All Chapters of 償いのサイレン―救命士と死者の対話―: Chapter 1 - Chapter 10

12 Chapters

第1章:廃病院の呼び声

 翌朝、マキラは自宅のアパートで目を覚ました。いや、正確には目を覚ましたというより、眠れなかった夜が終わったというべきだった。 時計を見る。午前十一時。通常なら深夜勤務の後はぐっすり眠れるはずだが、昨夜は違った。目を閉じるたびに、あの駐車場の暗闇と、ぼやけた人影が脳裏に浮かんだ。 キッチンでコーヒーを淹れながら、マキラは自分に言い聞かせた。疲労による幻覚だ。十年間この仕事を続けてきて、精神的な疲弊が蓄積している。それだけのことだ。 しかし、彼女の手は微かに震えていた。 携帯電話が鳴った。消防署の上司、隊長の柴田からだ。「伊咲、昨夜はご苦労だった。ところで、あの廃病院で搬送した女性だが」「はい」「身元不明だそうだ。所持品なし、指紋も照合できない。意識も戻らない」 マキラは眉をひそめた。「身元不明? でも、誰かが通報したんですよね」「それが、通報の音声記録を確認したんだが……妙なんだ」「妙?」「無音なんだよ。誰も喋っていない。ただ、呼吸音らしき音だけが三十秒ほど続いて、切れた」 背筋に冷たいものが走る。「それで位置情報から救急車を派遣したと」「ああ。不気味な話だが、いたずら電話の可能性もある。ただ、実際に倒れている女性がいたわけだから、結果オーライではあるんだが」 柴田の声には困惑が滲んでいた。「今日は休みだから、ゆっくり休め。明日の夜勤、頼むぞ」 電話が切れた。 マキラはコーヒーカップを握りしめた。無音の通報。身元不明の女性。そして、あの幻影。 全てが繋がらない。しかし、繋がっている気もする。 彼女は窓の外を見た。十一月の午後の陽射しが、アパートの壁を照らしている。日常的な光景。しかし、その光の中に、マキラは言いようのない違和感を感じていた。 その日の午後、マキラは珍しく外出することにした。閉じこもっていても、あの映像が頭から離れない。気分転換が必要だと判断したのだ。 近所のスーパーマーケットで買い物をしている最中、マキラは奇妙なことに気づいた。 レジの店員の顔が、見覚えがある。 いや、それだけではない。通路ですれ違った老人、子供を連れた母親、商品を棚に並べているアルバイトの若者——彼らの顔が、全て同じに見えた。 同じ?  違う。正確には、全員の顔に、昨夜駐車場で見た《《あの顔が重なって見えるのだ
last updateLast Updated : 2025-12-11
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第2章:3時47分の呪い

