夜は死んだ。先程までの星々の瞬きも、月の静かな光も、全てが嘘であったかのように、世界はただひたすらに白い光に塗りつ潰されていた。それは夜明けの光ではない。影すらも存在を許さぬ、冷たく、そして神々しいほどに無機質な純白。そのあまりに異常な光景の下で、広場を埋め尽くしていた民衆は、ついに恐慌の渦へと飲み込まれていった。「な、なんなのだ、これはッ!?」「空が……空が、白くなって……?」祈る者、泣き叫ぶ者、当てもなく逃げ惑う者。先程までの儀式を待つ静寂は、今や阿鼻叫喚の地獄絵図へと姿を変えていた。その頃、王城のバルコニーや窓辺では、この「生贄の儀」を高みの見物と決め込んでいた継母やセリーナ、そして取り巻きの高慢な貴族たちが、眼下の混乱とはまた別の、しかし同様の恐怖に支配されていた。「ひっ……!な、なんなのです、この光は!?近衛兵!早く、早く何とかしなさい!」先程までの余裕綽々とした態度は見る影もなく、継母は金切り声を上げる。「いやぁっ!お母様、怖い、わたくし、怖いっ!」セリーナに至っては、その美しい顔を恐怖に引きつらせ、ただみっともなく悲鳴を上げながら床にへたり込んでいる。他の貴族たちも、その華美な装いが滑稽に見えるほど狼狽し、「ありえない」「悪夢だわ……!?」と、震える声で意味のない言葉を繰り返すばかり。彼らが信奉してきた権威も富も、この人知を超えた現象の前では、何の力も持たぬ無価値なガラクタに過ぎなかったのだ。喧騒と悲鳴が渦巻く広場の喧騒と、城のバルコニーで繰り広げられる滑稽なまでの狼狽。その狂騒の只中にあって、アイリスだけが、まるで世界の音から切り離されたかのように、静かに立ち尽くしていた。彼女の心は、恐怖よりも先に、ただ目の前の光景に、どうしようもなく心奪われていたのだ。夜が一瞬にして、永遠の白夜に塗り替えられるという、ありえない異常事態。その中心
Terakhir Diperbarui : 2025-06-07 Baca selengkapnya