異世界半分自惚れしっかり

異世界半分自惚れしっかり

last updateLast Updated : 2026-01-26
By:  七賀ごふんCompleted
Language: Japanese
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【この世界のことだって、本当は何ひとつ分かってない。】 ───────────── 初恋の教師にフラれ、ある日目覚めたら異世界で媚薬を作る役にさせられていた男子高生のお話。 溺愛ボディガード×こじらせ男子高校生(博士)

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Chapter 1

一階

失敗した。

それだけは分かった。大好きな人の困った顔を見た瞬間、後悔の河に沈んでいった。

最低だ、俺。もう消えてしまいたい。

『なら何故河を渡らない?』

戻るのか進むのかはっきりしろ。

素っ気なく吐き捨てる、声の主は白い粒に見えた。その隣にはもうひとつ、青白い球体が浮かんでいる。

……よく見ると、俺も同じ姿をしていた。

『拒絶されたことに囚われてるんだろう? だがな、そこにいる奴はお前のことを、ずっと……』

暗澹とした水底で漂う。大人しく続きの言葉を待っていたが、途端に沈黙が流れた。

長い長い静寂ののち、ようやく聞こえた声は喜色が混じり、踊り子のように弾んでいた。

『お前達、ここで言えばいいじゃないか。ああ、肉体がないから声を出せないのか。……仕方ない』

腑に落ちたような呟き。まどろんだ意識の中で、ただ耳を傾ける。

『私は優しいからな、話し合うまでは流されないようここに留めてやる』

渡し賃は─────見物料ということにしようか。

……その先は、水泡と共に攫われてしまった。

ただひとつ確信したのは、俺はこの泡達と同じく、いつでも弾け飛んでしまう存在だということ。

神様の手のひらの上で弄ばれるだけの、脆く小さな存在だ。

優しい優しい神様は、現実逃避がしたい俺を異世界に呼んでくれたみたいだ。

その異世界は、通学中に読んでいた小説と一致する部分があった。冴えない男子高校生が異世界へ飛ばされ、

女性達を虜にする惚れ薬を開発する……という、アホらしいが、サービス展開が多くてニッコリしてしまうお話。ハーレム要素が多いが、ファンタジーの世界観は作り込まれていて、お気に入りのキャラが登場しない時もそれなりに楽しんで読めた。

神様は、あの小説の部分部分を掻い摘んで、適当に繋ぎ合わせたのだろう。俺には分かる。

争いと無縁な王国。その中枢にある城の地下で、一日も休まずに働く。

学校に行かなくていい。気まずい人と顔を合わせなくていい。

確かに幸せだ。……だが異世界と思うからこそ、募る不満もある。もっと驚きと発見、ご褒美展開が欲しい。

「また注文が入った。レアルゼ、明日の正午までに惚れ薬1000mL頼む」

だがここで目を覚ましてから早半年。薄暗く埃っぽい部屋から出られずにいる。

惚れ薬。以前は馬鹿馬鹿しくて吹き出していたワードも、地獄への片道切符にしか思えない。

何故ならそれは、ここに囚われている原因そのものだからだ。

椅子から立ち上がり、モニター越しに返事した。

「はーい……承知しました」

少し大きめの白衣を羽織り直し、プラチナブロンドの髪をかき上げる。

回線を切り、機械のライトしか見えない通路を渡って部屋を移動した。薬を使いやすい位置に並べて、受注の品を作り始める。

「……ふう」

王族も知らない犯罪組織が、城の真下に研究施設をかまえて“惚れ薬”を作ってるなんて……創作と言えど、ちょっとエグい。

というか、完全に罰ゲームみたいな設定だ。監視されてるから部屋から出られないし、未だに一度も陽の光を浴びてない。

せっかく新しい自分を手に入れたのに、俺の物語は一ページも始まってない。こんな小説が現実にあったら、ブーイング間違いなしだ。始まりの村から出発してないどころか、自宅から出ることもできないのだから。

( 段々面白く思えてきたな…… )