 翌日の夜勤は、妙な静けさの中で始まった。 消防署の仮眠室で待機していたマキラは、壁の時計を何度も見た。針が進むたびに、心臓が重くなる。午後八時、九時、十時……そして、やがて深夜へ。 竜也は隣で雑誌を読んでいた。彼は昨夜の出来事について何も言及しなかった。マキラが駐車場で一瞬立ち止まったこと、何かを見たような表情をしたこと——気づいていないのか、それとも気を遣っているのか。「マキラさん、コーヒー飲みます?」 竜也が声をかけてきた。「ありがとう」 彼女はカップを受け取ったが、飲む気にはなれなかった。胃が重い。 午前零時を過ぎると、出動要請が入り始めた。酔っ払いの転倒、老人の呼吸困難、軽度の交通事故。マキラは機械的に対応した。現場では完璧な救命士として振る舞える。それが唯一、彼女が自分を保てる場所だった。 午前二時。四件目の搬送を終えて消防署に戻ると、柴田隊長が待っていた。「伊咲、ちょっといいか」 隊長室に呼ばれた。柴田は五十代半ば、ベテランの救命士で、マキラの良き理解者でもあった。「昨夜の廃病院の件だが、続報が入った」 マキラの背筋が伸びた。「あの女性、意識が戻った」「本当ですか?」「ああ。だが、奇妙なことに、彼女は自分が誰なのか覚えていない。記憶喪失だ。そして……」 柴田は言葉を切った。「そして?」「彼女が最初に発した言葉が、『三時四十七分』だったそうだ。ただそれだけを、何度も繰り返している」 マキラの血が凍った。「三時四十七分……」「何か意味があるのか?」 柴田が尋ねるが、マキラは答えられなかった。意味がある。しかし、それを説明することはできない。「いえ、何も」 嘘だった。そして、柴田はそれに気づいているようだった。「伊咲、お前、最近疲れてないか? 顔色が悪いぞ」「大丈夫です」「無理するなよ。この仕事は、心身ともに削られる。俺も若い頃、燃え尽きかけたことがある」 柴田の目には、真摯な心配の色があった。「ありがとうございます。気をつけます」 マキラは隊長室を出た。しかし、胸の動悸は収まらない。 三時四十七分。 なぜその時刻が、繰り返されるのか。 午前三時。マキラは仮眠室で横になっていた。眠れないが、目を閉じているだけでも体は休まる——そう自分に言い聞かせた。 しかし、その瞬間—— 遠くから、救急
last updateLast Updated : 2025-12-11
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第3章:反復する顔

 マキラは自宅に戻らず、朝のカフェに入った。 眠れないことは分かっていた。家に帰っても、あの影が待っているような気がした。それよりも、人の気配がある場所にいたかった。 窓際の席に座り、ブラックコーヒーを注文する。カフェは朝の通勤客で賑わっていた。スーツ姿のサラリーマン、学生、主婦たち。日常的な光景。 しかし、マキラがカップに口をつけようとしたとき—— 店内の全ての客の顔が、同時にこちらを向いた。 そして、全員の顔が同じだった。 十二年前の患者の顔。あの女性。血を吐きながら、「娘に会いたい」と懇願した女性の顔。 マキラのカップが手から滑り落ちた。熱いコーヒーが膝にかかるが、痛みを感じない。 全員が、無表情で彼女を見つめている。 口を開く。 全員が、同時に。「「「「「「「「「「「なぜ救えなかった」」」」」」」」」」」 その声は、店内に響き渡った。いや、響いているのはマキラの頭の中だけかもしれない。 彼女は椅子を倒して立ち上がった。周囲の視線が集まる。しかし、もう誰の顔も「あの顔」ではなかった。普通の人々が、困惑した表情でマキラを見ている。「大丈夫ですか?」 店員が駆け寄ってきた。「すみません……気分が悪くて……」 マキラは代金を置いて、店を飛び出した。 外の空気が肺に入る。しかし、それでも心臓の動悸は収まらない。 通りを歩く人々の顔を見ないようにして、マキラは足早に歩いた。この状態で運転は危険だ。タクシーを拾おうとした。 黄色いタクシーが止まった。後部座席に乗り込む。「どちらまで?」 運転手が尋ねる。 マキラは答えようとして——運転手の顔を見た。 またあの顔だった。「ひっ!」 マキラは悲鳴を上げて車から飛び出した。「お客さん!」 運転手が呼びかけるが、マキラは走り出していた。 人々の間を縫って、ただ走った。どこに向かっているのかも分からない。ただ、逃げたかった。 やがて、マキラは公園にたどり着いた。朝の公園は静かで、ベンチに座る老人と、散歩する犬を連れた人がいるだけだった。 彼女はベンチに崩れ込んだ。 これは幻覚だ。精神的な問題だ。病院に行くべきかもしれない。 しかし、何と説明すればいい? 「死んだ患者の顔が、全ての人に重なって見える」と? 精神科医は、統合失調症か、重度のPTS
last updateLast Updated : 2025-12-11
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第4章:記憶の迷宮

