建国祭の日から3週間が経った。
私は毎日をアランの執務室で過ごして部屋に戻っては、エスパル王国や帝国内について調べていた。
争いの火種は燃え上がるまえに消さなければならない。リース子爵領の反乱の制圧に行った皇子軍が帰ってくるらしい。
(また、凱旋を祝う宴会をやるのかしら⋯⋯)ライオットの凱旋を心から祝っている人なんてほとんどいない。
『赤い獅子』だなんて呼ばれて戦地に行かされている状況を、彼はどう思っているのだろうか。彼自身、赤は自分の色だと思っていそうだし、単純そうだからその異名自体はかっこいいだなんて思っているかもしれない。
風に当たりたくなってバルコニーに出てみた。
真っ暗な闇の中に赤い何かが見える。「皇子殿下?」
私が気がついたと思った途端、バルコニーに登ってきた。(ロミオとジュリエットじゃあるまいし⋯⋯)
彼が少しよろける、なんだか姿勢が悪い。
「もしかして、背中怪我している?」
彼の動きから背中が痛いのではないかと推測した。「少し切られただけだよ⋯⋯」
切られたとは、剣でだろうか。「ちゃんと消毒はしてるの?」
手当はしっかりしてあるのだろうか、傷口にばい菌が入ったら大変だ。「いや、何もしていない。急いで戻ってきたから⋯⋯」
傷を放っておくなんて信じられない、急いで手当をしなければ。「とにかく、入って」
私は部屋に彼を招き入れた。水でゆすいでワセリンの代わりにはちみつを使えば湿潤療法ができるかも。
その方が傷跡も残りにくいだろうし。「とにかく脱いで?」
ライオットに服を脱ぐように指示をした。「ええ!」
彼はものすごい驚いている。「傷を治療するだけなので早く脱いでくれる? ごめんなさいね、期待に添えなくて」
私がぶっきらぼうに言うと、すぐに上着を脱いでくれた。固まってしまった。
背中は傷だらけで、傷跡とか考えていた私がどんなに甘か