一応キャラ設定はされていて、周りからはレアルゼという名で呼ばれている。惚れ薬の開発に携わる研究員で、鏡を二度見するほどの美青年だ。

もっとも惚れ薬のレシピは目を覚ました時から頭の中に入っていた為、俺自身は何の指導も受けてないし、努力もしていない。

果たして、この缶詰生活を幸せと呼べるだろうか。

レアルゼという青年は実際には存在せず、中身は現実世界から逃げてきた高校三年生に過ぎない。

毎日欠かさずため息をつく、御代鈴昌(みしろすずまさ)という青年なのだ。

王子に媚薬を飲ませ、破滅に追いやる。

それが、目覚める直前に聞こえた転生先の使命だ。

パニックを起こす間もなく謎の組織に拘束され、元々ここに居たていで生活が始まった。

ご都合主義に慣れてるせいか、取り乱さずに済んでいる。まさかこんなところで、蓄積された経験値が役立つとは。

しかし強制労働の真っ只中にあり、地上に出る機会がない。しばらくは大人しくしていようと思ったが、さすがにしんどくなってきた。

あの声の言う通りにすれば、現実世界に帰れる。だから王子に会いに行き、薬を盛らないといけない。

とはいえ、俺は現実が好きというわけでもないのだ。

ただ、大好きなひとがいたから。彼に会う為に帰るだけだ。

薬の配合は手が覚えている。だが実際に服用した人を見たことがない、というのも恐怖ポイントのひとつである。

飲んだ者の性欲を高め、恋情を引き出す妙薬。そんなものが本当にあるなら、確かに大枚をはたいても欲しい者達が現れそうだ。

( 一応それを作ってるんだけど……我ながら胡散臭いんだよなぁ )

調合開始から三時間。眼鏡をかけて、気分転換に棚に置いてある紙束を取った。

この世界にも一応新聞のようなものがある。政治関連に医療や法律、外に出られなくとも情報が手に入る。

────目的の人物のことも。

今、世間ではクロック王子のことで持ち切りになっている。

写真で充分に分かる、人形と見紛うほど美しい青年。

弱冠二十歳にして各方面から人格者と讃えられている。

当然絶大な支持と人気を博しており、彼の目に留まろうとしている者が多い。

国中の人間に狙われているのは本当に可哀想だ。

でも彼が襲われたというニュースは見たことがないから、きっと優秀な護衛がいるのだろう。

小さなキッチンへ向かって眠気覚ましの珈琲を淹れていると、媚薬が入った小瓶が視界に入った。

前回の調合分が置きっぱなしになっていた。蓋を開けて中を覗くと、無色透明な液体がちゃぷちゃぷと揺れている。

自分だったら、これを使って好きな人を手に入れて、嬉しいと思えるんだろうか。

「中都先生……」

好きな男の先生がいる。

彼が同性愛者かどうか分からないから告白寸前まで必死に隠し続けたけど。

少し考えて、やっぱり違う、と思った。薬効は一時的なもので、洗脳と一緒だ。やっぱり本心から好きと思ってもらいたい。

小瓶を棚へ戻そうとしたが、急に思い立って一考する。

「ちょっとだけ……飲んでみるか」

深夜のテンションとは恐ろしい。間髪入れず小瓶の中身をグラスの水に入れて飲み干した。

希釈したのはちょっとビビったからだ。空になったカップを置き、深呼吸する。

待つこと数分。

しばらくその場に佇んでいたが、身体の異変は感じられない。薬のことは明日確認して、今日はもう寝るか。

「夜分に失礼します」

立ち上がったのと同時にドアをノックする音が聞こえ、向き直る。すぐには開けず、誰なのか尋ねた。

「もう遅いですし、急用でないなら明日にしてもらえませんか?」

組員や研究員なら先に通信が来る。この訪問者は一度も会ったことがない人物だ。

息を潜めて反応を待っていると、とても落ち着いた声音が聞こえた。

「急を要していたものですから、無礼を働き申し訳ございません。レアルゼ博士ですよね? 貴方の薬を使わせていただいた者ですが、まるで効果が見られず……間違いがないか、どうしても確認していただきたいのです」

今し方自分でも確認したばかりだった為、話の内容に納得する。……だけど、こんな時間に部外者を通したことにはびっくりした。守衛は何をしてるんだろう。

疑問に思ったものの、鍵を回し、扉を引いた。

「良かった。開けてくださり、ありがとうございます」

壁に取り付けてある球体ランプを灯すと、男の輪郭、顔貌が徐々にあらわになっていった。

声の主はアメジスト色の瞳をした、息を飲むほど端麗な青年だった。

おぉ……。

知らない男性に見蕩れるのは初めてのことで、思わず立ち尽くしてしまった。

優しげだが眼光は鋭く、目が合うと惹き込まれそうになる。

上質なコートを纏い、身に付けているアクセサリーはシルバーで統一している。少しウェーブのかかった金髪は、暗がりの中で宝石のような輝きを放っていた。立ち振る舞いからしても、少なくとも一般人ではない。

こんな綺麗な人が存在するんだな。これも異世界パワーか。

改めて関心していると、全身が急激に熱くなった。目も眩み、足を引き摺りながら後ずさる。 

「初めまして。とりあえず中にどうぞ」

外気が冷たい為青年を中に入れ、席に促した。コートを掛けるハンガーを渡し、空いてるグラスに珈琲を入れる。

あれ、これ耐熱だっけ。

渡してから不安になっていると、青年は上品に微笑んだ。

「実はここに来るまでも、とても不安でして……受付の方に警戒されてしまったけど、博士が優しそうな方で良かったです。とてもお美しいし……色々災難だったけど、一日の終わりに良いことがあったな」