 マキラは廃病院から出たが、すぐには帰らなかった。 近くのベンチに座り、起きたことを整理しようとした。夏美の幻影——いや、それは幻影だったのか? それとも、彼女の罪悪感が生み出した幻覚だったのか? どちらにせよ、一つのことは明確だった。 マキラは、自分の過去と向き合わなければならない。 携帯電話を取り出し、ある番号に電話をかけた。長い間、避けてきた番号。「もしもし?」 母の声が聞こえた。「お母さん、私」「マキラ! どうしたの、珍しいわね」「今から、実家に行ってもいい?」 一瞬の沈黙。「もちろんよ。お父さん、喜ぶわ。夕食の支度するから」「ありがとう」 電話を切った後、マキラは深呼吸をした。 家族との時間。それは彼女が長い間、避けてきたものだった。救命士としての自分と、娘としての自分——その二つを両立させることができず、彼女は前者だけを選んできた。 しかし、それが彼女を孤独にし、罪悪感を増幅させてきたのかもしれない。 実家は都心から電車で一時間の郊外にあった。閑静な住宅街の一角、マキラが育った家。 玄関を開けると、母が笑顔で出迎えた。「よく来たわね。さあ、上がって」 家の中は、記憶の通りだった。リビングの家具、壁の写真、本棚の本——全てが、十年前と変わらない。 父はリビングで新聞を読んでいた。マキラが入ると、顔を上げた。「マキラか。久しぶりだな」「お父さん、元気だった?」「ああ、おかげさまでな。お前こそ、痩せたんじゃないか?」 父の目には、心配の色があった。 夕食の席で、母は様々な料理を並べた。マキラの好物ばかりだ。「お母さん、作りすぎだよ」「いいのよ。久しぶりなんだから」 食事をしながら、家族の会話が流れる。父の仕事の話、母の近所の友人の話。日常的な、他愛もない会話。 しかし、マキラにはそれが新鮮に感じられた。こんな普通の時間が、どれほど貴重なものか。「マキラ、最近仕事はどう?」 母が尋ねた。「……大変だけど、やりがいはあるよ」 嘘ではない。しかし、全てを語ってもいない。「無理してないかい? お前、昔から一人で抱え込む癖があるから」 父が言った。 マキラは箸を置いた。「お父さん、お母さん、聞いてほしいことがあるんだ」 両親は真剣な表情で彼女を見た。「私、十二年前に救えなかった患者のことを、
last updateLast Updated : 2025-12-12
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第6章:媒介者の自覚

 休職の二週間目、マキラは実家で過ごすことにした。 母は何も聞かずに彼女を受け入れた。ただ、毎日温かい食事を作り、そっと見守ってくれた。 マキラは朝、散歩をすることにした。近所の公園を歩き、木々の間を抜け、池のほとりに座る。 そこで、彼女は自分の心と対話した。 なぜ、救えなかったことをそこまで責めるのか? 答えは、徐々に見えてきた。 彼女は、救命士という仕事を、自分の存在価値と同一視していた。人を救うことができなければ、自分には価値がない――そんな思い込みが、彼女を縛っていた。 しかし、それは間違っていた。 人の価値は、成功や失敗で測られるものではない。 ある日の午後、マキラは母と二人でお茶を飲んでいた。「お母さん、私ね、ずっと思ってたんだ。完璧な救命士にならなきゃいけないって」 母は静かに聞いていた。「でも、完璧な人間なんていない。私も、救えない命がある。それを受け入れることが、怖かったんだ」「マキラ、あなたは十分頑張ってきたわ」 母の声は優しかった。「人は、失敗から学ぶものよ。完璧でいる必要はないの」「でも、人の命が関わってる仕事だから……」「だからこそよ。完璧を求めすぎると、かえって危険なの。自分の限界を知り、助けを求めることも、プロフェッショナルの条件じゃないかしら」 母の言葉が、マキラの胸に響いた。 その夜、マキラは再び廃病院の夢を見た。 しかし、今回は恐怖ではなかった。 地下の駐車場に立つと、夏美がそこにいた。「もう一度来てくれたのね」 夏美は微笑んでいた。「あなたが、私を呼んだのですか?」 マキラが尋ねると、夏美は首を横に振った。「違うわ。あなたが、私を呼んだの」「私が?」「そう。あなたの罪悪感が、私を現世に縛り付けていた。あなたが自分を許せないから、私も安らかに眠れなかった」
last updateLast Updated : 2025-12-13
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第7章:孤独という病

