失敗した。それだけは分かった。大好きな人の困った顔を見た瞬間、後悔の河に沈んでいった。最低だ、俺。もう消えてしまいたい。『なら何故河を渡らない?』戻るのか進むのかはっきりしろ。素っ気なく吐き捨てる、声の主は白い粒に見えた。その隣にはもうひとつ、青白い球体が浮かんでいる。……よく見ると、俺も同じ姿をしていた。『拒絶されたことに囚われてるんだろう? だがな、そこにいる奴はお前のことを、ずっと……』暗澹とした水底で漂う。大人しく続きの言葉を待っていたが、途端に沈黙が流れた。長い長い静寂ののち、ようやく聞こえた声は喜色が混じり、踊り子のように弾んでいた。『お前達、ここで言えばいいじゃないか。ああ、肉体がないから声を出せないのか。……仕方ない』腑に落ちたような呟き。まどろんだ意識の中で、ただ耳を傾ける。『私は優しいからな、話し合うまでは流されないようここに留めてやる』渡し賃は─────見物料ということにしようか。……その先は、水泡と共に攫われてしまった。ただひとつ確信したのは、俺はこの泡達と同じく、いつでも弾け飛んでしまう存在だということ。神様の手のひらの上で弄ばれるだけの、脆く小さな存在だ。◇優しい優しい神様は、現実逃避がしたい俺を異世界に呼んでくれたみたいだ。その異世界は、通学中に読んでいた小説と一致する部分があった。冴えない男子高校生が異世界へ飛ばされ、女性達を虜にする惚れ薬を開発する……という、アホらしいが、サービス展開が多くてニッコリしてしまうお話。ハーレム要素が多いが、ファンタジーの世界観は作り込まれていて、お気に入りのキャラが登場しない時もそれなりに楽しんで読めた。神様は、あの小説の部分部分を掻い摘んで、適当に繋ぎ合わせたのだろう。俺には分かる。争いと無縁な王国。その中枢にある城の地下で、一日も休まずに働く。学校に行かなくていい。気まずい人と顔を合わせなくていい。確かに幸せだ。……だが異世界と思うからこそ、募る不満もある。もっと驚きと発見、ご褒美展開が欲しい。「また注文が入った。レアルゼ、明日の正午までに惚れ薬1000mL頼む」だがここで目を覚ましてから早半年。薄暗く埃っぽい部屋から出られずにいる。惚れ薬。以前は馬鹿馬鹿しくて吹き出していたワードも、地獄への片道切符にしか思えない。何故ならそれは、ここに囚
Last Updated : 2025-12-24 Read more