えぇ、何だそれ。

「美しい……は、初めて言われました。男性相手にも、よく言うんですか?」

「いいえ? 初めて言いました」

何だ、そうなのか。以前他の職員が同性愛は珍しくないと言っていたけど、さすがに挨拶代わりには言わないもんな。

……それと、こんな犯罪施設に来て“受付”と言うのも違う気がした。

「あの、先にお名前を教えていただけますか?」

「あぁ、これまた失礼しました。私はミコト。普段はクロック王子のもとで働いているんですが、街の視察や調査もしています」

「調査? 警察のような?」

「ええ、一応警察にも所属してます。手広く、危険物の回収なんかも引き受けます。例えば、人々を惑わす薬の出どころなど」

は。

空気が凍りつき、思考までもフリーズしかけた。頭が回り出したのは、胸ポケットにつけた無線機が鳴ってから。

『聞……か、レアルゼ、侵入者だ。……軍の……長がセキュリティを破って……た』

ノイズが入って上手く聞こえないのは、相手が移動しているからかもしれない。

だが幸か不幸か、「侵入者」だけは聞き取れた。

施設内の管理モニターに視線を移す。カメラが故障して映らない部屋もあったが、ほとんどの部屋で武装した人間が研究員達を拘束している様子が映し出されていた。

おいおい、やばいんじゃないのか。

息することも忘れて振り返ると、ミコトの綺麗な唇が怪しく弧を描いた。

「レアルゼさんはこの組織で研究員の主席にいる、実質的な代表者ですよね。しかし実際に会ってみたら、なんとも初々しい方で驚きました」

「な……っ」

要らない要素も含まれていたが、ようやく理解した。

彼は自分の素性を調べ上げ、捕縛する為に尋ねてきたのだ。

指先が震える。これは薬のせいか、それとも……。

「媚薬なんて眉唾物だと思ってましたよ。いやぁ、ほんと面白いものを作りましたね」

「け、警察が面白いとか言っていいんですか」

「大丈夫ですよ。そんなことにペナルティは発生しません」

ペナルティ? 何言ってんだ?

意味が分からず眉を寄せたが、腕を掴まれ、彼の腕の中に引き寄せられてしまった。

「さ、行きましょう。心配しなくても地上まで責任持ってエスコートしますから、安心して」

「……嫌だと言ったら?」

このまま彼にエスコートされたら、絶対牢獄行きだ。それは困る。

ここ以上に元の世界に帰れる確率が下がってしまう。

伏せ目がちにミコトの反応を窺うと、彼は楽しそうに笑った。

「怖めず臆せずな性格でもないだろうに。……絶望させるようで申し訳ないけど、この国で私の命に抗う者は、その場で処罰されても仕方ないことになっているんですよ」

眼前に翳されたのは、国家警察の証だろう金の紋章が刻まれた手帳。中はびっしりこの国の法律が記されており、彼のこれまでの功績や経歴が載っていた。

「犯罪者の処罰権は国王陛下から託されてます」

彼は、想像以上に高い職位にいるみたいだ。

「すごいですね。じゃあ俺をここで処罰するんですか」

もしかして銃で撃ち殺されるんだろうか。どうしよ。ここで死んだとして、現実に帰れるだろうか。

魂まで消滅してバッドエンド、みたいなのは本気で困るる。

怖々窺っていると、彼は手帳を仕舞って肩を竦めた。

「いいや。個人的にとても興味があるんだ。媚薬なんて、この止まった世界にそぐわない物を作る君のことが」

だから絶対一緒に来てもらう。

鼓膜を揺すぶるバリトンボイスで囁く。笑っていないと、彼はただ声を発するだけで威圧感があることに気付いた。

よりによって、大変なひとに捕まってしまった。

「え、っと……」

逃亡する為の良案を頭の中で張り巡らすが、ぼーっとして考えがまとまらない。加えて、さっきから内腿のあたりがぞくぞくする。

まずいぞ。立っているだけで精一杯だ。

今頃薬が効いてきたのかもしれない……!

「レアルゼさん? すごく汗をかいてるけど、大丈夫ですか?」

バランスを崩して壁に寄りかかる。膝の力が抜けてしゃがみそうになった時、ミコトに支えられた。 

腰に当たる手に力が込められる。瞬間、全身に電流が駆け巡った。

「ひあっ……っ!」

例えようのない快感に襲われ、高い声を上げてしまった。

熱の中心が昂り、ズボンを押し上げて主張している。

「レアルゼさん、なにか持病は?」

健康そのものだし、媚薬のせいなのでかぶりを振る。

しかしただならぬ状態だと気付いたようで、ミコトも動揺していた。熱を計るため額に手のひらを当ててきたが、それも逆効果で、強まる苦しさに呻いた。

「いやっ、触らないで……!」

触れる面積が増えるほど敏感になり、痺れていく。そこでとうとうミコトも察したようだ。

「貴方、まさか……媚薬を飲んだのか?」

「んっ」

頬に手を添えられ、口腔内に指を入れられる。反射的に噛んでしまったが、彼は怯まず、舌を優しく引っ張った。

「頬の紅潮と舌の変色。それから過敏。報告書通りだ」

レアの唇を指でなぞった後、ミコトはキッチン台に転がる小瓶を手にした。さきほどレアが飲みきった為、中は空である。

「独りでこれを飲んでどうするつもりだったんです? これは近くに人がいないと作用しないんでしょ?」

「えっ」

そうなのか。全然知らなかった……!