 復職まであと二週間となった頃、マキラは新しい挑戦を始めた。 同僚の救命士たちとの交流会に参加することにしたのだ。 それは月に一度、消防署のメンバーが集まる飲み会だった。マキラは以前、これを避けてきた。仕事が終われば、すぐに帰宅する。同僚との私的な付き合いは最小限にする――それが、彼女のスタイルだった。 しかし、それが彼女を孤立させていたことに、今なら気づく。 居酒屋に入ると、すでに十人ほどが集まっていた。「おお、伊咲! 久しぶりだな!」 先輩の救命士、田中が手を振った。「久しぶりです」 マキラは席に着いた。竜也も来ていた。「マキラさん、調子どうですか?」「ぼちぼちかな。もうすぐ復帰できそう」「それは良かった! 現場、寂しかったんですよ」 他の同僚たちも、次々と声をかけてきた。 マキラは気づいた。彼らは、自分のことを心配してくれていた。自分が孤独だと感じていたのは、自分が壁を作っていたからだ。 酒が入ると、話題は様々な方向に広がった。 仕事の失敗談、家族のこと、趣味のこと。 その中で、田中が言った。「なあ、伊咲。お前、昔からストイックだったよな」「そうですか?」「ああ。俺たちが冗談言ってても、お前だけはいつも真面目な顔してた」 他の同僚たちも頷いた。「でもさ、最近少し変わったよな?」「変わった?」「うん。なんていうか、柔らかくなった気がする」 マキラは笑った。「そうかもしれない。少し、肩の力が抜けたのかも」 その夜、マキラは初めて、同僚たちと本音で話すことができた。 救命の現場での恐怖、失敗の悔しさ、患者を救えたときの喜び。 そして、救えなかったときの悲しみ。 みんな、同じような経験をしていた。 完璧な救命士なんて、存在しない。 全員が、失敗を抱え、それでも前に進んでいる。
last updateLast Updated : 2025-12-13
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第8章:廃病院への回帰

 復職の前日、マキラは一つの決断をした。 もう一度、あの廃病院に行くことにした。 今度は恐怖からではなく、けじめをつけるために。 夕方、マキラは一人で旧東陵総合病院の前に立った。 建物は相変わらず荒廃していたが、以前感じたような威圧感はなかった。 ただの廃墟。それだけだ。 正面玄関から入り、階段を降りる。地下へ。 懐中電灯の光が、暗闇を照らす。 駐車場に着くと、マキラは立ち止まった。 ここが、全ての始まりの場所。 美月が倒れていた場所。 夏美の幻影を見た場所。 マキラは、その場所にしゃがみ込んだ。 そして、静かに語りかけた。「夏美さん、あなたがまだここにいるなら、聞いてください」 声は、駐車場に反響した。「私は長い間、あなたを救えなかったことを悔やんできました。でも、今は分かります。あれは、誰のせいでもなかった」 涙が頬を伝う。「あなたは、最後まで娘さんのことを心配していましたね。『娘を先に』って。でも、私たちは医学的な判断に従いました。それが正しいと信じて」 マキラは立ち上がった。「あなたの娘、美月さんは立派に成長しています。強く、優しい女性に。あなたは誇りに思っていいと思います」 風が吹いた。 地下なのに、風が。 それは、夏美の返事のように感じられた。「私は明日、現場に戻ります。また救命士として、働きます」 マキラは微笑んだ。「今度は、一人で抱え込まずに。仲間と協力して。そして、自分も大切にしながら」 駐車場を歩き、出口に向かう。 振り返ると、暗闇の中に何かが見えた。 いや、何も見えない。 それでいい。 夏美は、もうここにはいない。 安らかに、あるべき場所にいる。 マキラは廃病院を後にした。 外に出ると、夕日が美しかった。
last updateLast Updated : 2025-12-14
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第9章:屋上の対峙

