All Chapters of ケンブリッジ合格の後、夫と息子が後悔した: Chapter 1 - Chapter 10

これまでの記念日には毎回、三ヶ月も前から準備を始め、フォトアルバムを作り、ビデオメッセージを録画し、彼の出張先の都市まで飛んで行ってサプライズを仕掛けたものだった。けれど今、贈り物の箱は私がさっとゴミ箱に投げ捨てた。 くるりと背を向け、寝室に入るとバッグを手に取り、靴を履いて外出の準備を整えた。 新造はやや煩わしそうに私の腕を掴んだ。 「静香、真夜中にどこへ行くんだ？息子がまだ寝かしつけを待っているぞ」 「よくもこんなことを、新造」私は彼を見つめ、少し可笑しくなった。 「昔、私が真夜中に『どこへ行くの？』と聞いた時、あなたは『俺のプライベートに干渉するな』って言ったじゃない。今、私はもう聞かなくなったのに、あなたは逆に怒って、私の行動を詮索し始めたの？」 そう言い終えると、私はまっすぐにドアの方へ歩き出した。 「いつも通りわがままを言ってるだけだな！今夜戻って来なければ、二度と戻って来るな！」防犯ドアが背後で閉じる瞬間、彼の抑えた怒声が聞こえた。 その声には、私が失うことを恐れて必ず振り返ると彼が確信していることが滲んでいた。 しかし、私は歩みを止めなかった。目には嘲笑が溢れていた。 彼の目には、おそらく私はいつまでも彼なしではいられないピエロに映っているのだろう―― 卑屈で、依存し、選択の余地などない存在だと。 だが、ピエロだって仮面に倦きる時が来る。 この結婚は、あまりにも窮屈に違いない。 ならば、私が舞台から去ろう。「珍しいね、うちの希世の良妻賢母が、家で『王様』と『王子様』のお世話してないなんて？何かあったの？」カラオケボックスで、いとこがグラスを掲げて、からかうように言った。 「若いくせにおせっかいね。これから面白そうなことがあったら、私も誘ってよ」私は笑いながら彼女の肩を軽く押した。 いとこは「ふんっ」と吐き捨てた。 「家離れられるわけないでしょ、『王様』と『王子様』を放ったらかしにできるわけないじゃん」 いとこがそう軽くあしらうのも無理はない。新造と結婚してこの数年、私は自分自身を孤島のように生きてきた。 友達からの誘いには、いつも「今度ね」と答えてきた。 イーゼルにかかった未完成の油絵には、分厚いほこりが積もっている。 あの大好きだった書店にも、もう何年も足を

しかし彼の「結婚後はやはり安定している方がいい」という一言で、私が海外留学の誘いを諦め、夢を諦めた。 子供を産んでからは家庭に縛られ、家族に関わる全ての事柄が、私の仕事や休息の時間を犠牲にすることになった。 しかし、私の努力は認められず、父子に日々軽視され続け、最後には、彼らは他の女性を使って私の尊厳を踏みにじることを選んだ。私は深く息を吸い、所長室を訪れて退職を申し出た。所長は信じられないという表情を浮かべたが、それでも予想通りにうなずいた。 「君はもともと大空へ羽ばたくべき人材だった。どこへ行くかは決まっているのか？いつ出発するんだい？」「イギリスです。明後日」私は鞄の中の合格通知書――ケンブリッジ大学建築学科のオファーに触れながら答えた。「静香さん、イギリスに行くんだって？それじゃあ東間社長と新一くんはどうするの？」荷物をまとめていると、同僚の林（はやし）が近づいてきた。「私たちは離婚するの。彼らには新しい妻と母親ができるわ」私は机の上のフォトフレームを伏せ、写真の中の三人で抱き合う姿が影に没した。林は言いたげな様子だったが、結局何も言わなかった。設計事務所を出ると、夜はすでに深まっていた。家に帰り、センサーライトが点いた瞬間、私はリビングにあるスーツケースを見た。新造はちょうど、新一の上着をスーツケースに詰めているところだった。新一は新しく買った恐竜のランドセルを抱え、期待に満ちた様子で傍らに立っていた。玄関口には、あの奢侈品のロゴが印刷されたギフトボックスが、大きく誇示するように置かれている。それは由里香が自分のSNSで投稿した、欲しがっていた最新モデルのバッグだ。「急な出張だ。新一も連れて行く」私が戻ってきたのを気づいても、新造はまぶたすら上げようとしなかった。 突然、携帯電話の着信音が鳴り、彼は素早く受話器を取った。受話器から由里香の笑い声が漏れ、彼は毛をなでられた猫のように目を細めた。この表情は私にはあまりにも馴染み深い。五年前、彼が私を追いかけていた頃、まさにこうだった。 私が彼を見ているのに気づくと、彼は瞬時に笑顔を消し、電話を切った。「どうせ最近は子供の面倒を見る気もないんだろう？俺が子供を連れ出しても文句はないよな？」と言った。私は一言も発しなかった。争い

