞こえた。「それ……」 何が入っているんですか?と聞こうとしたら、シーッと唇に指を当てられて「食べる時のお楽しみでございます。早く元気になられてくださいね?」と布団にゆっくり寝かされる。  私は横たわりながら、机に置かれた小箱が気になって仕方がないの。  ***   布団の中、まんじりともせず机上の小箱を眺めていたら、「花々里《かがり》、ちゃんと休んでるかい?」 頼綱《よりつな》が枕元までやってきて私の傍らにひざまずくと、そっと頬に触れてくれる。「もう少ししたら俺は仕事に行くけど。なるべく早めに帰るようにするからゴソゴソしないで大人しく待っているんだよ?」 寝巻きに着替えて布団に寝そべっていた私は、頼綱の登場に我慢できなくなってゆるゆると身体を起こした。「こら、寝てないと――」 ダメじゃないか、と続いたのであろう頼綱のセリフを途中で遮るようにして、「あ、あの……頼綱。お仕事に行く前にあれを取ってくれない……?」 と、例の小箱を指さす。「八千代さんがね、頼綱も好きなお菓子だって……」  私の言葉に、立ち上がって箱を手にこちらを振り返った頼綱に、「中身が気になって眠れないの」って眉根を寄せて畳み掛けたら、瞳を見開かれた。「まったくキミって子は……」 溜め息まじりでつぶやかれた言葉は、でもその態度とは裏腹に、とても優しい声音で。 「食べたら眠れるかい?」 と箱のフタを取る。 布団に座った状態では、立っている頼綱の手元は見えなくて、私はコクコクとうなずいた。  そうしてみて、頭が痛まないことにホッとして……薬が効いてきたんだって思う。「昨夜甘い
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-03
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26.この味、覚えてる!③

 でも、だからと言ってネトネトして手にまとわりついて気持ち悪いってこともないの。「――そう言えば」 ふと思い出した私は、それをつまみ上げながら何の気なしにつぶやく。「ん?」 私の声に頼綱《よりつな》が小箱を机の弁当横に戻しながら私を見つめてきて、私はそんな頼綱を目で追いながら続けた。「子供の頃にね、大好きなお兄さんがいたって言ったでしょう?」 そこまで言ったら、頼綱がどこか不機嫌そうに眉根を寄せたのが分かって、私は一瞬ひるみそうになる。「ちっ、小さい頃の話だよ?」 それで言い訳がましくそう前置きをしてから、それでも最後まで話したい気持ちが抑えられなくて続ける。「そ、その人がね、いつも私におやつを持ってきてくれてたんだけど――。1番最初に食べさせてくれたのが、キャラメルだったの」 そう。 あれもこんな感じの、手作りっぽいキャラメルだった。 私にそれを手渡してくれたお兄さんのことは薄らとしか思い出せないのに、何故か受け取ったキャラメルのことだけは鮮明に覚えているの。 あの時のキャラメルと、包み方まで本当に似てるなぁって思いながら、手にしたそれをパクッと口に放り込んで――。 舌の上。口溶けの良い優しい甘みが広がっていくのを感じた私は、ややして瞳を見開いて動きを止めた。「頼綱《よりつな》! ――私……、この味、覚えてる!」 それは「〝こんな〟味」ではなく、紛れもなく「〝この〟味」と断言できるほどのインパクトで。 私が幼い頃からずっとずっと探し求めていた味だ!って思ったの。 売られている色んなキャラメルをアレコレ食べてみたけれど、どれもどこか違って……。 決して美味しくないわけではないのに、「これじゃない」って実感するたび、泣きたくなるぐらい切なくなったのを思い出す。 私、この味をあのお兄さんがいなくなってからずっと。 まるで彼を求めるみたいにひとりで探し続
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-04
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26.この味、覚えてる!④