 復職から一週間が過ぎた。 マキラは順調に現場に復帰していた。出動は日に平均六件。交通事故、急病、転倒――様々なケースに対応した。 そして、全てのケースで、彼女は冷静に、しかし温かく対応することができた。 以前との違いは、患者の家族とのコミュニケーションだった。 マキラは今、患者だけでなく、その家族の不安にも寄り添うようになっていた。「大丈夫ですよ。すぐに病院に着きますから」 そんな言葉が、自然に口から出るようになった。 しかし、ある夜、マキラは再び試練に直面することになる。 午前二時。出動要請が入った。「第三救急隊、至急出動。ビルの屋上で飛び降り未遂。三十代女性、説得中」 マキラの心臓が跳ねた。 飛び降り未遂。 それは、救命士にとって最も難しいケースの一つだ。身体的な怪我ではなく、精神的な危機。「行きますよ、マキラさん」 竜也が言った。 救急車が夜の街を走る。 現場は、都心のオフィスビル。十五階建ての建物の屋上に、女性が立っているという。 到着すると、すでに警察が現場を封鎖していた。「救急隊です」 マキラが名乗ると、警官が案内してくれた。「屋上に女性が一人。三十分前から説得してますが、聞く耳を持ちません」「身元は?」「分かりません。所持品もなく、名前も名乗らない」 マキラと竜也は、警官と共にエレベーターで屋上へ向かった。 エレベーターの中で、マキラは深呼吸をした。 落ち着け。今の自分なら、できる。 屋上のドアが開いた。 冷たい風が吹き込んできた。 そして――屋上の縁に、女性が立っていた。 背中を向けて、下を見ている。「おい、危ない!」 警官が叫ぶが、女性は動かない。 マキラは前に出た。「私は救急救命士の伊咲マキラです。話を聞かせてもらえませ
last updateLast Updated : 2025-12-15
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第10章:夜明けの決断

 その週末、マキラは美月から連絡を受けた。「マキラさん、お茶しませんか? 話したいことがあるんです」 二人は駅前のカフェで会った。 美月は以前よりも明るく、健康的に見えた。「お元気そうですね」「はい。最近、大学に戻りました。心理学を勉強してるんです」「心理学?」「ええ。母のこと、そして私自身の経験から、心の問題に興味を持ったんです」 美月はコーヒーを一口飲んだ。「将来は、カウンセラーになりたいと思ってます。母みたいに苦しんでいる人を、助けたい」 マキラは微笑んだ。「素晴らしい目標ですね」「マキラさんも、同じじゃないですか。人を救うために働いてる」「そうね。でも、最近気づいたの。人を救うって、命を救うことだけじゃないんだって」「どういう意味ですか?」「心を救うことも、同じくらい大切だってこと。いや、もしかしたらそれ以上に大切かもしれない」 マキラは窓の外を見た。「身体の怪我は治療できる。でも、心の傷は、本人が向き合わない限り癒えない」「マキラさんは、向き合ったんですね」「ええ。長い時間がかかったけど」 美月は真剣な表情で聞いていた。「実は、私もマキラさんに伝えたいことがあるんです」「何?」「母の日記を見つけたんです。事故の一週間前まで書かれていた日記」 マキラの胸が高鳴った。「そこに、母の思いが書かれていました」 美月はバッグから古いノートを取り出した。「最後のページに、こう書いてありました」 美月はノートを開き、読み始めた。「『もし私に何かあったら、美月は一人になってしまう。それが何より心配だ。でも、私は美月に伝えたい。人生には、予測できないことが起きる。それでも、生きることを諦めないでほしい。誰かを恨むのではなく、今を大切に生きてほしい』」 マキラの目に涙が浮かんだ。「母
last updateLast Updated : 2025-12-16
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