でも、冷静に考えたらそれもそうか。誘惑する相手がいなかったら確かめようがないもんな。

薬に対し笑ってしまうほど興味がなかった。それが結果として自分の首を苦しめている。

「ただの好奇心か、探究心かな。私が今日、この時間にここに来るとも思わずに……。タイミングが悪くてすまないね」

いや、むしろタイミングが良いのか。そう言うと、デスクの上に押し倒された。

膝をついて馬乗りになり、太腿に触れてくる。

「ちょっと、だめ、だって……!」

少し染みができている部分も、指先で押された。

人差し指で、とん、と触れた程度。笑ってしまうほど弱い力だが、そこは性器の先端だった。堪えられず、小さな悲鳴を上げる。

「あっ…………っ!」

ズボンに染みが広がっていく。ぬれた感覚が気持ち悪いのに、射精の快感が強過ぎて何も考えられない。

ベルトを外す音が聞こえる。大変な警鐘だとわかるのに、彼の匂いを吸うと思考が停止する。

もっと近くで嗅ぎたい。気付けばミコトの襟を掴み、自分から彼の胸に顔をうずめた。

「まだ苦しい?」

「くる、しい。助けて……っ」

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last updateLast Updated : 2025-12-24
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#1
気付けば涙が溢れ、子どものように嗚咽していた。ミコトはなにか考えている様子だったが、意を決したように頬を優しく撫でてきた。「急を要することだ。恥ずかしいだろうけど、ちょっと我慢してね」彼の影が視界を覆う。チャックを下ろされ、ぐずぐずに溶けた性器を引っ張り出された。「嫌だ……っ」口では拒否するものの、擦ってほしくて腰を突き出してしまう。体と心が乖離する。白衣や脚に絡まるズボンを脱ぎ捨て、ミコトの手から与えられる刺激を強請った。男相手にあられもない姿を晒している。信じたくないのに、心は快楽の鎖で縛られている。ミコトのことは、顔と名前以外何も知らない。だからこの切望は全て薬によるものだ。ずっと抱き締めてほしいなんて気持ちも、全て偽りのもの。けど、表情も口付けも、頭を撫でる手も怖いぐらい優しい。勘違いに決まってるのに、自惚れてしまいそうになる。「待っ……て、怖い……っ」「大丈夫。気持ちいいか、気持ちよくないかだけ教えて」耳元で二択を迫られ、必死に呼吸した。答えないとこの苦しみは終わらない。そう思ったら、繰り返し頷いていた。「いい。気持ち……いい……っ」ミコトの舌は熱く、柔らかい。絶頂に上りつめる為に無我夢中で腰を振った。彼を離したくなかった。綺麗な唇が、また弧を描く。「いい子だ」先っぽを指で苛められ、派手に仰け反った。頭と背中を少し打ったが、強烈な愛撫にいっぱいいっぱいで痛みなんて感じなかった。「まさかここまで効果が強いとは。……やっぱり不思議な子だ」掠れた独白が耳に残っていた。それから先はただ天井を見上げながら、ミコトの尋問に答えた。疲労困憊のせいか記憶は朧気で、正直ほとんど覚えてない。薬に関すること以外も訊かれた気がするけど……。もう何回もイッてるのに、全然解放してもらえない。ミコトのシャツを掴み過ぎてぐしゃぐしゃにしてしまった。はだけた胸に甘噛みし、腰を彼の太腿に押し付ける。「ミコト、さん……」初めて呼んだ名前。胸の奥がずきっとして、抱き着いた。怖い。苦しい、寂しい────。唾液が零れた口元を、優しく舐め取られる。「……お願い、します。離さないで……ずっと……!」馬鹿げた台詞だ。普段の自分が聞いたら、発狂して崖から飛び降りるだろう。自己嫌悪に駆られながらキスを求める。てっきり笑い飛ばされると思ったのに、彼は
last updateLast Updated : 2026-01-01
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#2
マジでやばい。今度こそ貞操の危機だ。脚を開かされたため覚悟したが、ミコトは見るだけで何もしなかった。「うん、特に傷はないね。良かった」「え? 傷?」「君すごい美人だから、あの研究施設で暴行を受けてないか気になってたんだ。他の職員達に聞いて、施設で監禁されていることも分かったし」ミコトは安心したように瞼を伏せた。愛おしいものに触れるように、震えるレアルゼの手を取る。「怖い思いをしてないなら、それでいいんだ。頑張ったね」「…………!」以前も、似たような出来事があった。そうだ。放課後、先生に雑用で捕まったとき。家に帰りたくないから丁度いいと答えた時の反応そのもので、少し驚いた。よく分からないところで褒めてくれるんだよな。この人は、やたら先生の影をちらつかせる。懐かしさに目を細めた。でも、そういえば気になることがある。