 キャラメルを食べたままで眠ってしまったら、虫歯になりそうって思って、一旦布団から抜け出して歯磨きを済ませて廊下に出たら頼綱《よりつな》にギュッと抱きしめられた。「行ってくるね、花々里《かがり》。今日は急いで帰ってくるから……夜までには元気になっていておくれね?」 私を抱きしめたまま、耳元で甘えたようにそんなことを言うと、頼綱は名残惜しそうに、一度だけギュッと腕に力を入れてから、私を抱きしめる腕をほどくと仕事に出かけていった。 頼綱、今日は遅番で10時半からの勤務だから、終わるのは19時半になるらしい。 移動時間などを考えると帰宅するのは20時過ぎになってしまうんだろうなって思ったら、ちょっぴり寂しくなった。 台所にいらした八千代さんに、「今夜は頼綱が好きなものをたくさん作って待っていたいです」って言ったら、「今日は1日おやすみになって頂かないと、私《わたくし》が頼綱坊っちゃまに叱られてしまいます」とダメ出しをされてしまった。 それから、「心配なさらなくても、私《わたくし》が花々里さんの代わりにしっかり夕飯を作りますから」と続けるの。「今夜は卯の花の煎り煮、大根とニンジンの味噌汁、芋茎《ずいき》ときゅうりの胡麻酢和え、トビウオの塩焼にしようと思っています」 冷蔵庫を開けて、青々としたツヤッツヤのトビウオを見せられた私は、生唾を飲み込んだ。 新聞紙に包まれてテーブルに置かれた瑞々《みずみず》しい芋茎《ずいき》と大根は、今朝、農協主催の朝市でゲットしていらしたらしい。 さすが八千代さん。 美味しそうな和食の献立!って思っていたら、何故か「花々里《かがり》さん、いま私《わたくし》が申し上げたものの中に嫌いなものがございましたか?」と問いかけていらした。 ――なんで私? そう思ったけれど、きっと今朝おっしゃったように私が頼綱《よりつな》のプロポーズを受け入れたことで、「若奥様」認定をなさって色々気遣ってくださっているんだろうな、って思い至る。 余り気を揉ませるのも申し訳ないので、あまり深くは考えないで「全部美味しそうです
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-04
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26.この味、覚えてる!⑤

 そこでギュッと手を握られて、「今日は早く寝床に戻られて、夕飯の時は元気に沢山召し上がられてくださいね?」と布団に戻るよう念押しされてしまう。「ひいては、それが坊っちゃまにとって一番のご馳走になるのですから」 と重ねるようにもう1度付け加えられて、私は真っ赤になってうつむいた。 ここにいたら、照れ臭さで〝知恵熱〟が出てしまいそう。 そう思った私は、「……はい」と蚊の鳴くような小声で言いながら、台所の入り口まですごすごと引き下がった。 そこまできて、「あ、そういえば」と思い出して立ち止まる。「あ、あのっ」 言いさして再度八千代さんの方を振り返ってから、「八千代さんのお手製キャラメル、すっごくすっごく美味しかったです! ――その、また今度作り方を教えてください」 そう言ってペコリと頭を下げると、今度こそ自室に向かって踏み出した。 ***  薬のおかげかな。 あんなに痛かったのに、今や頭痛はすっかり鳴りを潜めている。 なのに、学校にも行かず家でゴロゴロしているだけとか……正直退屈すぎて辛いんだけど。 もう2時間もしないうちにランチタイムがきて、さして動いてもいないのにお弁当を食べなきゃいけない。 私の優秀なお腹の虫たちは、きっと動かずにいてもお腹減ったぞーって騒いでくれるはずで。 ましてや八千代さんに作っていただいたお弁当が美味しくないわけがないから、私、絶対ぺろっと平らげちゃうの。 下手したらキャラメルも全部。 ある意味それがすっごく怖い。 こんな食っちゃ寝してたら、絶対太っちゃう! 夜だって、頼綱《よりつな》が少し遅いみたいだから、夕飯もいつもより後ろ倒しになって、結果ゴロゴロしていたって、ちゃんとお腹は空いてくれていると思うの。 それがまた怖いっ。 いくら頼
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-05
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26.この味、覚えてる!⑥

 幸い、アレコレ思い悩んでいた割に、お昼に八千代さんお手製のお弁当に舌鼓《したつづみ》を打って、お腹が一杯になったら、私は割とすんなり眠りに落ちることができていた。 まさに食っちゃ寝を素でいってしまったのだけれど、カーテンの隙間から西日が差し込んできて顔を照らす気配で目が覚めたら、恐ろしいことに17時を過ぎていた。 食べたのは正午過ぎだったから、実に4時間以上寝ていたみたい! 食べてすぐに寝たら牛になるよ?って言うのはよく聞く言葉だけど、いまの私は豚さんになるのが怖くて堪りません! あ、でもでも私ね、キャラメルは手をつけずにおけたの、自分で自分を褒めてあげたいっ! 頼綱《よりつな》にも食べさせてあげたいって気持ちが、お腹の虫を調伏《ちょうぶく》したのよ!? すごくない? 布団の中、机に置いたままのキャラメルの箱を眺めて「よし!」とガッツポーズのつもりで拳を握ったら、お腹の虫が不満そうに「ぐぅー!」と鳴った。 ダメダメ! 今は〝まだ〟食べさせてあげないんだからね?  あと数時間もしたら頼綱が帰ってくると思ったら、ソワソワとワクワクが止まらなくて口の中に生唾が浮いてきた。 あ。違う、生唾は間違い! 頼綱は食べ物じゃないっ! ――キャラメルから一旦、思考を切り離さなきゃ! 結局そこからは私、布団の中で右に左にゴロゴロゴロゴロ転がりながら、甘い甘い味に思いを馳せながら過ごしたの。 八千代さんの手作りキャラメルってば、ホント手強いんだもん! *** 「花々里《かがり》、帰ったよ。ちゃんと良い子にしていたかね?」 頼綱《よりつな》は仕事から帰って手洗い・うがいをするや否や、着替えなどそっちのけですぐに私の部屋へ様子を見にきてくれた。「お帰りなさい、頼綱っ!」 にっこり笑って言ったら、「体調は?」 心配そうに聞かれて、私は問題な
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-05
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26.この味、覚えてる!⑦