新造が放心状態で家に戻ると、鍵が錠前に三回も回ってやっとドアが開いた。 この動きを五年間続けてきたのに、今日に限って突然不慣れになってしまった。 「パパ！」新一が裸足で部屋から走り出てきた。「ママは？お腹空いたよ！」 彼は機械のように新一の頭を撫で、がらんどうのリビングを見渡した。 静香が大好きだったマグカップの片方がなくなっている。 靴箱にいつも履いていたベージュのスリッパも見当たらない。 「ママは」彼の喉が詰まり、突然冷ややかに笑った。 「機嫌を損ねてるんだ、すぐに戻ってくるさ！」 そしてまた独り言のように、「あの女が、どうして俺たち親子から離れられるわけがあるんだ？」と言った。 「パパ、どうしてママのものが全部なくなっちゃったの？」新一は首をかしげた。 「子供に何がわかる！」新造が突然声を荒げると、新一は震えた。 「お前の母さんは英検三級ですら再試験でやっと合格したんだぞ？それでイギリスでやって行けると思うのか？」彼はそう言いながら突然笑い声をあげ、バーキャビネットからウイスキーを取り出してグラスにたっぷり注いだ。 琥珀色の液体がグラスの中で揺れた。 そして、「あの女の顔色の悪い様を見ろ！何年も外出していないくせに、いきなりあんな遠くへ行けるわけないだろ？あの女にそんな度胸があるか！俺から離れたらあの女は何もできないんだ！」と続けた。 「パパ、ママはいつご飯作ってくれるの？」新一がおずおずと彼の服の裾を引っ張った。 「急かすな！」新造はイライラしながらネクタイを引きちぎった。 「あの女は長くても三日で、泣きながら戻って来て俺に謝るさ」彼は顔を上げてグラスの中身を一気に飲み干した。アルコールが喉を灼いたが、胸の漠然とした怒りを消し去ることはできなかった。 携帯電話の画面が光り、由里香からのメッセージが表示された―― 【新造、バッグとても気に入ったわ！明日ご飯おごるね！】 普段なら、とっくに即返信しているところだった。 だが今、彼はそのピンクのハートマークを見つめ、突然、静香は決してこんな絵文字を使わなかったことを思い出した。 彼女はいつもきちんと句点を打つ、彼女の性格と同じように、とりわけ趣がなかった。 「パパ！」新一が突然金切り声を上げて寝室から走り出てきた、手には一枚の紙