現実世界で最後に覚えているシーンは放課後の渡り廊下。意を決して先生に告白して、そこまでは分かるのだが。────家に帰った記憶がない。「あら、やっぱり顔色が悪いね」「っ!?」過去を奪うように、顎を掠め取られる。そうだ、昔のことを思い出してる場合じゃない。目の前の青年から逃げねば。「まだお腹熱い?」「大丈夫……だから、触らないでください……っ」ミコトは堂々と下腹部を触ってくるから、威圧を込めて睨んだ。「はは、本当に可愛いね。こんな公然といたずら……可愛がれるなんて役得だ」「貴方、その……男が好きなんですか」「うん」軽いな。まさかこれ……BLゲームの世界観か?「それで、君は?」「え。俺は……」真っ直ぐな、胸を射抜くような視線にたじろぐ。「初めて惹かれた人は、男でした。でも今は、……よく分かりません」息継ぎもせず、掠れた声で続ける。「拒絶されたから。想いを打ち明けたら、駄目だと言われて……人自体苦手になった」俺の初恋にして、恐らく最後の恋。担任の中都藍斗先生。艶やかな黒髪で、どの先生よりも優しく、面倒見が良かった。眼鏡をかけていてもはっきりイケメンだと分かる為、多分俺と同じゲイの生徒は皆彼に惚れていたと思う。彼は俺が所属していた吹奏楽部の副顧問で、三年で部長になったこともあり特に関わりが深かった。ぼんやりした世界を、鮮明に象ってくれた人だったけど……あんな顔をさせてしまうなら、告白なんてしなきゃ
last updateLast Updated : 2026-01-02
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#3
「熱い視線は気付くものだよ」ミコトは余裕たっぷり、にこやかに返した。自信家には違いないが、それを自惚れと一笑できない、確かな理由がある気がする。「っ!」密かに思案していたが、目の前に手が伸びてきてビクッとする。手はレアルゼの顔の横を通り、シャワーヘッドを掴んだ。「何もしないから。そんな怖がらなくて大丈夫だよ」「こ……怖いわけじゃ……っ」ない。というか、見えてないはずなのに何でシャワーヘッドの位置が分かるんだ。真面目に知りたかったけどバスルームから出て、手触りが良い白のガウンを受け取る。「わ……」改めて見るとミコトの家は内装も豪華で、知らない物もたくさん置いてある。改めて異世界、という感じがしてドキドキした。「あの、洗濯はいつ終わりますか」「後ちょっとかな」「ありがとうございます。終わったら取りに行きます」「ああ。一緒にね」ミコトは満面の笑みを浮かべた。優しいようで隙がない。やはり彼から逃げるのは至難の業だ。冷たいレモネードを受け取り、引き攣った笑顔を返す。「研究員の方達はどうなるんですか?」「余罪を調べている。薬を回収する方が先だろうね」そうか……。さらに、捕まったのは雇わればかりでリーダー格は全員逃げおおせたらしい。加担していた身としては複雑な心境だが、妙だ。「何故俺だけ拘束しないんですか? 媚薬は違法なものなんでしょう?」「確認したが、唯一君だけが強制的に働かされてたみたいだからね。保護観察することに決めた」「……」決めたって、執行猶予にするほどの権利を持ってるんだろうか。すごいな。「本当に、申し訳ありませんでした」けど思い返せば元の世界に帰ることで頭がいっぱいで、流出後の用途については考えなかった。いや、考えようとしなかったのだろう。……恐ろしくて。この世界が仮に作り物のファンタジー作品だったとしても。媚薬という悪意をばら蒔いたことは、大きな罪だ。 ミコトは小さく息をついた。「幸い薬の存在はまだ一般国民には知られてない。明るみになる前に全て回収しろとのお達しだよ」ミコトはグラスを置き、鼻先が触れそうなほど顔を近付けてきた。「しかし念の為に、媚薬の効果を打ち消す薬を開発してもらいたいな」相互作用を起こす薬を作れということか。でも。「いや……それはできません」冗談抜きで、それはできない。
last updateLast Updated : 2026-01-03
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#4