「うちの両親が……丁度あの頃不仲のピークでね」 元々、仕事が忙しくて家にあまり帰って来なかった頼綱《よりつな》の父親と、家事があまり得意ではなくて、オマケに家に縛られたがらなかった頼綱の母親とは、すれ違い生活が続いていたらしい。 頼綱のお父様は、産婦人科の医院長をなさっていた関係で、お産が入れば家族そっちのけで職場へ急行するような人だったらしい。 頼綱自身、父親の顔が見たいと思ったら、父の働く『御神本《みきもと》レディースクリニック』に行く方が、家で待つよりも容易く会えたという。 父親には病院に行けば会えるけれど、母親は下手をすると本当に捕まらなくて、携帯に掛けてみても留守電になることが多くて、声が聞きたい時にも、一向に捕まらない母親だったのだそうだ。「まぁ、俺には幼い頃から母親のように接してくれた八千代さんが居てくれたからね。実際はそんなに不便も感じなかったし、寂しいと思ったこともなかったんだけれど――」 それでも何処かに母親が「いる」と思えるから耐えられた寂しさだった気がするんだ、と頼綱は言った。「その母親がね、とうとう他所《よそ》の男と恋に落ちたとかで――。父と離婚することになってね」 それが丁度、頼綱が中3の頃。高校受験を意識しなければならない時期と重なったのだという。 母親のことを薄情な女《ひと》だと思ったのと同時に、じゃあ自分が幼い花々里《わたし》にしている興味本位で自分勝手な行為はどうなんだろう?と考えるようになってしまったらしい。 最初は、幼くして父親を亡くした幼な子への言いようのない同情から。 次は子犬のように自分に懐く小さな女の子への純粋な好奇心から。「俺はね、きっと自分の中の満たされない思いを、キミに向けることである程度バランスを取っていたんだ」 頼綱《よりつな》の母親は、彼を顧《かえり》みず、外に愛情を求めてしまったけれど、自分の目の前にいるこの女の子は、ただひたむきに自分(が持ってくるお菓子)を待っていてくれる。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-06
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27.不安だから付けさせて?①

 大学を休んだ日の夜。 すっかり一緒の布団で眠るものだと覚悟を決めていた私は、いつもより少し遅めの夕飯と入浴を済ませたあと、頼綱《よりつな》に客間――一番最初に御神本《みきもと》家にやってきた日に羊羹《ようかん》をご馳走になった和室――に通されて。 それは何だか常ならぬものを感じさせて、逆に頼綱の部屋に通されるよりドキドキしてしまう。 今から何が始まるんだろう?と頼綱の対面に座して目を白黒させる私に、あの日と同じように八千代さんがお茶――と言っても今日は紅茶――を出してくださって。 一緒に、卵の使用量が多くてスポンジの断面が黄色っぽく見える、クリームたっぷりのロールケーキが置かれる。 これ、多分お母さんが大好きだと言っていた城山《しろやま》ロールだ。 直感的にそう思って、そういえば前に頼綱が伝手《つて》を使って取り寄せられるように手配していると話していたっけ、と思い出す。 それが届いたんだって生唾を飲み込みながら思っていたら、「八千代さんもこのまま」 お茶を出すなり退室しようとなさった八千代さんを呼び止めて、頼綱が居住まいを正して私の前に正座した。 もうそれだけで私、緊張のあまり口から心臓が飛び出しそうで。 ロールケーキに前のめりになっていた姿勢を、心を鬼にしてグッと起こした。「我慢させてしまったらキミは話が頭に入らないだろうし、食べながら聞いてくれたんで構わないからね?」 待ての下手な犬みたいにぷるぷると身体を震わせて何度も生唾を飲み込む私に、頼綱がふっと表情を和らげてそう言ってくれて。「八千代さんも。もし宜しければご自分のお茶とケーキを切り分けてきませんか?」 とか言うの。 八千代さんは頼綱の言葉に小さく笑うと、「ではお言葉に甘えさせていただきましょう」と一旦席を外した。「花々里《かがり》、食べていいよ?」 八千代さんを見送って、お皿の上のフォークをソワソワと見つめていたら、頼綱に再度促されて。 私はグッとこぶしを握って「みんなが揃ってからにする」と虚勢を張ってみせ
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