「姫様、どうか、そのように『様』など付けてお呼びになりませんよう。わたくしめのことは、ただ、ジェームズと。そうお呼びいただければ、望外の喜びでございます」そう言って、目の前の骸骨は、どこか楽しげに、にこりと微笑んだ……ような気がした。もちろん、表情筋などないのだから、実際に笑ったわけではない。けれど、その佇まいや、眼窩の奥で揺れる青い光から、アイリスは確かに、柔らかな笑みを感じ取っていた。「……あ、ありがとう……ジェームズ」恐る恐る、そしてぎこちなく、彼の名を呼ぶ。正直なところ、長年他者のすべてを「様」付けで呼ぶのが当たり前だったアイリスにとって、その習慣をなくすのは、ひどく居心地が悪く戸惑うことだった。しかし同時に、胸の奥にじんわりと温かいものが広がっていくのも感じていた。骸骨ではあるけれど、こうして一人の人間として、丁寧に、そして敬意をもって接してもらえるのは、一体どれほど久しぶりのことだろう。その事実が、彼女の凍てついていた心を、ほんの少しだけ溶かしてくれるかのようだった。「姫様、お寛ぎのところ、まことに恐縮ではございますが、お着替えのお時間でございます。王子様が、姫様にお会いになるのを心待ちにされておりますので」ジェームズのその言葉に、アイリスははっと我に返った。そうだ、自分はこの国に「生贄」として、ここに連れてこられたのだ。忘れていた、その重い事実が、再びずしりと心にのしかかる。「……王子、様」その言葉を、自らの唇が紡いだ瞬間、アイリスの心臓が、とくん、と大きく高鳴った。──生贄。何をされるのか?殺される?いや、そもそも今の自分は生きている状態なのか……?そんなアイリスの内心を知ってか知らずか、ジェームズは静かに巨大なワードローブへと近づき、その重厚な扉をゆっくりと開く。その中に広がっていた
Terakhir Diperbarui : 2025-06-17 Baca selengkapnya