アイドルって、この世界にもそんな存在がいるのか……!少しの期待と緊張を抱きながら、ミコトと一緒に城へ向かう。結果、確かにアイドルとやらは存在した。「ミコト! 良かった、怪我はしてないみたいだな」「ええ。報告が遅れ申し訳ございません。一部取り逃しましたが、研究施設は無事に制圧いたしましたよ。───王子」大勢の衛兵に挟まれながら、眼前の抱擁を交互に見る。ミコトに抱き着くこの爽やかな茶髪の青年が、名前だけは頭に刻み込まれている、クロック王子だ。写真でしか見たことなかったけど確信した。全国民から支持されるのも納得の風格、それに美貌だ。この人に媚薬を飲ませて、民の信頼を失墜させればミッションクリア……か。うう、やっぱり無茶かもしれない。罪の意識が重過ぎる。「人心を惑わす毒薬と言っていたな。ひとまず安心したぞ……ん? ミコト、その者は?」「あぁ、紹介いたします。彼はレアルゼ。例の研究組織で捕虜として働かされていた研究員です。彼には治療薬開発の傍ら、私のパートナーとして働いてもらう予定です」パッ……パートナーって何?疑問に満ちた視線を向けたが、ミコトに華麗にスルーされてしまった。「社会貢献させつつ、私が責任をもって監視、教育します。……ただ彼は医学も学んでいるようですから、ご用命があれば遠慮なくお申しつけください」 「わかった。レアルゼ、これから宜しくな」「は、はい。宜しくお願いします」聞き流せない点がいくつもあったが、不幸中の幸い、クロックは俺を気に入ってくれた。彼の人懐こい性格と、同年代の友人が少ないせいかもしれない。ゲストルームに招き、もてなしてくれた。ミコトは俺の出自にかなりの脚色を加えて王子に説明していた。色々ツッコみたかったけど余計な口出しはしない方がいいと思い、熱い紅茶をフーフーする。「そうか……レアルぜは物心ついた時から、奴隷のように働かされていたんだな。辛かっただろうが、もう大丈夫だ。なにかあれば私やミコトに相談してくれ」クロックはミコトに視線を送る。ソファの傍で佇んでいたミコトも、微笑みながら頷いた。「そうですね。……レア。私は君を監視しないといけないが、第一に組織から匿い、保護することが使命だ。君の味方であることに嘘偽りはない。だから安心して」「あ……」優しく頭を撫でられたとき、何故か手の甲に冷たいなにかが落ちた
last updateLast Updated : 2026-01-04
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#5
「レア、安全の為とはいえ自由に外へ出掛けられないのは退屈だろう。客室のスペアキーを渡すから、城に来たときは好きに使うといい」「あ……ありがとうございます」クロックは優し過ぎる。心の底から心配になる良い人だった。兵が城を固めてるとはいえ、狙われる立場なんだからもう少し周りを警戒してほしい。なんせ、そのうちのひとりが目の前に居るのだから。キーを受け取った後、クロックに誘われ中庭でお茶会をした。しかしそれだけで門外に集まっているクロックの女性ファン達が発狂する始末だ。「王子、‪✕‬‪✕‬国の外相が到着しました」「そうか。……ごめんなレア。今日はこれで失礼するが、ミコトとここでゆっくりしていてくれ」「あっ、はい」手入れの行き届いた薔薇の庭でお茶会をしていたが、クロックの公務が入ってお開きになった。結局は仕事第一なわけだし、王宮生活というのも大変そうだなぁ。護衛を連れ、去っていく彼の後ろ姿を見届ける。そわそわしていると、傍のティーポッドが宙に浮かんだ。「王子にご執心な様子だね」空のカップにローズマリーに似たハーブの紅茶が注がれる。横に視線を移すと、それまで優雅に座っていたミコトがポッドを高く上げた。「いつも目で追ってるけど、残念ながら王子はストレートだよ。淑女しか興味がない」「そうなんですね。……って、そういうつもりはありませんよっ。あまりに優しくて、感動してるだけです」あらぬ誤解をされてる為、ちょっぴり強い語調で返した。クロックが自分にここまで良くしてくれるのは、閉鎖的な境遇に同情したから。だがその憐れみがいつまで続くかは分からない。目的を果たすなら一刻も早く決行した方が良い。でもそれをするには良心が痛んで、胃が痛い。一度飲んだ紅茶を、リスのように口の中に留める。すると不意に頬をつつかれた。ごくんと紅茶を飲み干し、ミコトの目を見る。「何ですか?」「いいや。君、さっきも飲み物を口に含んで頬パンパンにしてたね」「あ~……」「俺の知り合いも同じ癖があった」皿をどけた拍子に、スプーンが転がる。しかしミコトはそれに目もくれず、口元を隠しながらじっとレアルゼの顔を見つめてきた。「…………っ?」何だろう。胸がざわざわする。風が頬を撫でると同時に、いつかの夕景が蘇った。静まり返った音楽室。床に落ちた楽譜。長い指。─────俺は
last updateLast Updated : 2026-01-05
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ニ階
