未央はそれを聞いて少し驚き、頭の中に突然、悠生の顔が浮かんできて、ゆっくりと口を開いた。
「彼はとても良い人だと思うけれど、ただ、今の私は恋愛をする気持ちになれないの」
悠奈は未央が今まで経験してきたことを思い、頷いて理解を示した。
「何はどうあれ、未央さんが楽しく過ごしてくれればそれでいいんです。あの西嶋って人、良い人じゃないみたい、絶対に彼を許したりしちゃダメですからね」
未央はニコリと笑った。今の彼女は毎日以前よりも充実した日々を過ごしている。だから、昔のような暮らしに戻ることなど絶対に有り得ないのだ。
そして同時刻のホテルの部屋にて。
理玖は顔をくしゃくしゃにして、どうしたらいいか分からないらしく自分の指をいじりながら、とても苦悩している様子だった。
ようやく母親を見つけ出せたというのに、どうして自分に会ってくれないのだろうか?
それに父親の姿もすっかり見あたらない。
彼はホテルの部屋でずっと待ち続けて、もうカビまで生えてきそうなくらいだった。目線を窓の外にやり、脳裏に何かが閃いた。
「うわ、お腹がとっても痛いよ」
理玖がそう一声叫び声をあげると、部屋の外にいたおばさんがすぐに中に入ってきた。彼女は博人が理玖を世話をするのに雇った家政婦だ。
理玖は汗びっしょりかき、ベッドの上でのたうち回っていた。家政婦は慌てて理玖に「坊ちゃま、ここでお待ちください。すぐに薬を買ってきますので」と言って部屋を出て行った。
そして。
彼女が出て行くと、理玖はすぐにその動きを止め、顔の水滴をふき取ってベッドからおりた。そして靴を履き、外へと飛び出していった。
ママ、僕が今すぐ行くからね!
母親が構ってくれないというなら、彼自ら行動を起こせばいいのだ。
理玖は簡単にそう考えていたが、現実は甘くなかった。
彼は今手元にお金などない。それにあの病院の場所も覚えていない。街中を目的なくさまよい、いつの間にか空は暗くなり始めていた。未央も見つけられていない。
理玖は疲れてお腹も減り、ようやく自分が置かれている状況に焦りを覚え、涙をぽろぽろと零し始めた。
「わぁー」と我慢の限界になり泣き叫んだ。
それと同時刻。
未央たち一行はちょうど、また小型バスに乗って病院に帰るところだった。彼女は頬杖をついて窓の外を眺めていて、ふと道端にいる男の子が視界に飛び