【静香、俺なしではお前は何もできないんだ！今のうちにさっさと戻って来い、そうすればまだ許してやってもいいぞ！】 その後、彼の口調は揺らぎ始めた。 【いったいいつまでそんなこと続けるつもりだ？息子が毎日泣いてお前を探しているぞ！】 【由里香の件は説明できる、戻って来い、落ち着いて話そう】 さらに時が経つと、彼のメッセージには哀れなほどの懇願さえ込められるようになった。 【静香、俺が悪かった……本当に悪かったとわかっている】 【戻って来てくれないか？俺と新一にはお前が必要なんだ】…… 私はこれらのメッセージを見て、ただ可笑しいと思った。 かつて私が病院に横たわり、独りで手術同意書に署名した時、彼は一言も気遣わなかった。 かつて私は数えきれない夜を徹して、ただ彼と新一の口に合う朝食を作るためだったが、彼は「それはお前がやるべきことだ」と言った。 そして今、彼はついに気づいた。 私が彼なしではいられないのではなく、彼が私なしではいられないのだと。 私はどのメッセージにも返信しなかったが、ある深夜、携帯電話が再び振動した。 【静香、いったい俺にどうしろっていうんだ！？】 私は画面を見つめ、ついに指を動かして、たった一言返信した。 【あなたの書斎の引き出しに、私が署名済みの離婚協議書を入れてあるわ。ご自身で署名しておいてね】 そして、彼のすべての連絡先をブロックした。 新造は完全に狂った。 彼は私を見つけられず、私のクラスメートや指導教授への嫌がらせを始め、大学の事務所に電話までし、「静香はどこにいるんだ」とヒステリックに詰め寄った。 マーティンが眉をひそめて携帯を差し出した。 画面には見知らぬ番号からの英語のメッセージが表示されていた。 【Professor, please tell shizuka that her husband and son are waiting for her. Family is the most important thing.（教授、静香に伝えてください、夫と息子が彼女を待っています。家族が最も大切なものですと）】 私は冷たく笑い声をあげ、即座に削除した。 しかし新造の狂気はそれだけにとどまらない。 彼はSNSで新一の写真を投稿し始め、つけている文章はすべて、【静香、新一が君に会いたがっている】

「あの頃の、あの良かった日々を、君は全部忘れてしまったのか？」と彼が続けた。 「覚えているわ。だからこそ、あなたが何度も私を傷つけた時、私はその度にチャンスを与えてきた」私はそっと手を引っ込め、ケム川に漂う枯れ葉を見つめた。「でも、あなたが反省したのは今になってから。新造、もう遅すぎるの。まるでこの枯れ葉のように、たとえ枝に貼り戻したとしても……もう二度と生き返ることはない」私は手のひらを広げ、一枚の枯れた葉を受け止めた。 「新造、知ってる？ケンブリッジでのこの二年間は、私の人生で最も自由な時間だった。私はもう誰かの妻でも、誰かの母親でもなく、ただ私自身だった。私はついに悟った、愛は卑屈な犠牲ではなく、対等な尊重であるべきだということを」私は立ち上がり、遠くのケム川にきらめく波を見つめ、口元をわずかに上げた。 彼はその場に硬直し、顔は紙のように青ざめていた。 「だから、私たちはここで終わりにしましょう」私は深く息を吸い、彼の目をまっすぐ見つめて言った。 そう言い終えると、私はくるりと背を向けて人混みの中へ歩き出し、二度と振り返らなかった。 「ママ！ママ！」背後から、新一の心が張り裂けるような泣き声が聞こえてきた。 私の心は激しく震えたが、足は止めなかった。 修復できない種の傷は存在する。 癒やせない種の亀裂は存在する。 そして私は、ようやく自分自身を愛する方法を学んだのだ。 後になって知ったことだが、新造は新一を連れてイギリスに引っ越してきたらしい。 彼らは私の生活を乱すことはなかったが、毎回の祝日にはこっそりと贈り物を届けてくれた。 時には手作りのクッキーで、包装紙には小麦粉がついていることもあった。 時には建築雑誌で、中には彼ら父子がケンブリッジの各カレッジの入口で撮った写真が挟まれていた。 たまに私は新一を数日間預かった。 彼を送り届けるたびに、決まって街角の街灯の下に、新造が適度な距離を保ちながら、立っているのが見えた。 十二月のケンブリッジは肌を刺すように冷たいのに、彼はただそこに立ち続け、私たちの部屋の明かりが消えるのを待ってから去っていった。 「ママ」ある時、新一が私のひざの上にあごを乗せ、指で私の服の端をくるくる巻きながら言った。 「メアリー先生は、間違いを認めて改めれ