「でも、君のことは本当に放っておけない」「……どうして?」「秘密」堂々巡りだと思ってると、ミコトが立ち上がった。彼に続き、離れないよう追いかける。すぐに気付いたが、こちらの歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれていた。「外の世界はどう?」「え」「ずっとあの研究施設にいたんだろう? まだ私の家と城しか見てないけど、新世界に発見はあったのかと思って」「あ、あぁ……」話の風向きが変わったことにたじろぎ、慌てて無表情を繕う。新世界か……。言い得て妙だ。確かに、異世界とは新世界である。地下にいたから何一つ良いことなんてなかったけど、今は色々見て回ることができる。「本当に驚いてます。こんな世界があったのか、って」何で自分みたいな冴えない人間が召喚されたのか心底疑問だけど、リフレッシュだと思おう。ちょっとの間だけ現実からログアウトして、煩悩を取り除く。実際、この世界は時が止まってるみたいだ。毎日事件が起きてるはずなのに、広報紙を読まないと何一つ耳に入らない。「街は賑やかだし、皆穏やかだし。天国みたいです」それは本心だったのだが、ミコトは困ったように眉を下げた。「それはいけない。本当の天国は、きっと何もない場所なんじゃないかな」「はあ……」この国にいる人達は皆同じ行動をして、予測できることしか言わない。まるでゲームのNPC。そんな中、ミコトは予想外の言動や行動をしてくれる唯一無二の存在だ。初めて会った時は、鎮静させる為とはいえイかされた。今思い出しても目眩がするけど、嫌ではなかったんだよな。「あの……外でこんなこと訊くのはどうかと思うんですけど」「何?」「ミコトさんは、研究所で、俺が勃っちゃったとき……な、何で躊躇いなく触れたんですか?」恋愛対象が同性だろうと、知らない人間の性器を触るなんて普通無理だ。けどミコトは何の迷いもなく、自分を押し倒した。そこに特別な意味はあるのか知りたくなってしまった。ミコトは足を止め、片手を振る。「全然嫌じゃなかったよ。可愛いから」「かわ……そッスか……」めっちゃ真顔で言われた。自分から訊いたのに、ちょっと後悔した。「君はこの世界で誰よりも感情豊かで、可愛い」……っ。恥ずかしい台詞を平然と吐けるのは、やはり彼が違う世界の人物だからなのか。でも、俺も相当おかしい。彼に可愛いと言われることが
last updateLast Updated : 2026-01-06
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#1
「そう……なんですね」────そりゃそうか。ここに来てパターンな人達ばかり見てたから麻痺してたけど、ミコトさんは特に思慮深いタイプだもんな。俺はというと、彼と会ってからずっとブレーキを踏んでいる。邪神の声を信じて王子を貶めるなんて、やっぱり間違ってると思うようになった。そうは言っても帰らなきゃいけない。帰って、謝らなくちゃ。( 謝る? )そんな風に思う理由も正直分からない。思考の波から逃げるように首を横に振り、家事を済ませた。夜が完全に更けた頃、白衣を脱いで外を眺めていた。どこもかしこも自分が知る景色とは違うけど、見上げる空だけは同じだ。それが異常に安心する。「そろそろ閉めなさい。風邪をひくよ」背後からかかった声にビクッとする。振り返るより先に手が伸びて、目の前の窓が閉められた。「お外が恋しい猫ちゃんみたいだ」言ってる意味は何となく分かるけど、言い回しが一々いやらしい。カーテンも閉められてしまったので、そっぽを向いた。「あはは、拗ねないでくれ。明日はお散歩にでも行こう」「散歩……」地下にいた頃を思えば、外の空気が吸えるだけ幸せだ。しかし欲が出ると際限なくなるのが人間の厄介なところである。上手く説明できないモヤモヤを感じ取ったのか、彼は俺の手を取り、甲にキスしてきた。「なっ、何……」「ご不満そうだからさ。何がしたいか教えてもらえるかな、お嬢様」またこの人は……!完全にからかわれてる。彼の手を振りほどき、今度こそ背を向けた。「ミコトさんが優しいことはよく知ってますけど。俺のご機嫌とりなんてする必要ありませんよ」そもそもが、犯罪者の自分に優しくするのはおかしい。けど彼は怯まず、尚も手を掴んできた。「責任をとると言っただろう? 君のガチガチに凍った心を溶かすのも俺の務めなんだ」「……」台詞こそふざけてるが、苦しそうに顔を歪めるミコトに目を奪われ、問い質すことができない。ドクン、と心臓が脈打った。ただ見つめ合ってるだけなのに、媚薬を飲んでしまったときのように全身が熱くなった。「君に世界を見せたのは俺だ。だから、必ず守ると約束する」世界。ミコトからすれば、地下に篭って育ったレアルゼのことを想ってくれてるんだろうけど……何故か違う意味も込められている気がした。「正直、理解できません。何でそこまでしてくれるんですか」逃れ
last updateLast Updated : 2026-01-07
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#2
