「理仁さんが会社にいない?今日彼は出勤してないんですか?」
唯花は信じられなかった。
彼が会社に来ていないというのなら、一体どこへ行ってしまったのか?
彼がインタビューを受けたのは自分のオフィスではないのか?
唯花は彼がインタビューを受けていた時の部屋の様子を思い出した。とても豪華な内装で、彼女もその部屋は見覚えがなく、一度も見たことのないレイアウトだった。
彼女は彼のオフィスと思っていたが、一度も彼のオフィスに足を踏み入れたことなどない。
結城グループには何度か来たことがある。しかし、毎度理仁は本当のオフィスに彼女を通すことはなく、彼は他の社員同様一フロアが仕切りで区切られているデスクで仕事をしていると騙していたのだ。
彼女は辰巳のオフィスを覚えていた。確か副社長オフィスだと書かれていたはずだ。
彼ら一家揃って彼女のことを騙し続けていたのだ!
唯花は自分が理仁に長い間騙され続けていたことを思い、さらに怒りに満ちた顔へと変わった。
「内海様、結城社長は本日、確かに会社には来ておりません」
唯花にお茶を持ってきてくれた受付嬢が言った。「内海様、社長にご用でしたら、直接お電話をかけてみられてはいかがでしょうか?」
唯花はそのお茶を受け取った。
彼女はここへ急いで走ってきたものだから、座って一息ついた瞬間、喉が乾いたと思った。
彼女はそれを飲んだ後、尋ねた。「じゃあ、九条さんはいらっしゃいます?彼に会いたいんですが」
理仁は彼を味方につけているから、会社の中では水を得た魚のように自由に働くことができると言っていた。しかし、それも大嘘だったのだ。明らかに九条悟のほうが結城理仁のもとで働いているのではないか!
悟は社長専属の特別補佐官だ。理仁の補佐役なのであるから、初めから彼は理仁が結婚していることを知っていたわけだ。
二人の受付嬢はお互いに目を合わせ、唯花がここへ来たその目的がだいたいわかったらしかった。
「確認いたします。九条に時間がありましたら、彼のところへお通しいたしますので」
一人がすぐに悟の秘書に内線をかけ、もう一人は唯花に理仁へ直接電話をするよう勧めていた。
しかし、唯花はひとことも発しなかった。
彼女の携帯はここへ来る途中もひっきりなしに鳴っていたが、彼女はその電話に出る余裕もなかったのだ。そして携帯は鳴ることがなくな