「へぇ! じゃあ、あの密集の中で、たった一人でもサボったら相手に取られちゃう?」 美桜が目を丸くすると、陽斗は頷いた。「その通りです! 一瞬で相手にボールを奪われて、ピンチになる。ラグビーの基本精神は『One for all, All for one』……一人はみんなのために、みんなは一人のために、なんです。あの密集は、まさにその精神が試される場所なんですよ」 陽斗は自分のことのように、誇らしげに胸を張った。 試合を集中して見たいだろうに、初心者の美桜に解説するのを面倒がるそぶりもなく、楽しげに話している。(一人はみんなのために、みんなは一人のために……) その言葉は、まっすぐに美桜の心に響いた。 噂で孤立していた自分を、たった一人で庇ってくれた陽斗。彼の行動の根っこには、ラグビーで培われた仲間を見捨てない誠実な精神があるのかもしれない。 美桜はフィールドで戦う選手たちよりも、熱っぽく語る彼の横顔の方に、いつの間にか釘付けになっていた。(陽斗君のこと、もっと知りたい。もっと色んな話を聞きたい) 美桜は初めて心の底からそう思った。「あっ!」 選手たちの動きを見て、陽斗が身を乗り出す。「先輩、今のプレー、すごいんですよ! 相手のディフェンスラインのほんのわずかな隙間をあのスピードで突破するのは、神業なんです!」 子供のように無邪気で情熱的。 陽斗のそんな横顔を、美桜は見とれるように眺めていた。 ◇ 試合は二人が応援するチームが、試合終了間際、劇的な逆転トライを決めて勝利した。 最後のワンプレー、選手たちが泥だらけになりながらも、ボールを繋いで繋いで、ゴールラインになだれ込んだ瞬間。スタジアムは、割れんばかりの歓声と興奮に包まれた。「やった!」 陽斗は心の底から嬉しそうに叫ぶと、その興奮のまま美桜に向かってパッと手を差し出した。「やりましたね、先輩!」「うん! すごかったね!」 美桜も熱
最終更新日 : 2025-10-25 続きを読む