それでもやっぱり、ミコトさんは俺に甘過ぎると思う。昨夜の一件以来、それが如実になった。「はい、レア。あ~ん」「あの……ちょっと距離近過ぎますよ」「ん? そう?」翌、朝食時。野菜をさしたフォークを持ちながら、ミコトさんは首を傾げた。ごく自然に俺に食べさせようとしてくるけど、「ミコトさんも召し上がってください。家主が食べてないのに俺だけ食べるのは申し訳ないです」「心配してくれてありがとう。でも俺は、君を見てるだけでお腹いっぱいだから」それ、何かちょっとやらしく聞こえるな。何でだろう。 「レア、行きたいところはない? やりたいことでもいい」「気持ちは有り難いですけど、ありません。俺は牢屋に入れられるべき存在なんだから」「……そう思ってるだけで大丈夫。一度覚えた罪悪感を消すのは不可能だからね」ミコトはワインをあおぎ、静かに呟く。やはり彼にも後ろ暗い部分……贖罪したいことがあるようだ。その相手について尋ねることは憚られたが、何となく気付いたことがある。彼は、俺を誰かと重ねている。本当に甘やかしたい相手は他にいる気がしてならなかった。「ミコトさんが何に後悔してるか俺には分からないけど。聴くだけならいくらでもできるので、言ってください」解決の手助けにはならなくても、それで彼の苦しみが少しでも和らぐなら。俺も昔、散々あの人に悩みを聴いてもらった。今度は俺が、誰かの悩みを聴く側になりたい。ミコトは少しして、嬉しそうに頷いた。「ありがとう。いつか必ず話すね」ずっと見ていたい、と思うほど、その笑顔に見惚れてしまった。こんな風に思うなんてどうかしてる。惚れ薬って、実は数日効くのか? でもそんなこと、研究員も顧客も言わなかった。こりゃ俺だけがおかしいんだな……。「ご……ご馳走様でした」手を合わせ、皿洗いをする。ミコトはしばらく書き物をしていたが、不意に手を叩いた。「そういえば。レアは、字、書ける?」「え?」タオルで手を拭き、振り返る。字って、この世界の文字のことか。「ええと……その……」実は研究所にいた時から読めなくて困っていた。用がある際は全て口頭で乗り切っていたのだが、ミコトには文字が読めないことを不審に思われそうだ。しかし閉口はイコール「NO」である。動揺は伝わり、ミコトは本を閉じて立ち上がった。「おいで。せっかく時間
last updateLast Updated : 2026-01-08
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#3
慣れ親しんだ何かが、視界の端できらきらと光っている。その眩さに瞼を伏せると、額に可愛らしい音が鳴った。「……それなら、泣くのも我慢しなくていい」ミコトの顔が離れていく。またキスされたのだと分かった。 「思う存分泣いて、吐き出せばいい。俺が全部受け止めるから」どうして……。どうして、そんなに気にかけてくれるんだろう。訊きたいけど、全部“可愛いから”で済まされそう。それは癪だから、彼の胸に顔を押しつけた。ミコトの心音が聞こえてきそうだ。このまま眠ってしまいたい。「大丈夫。ゆっくりおやすみ」おやすみ……か。子守唄のような囁きに小さく頷く。ようやくこの世界で居場所を手に入れたようで、嬉しかった。気が張っていたせいか、猛烈な眠気に襲われる。「ミコトさん……」温かい。こんなに優しくて、安心できる人は会ったことがなかった。そう……。「先……生」“先生”以外では初めてだ。泣き声のようなうわ言を繰り返し、意識は闇にのまれた。冥冥とした意識の中で、御代は呻いた。どこへ逃げても、告白時の失敗を思い出してしまう。「せん……せ……い」先生。好きになったらいけないのは分かってる。この気持ちはある種の呪いなんだ。次元を越えても好きとかちょっと狂ってる。告白した日を昨日のことのように覚えていた。先生は狼狽えていて、その表情を見た瞬間後悔と罪悪感で胸がいっぱいになった。生徒が教師に告白なんて迷惑以外の何物でもないのに……卒業まで無難な関係でいようと思ったのに、有り得ないことをしてしまった。─────やり直したい。「レア!」「……?」強い光に包まれる。呻きながらまばたきを数回すると、段々目の前にいる青年の顔が見えてきた。ミコトだ。どうやら、ソファで居眠りしてしまったらしい。「あ……すみません。すごく眠くなっちゃって」くあ、とあくびする。汗もかいていたようで、シャツの下の肌着が張り付いていた。「いくら寝ても構わないけど……大丈夫かい? うなされていたよ」ミコトは眉を下げ、レアルゼの額に手を当てた。「ほぼ毎日だ。君は寝る度に悪夢を見ている」「え」それは初耳だ。冗談かと思ったが、真剣な表情のミコトの見て口を噤む。これまで誰かの前で寝たことがないから、指摘されなかっただけかもしれない。しかし今は必ずミコトと同じベッドで寝てるし、こ
last updateLast Updated : 2026-01-09
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