LOGIN結婚して7年、白鳥未央(しらとり みお)は夫の西嶋博人(にしじま ひろと)には別の女性、綿井雪乃(わたい ゆきの)という女がいることを知った。 彼と雪乃は熱烈に愛し合っていて、周りは彼らがきっとヨリを戻すだろうと噂していた。息子の理玖(りく)ですら雪乃のほうに肩入れしていた。「雪乃さん、あなたの病気が僕のママに移っちゃえばいいのになぁ」 再び夫と息子が雪乃と一緒にいるのを見たことで、未央はようやく自分の気持ちに区切りを付けるのだった。 今回、彼女は何も騒ぐことはせず、立花市(たちばなし)へと向かう飛行機のチケットを買い、離婚協議書と親子の縁切りを書き記した紙を残して去るのだった。 薄情者の息子に、氷のように冷たい夫。彼女はそれらを全部雪乃に渡し、あの三人が本当の家族になりたいという望みを叶えてやるのだった。 そして、それから1年後、彼女は催眠術と心療内科医として業界に名を広めることになる。しかし、そんな最中、ある男と子供の2人の患者が彼女のもとを訪ねて来た。 男のほうは目を真っ赤にさせ、ぎゅっと彼女の腕を掴んだ。「未央、お願いだから、俺たちから離れないでくれ」 その男の傍にいた小さな子供も彼女の服の端をぎゅっと掴み、低い声で懇願した。「ママ、家に帰ろうよ?僕はママしかいらないんだ」
View More未央が約束の時間に到着すると、悠生が入口で待っていた。二人は並んで協会のビルに入り、エレベーターを待っている間、ルックスのよい二人が同じくエレベーターを待つ人々の視線を集めた。「この前ネットで話題になったイケメンと美女じゃないか、実際に会って見るとはネットの写真よりずっと綺麗だ!」二人は顔を見合わせたが、あまり気に留めなかった。未央は悠生の紹介で、協会の数人の管理職に、自分で考えた「企業従業員メンタルケアプロジェクト」を説明していた。準備は万端で、説明もうまく、前の実際の教訓を使ってプロジェクトの社会的な価値とビジネス上の価値をはっきりと分析した。悠生の保証と未央自身の実力により、プロジェクトの打ち合わせは非常に順調に進んでいた。協会はその場で「心の声」との提携を決め、立花市全体の企業を対象とした従業員の心理相談ホットラインを設立することとなった。未央は正式にそのプロジェクトのトップ顧問兼責任者として雇われた。打ち合わせの後、悠生は微笑みながら彼女に言った。「未央さん、プロジェクトの推進のために、協会から週に決まった時間に藤崎グループに来て診察してもらおうと提案してきた。試しとしてね。どう思う?」未央は喜んで承諾した。川沿いマンションにて。昼食の時、未央は協会の人々と食事を共にするため帰宅しなかった。食卓に座ったのは宗一郎、博人、そして二人の子供だけだった。宗一郎は孫に料理を取り分けながら、意味ありげに言った。「やはり悠生君は頼りになるな。いつも未央に良いチャンスをもたらしてくれる」博人は何も言わず、ただ黙々と愛理のために魚の骨を取り除いていたが、箸を握る手にわずかに力を込めていた。午後、未央は上機嫌で家に帰ってきた。真っ先にプロジェクトが認められたという良い知らせを博人と分かち合った。さらに興奮しながら付け加えた。「都合のことも考えて、協会が週三回の午後、悠生さんの会社に診療に行くように手配してくれたの。これで業界の従業員のメンタルのデータを直接手に入れられるから、私の研究にはとても役立つの!」この知らせを聞き、博人の顔の笑みが一瞬で凍りついてしまった。彼は淡々と「そうか」とだけ返事し、何の反応も示さなかったが、心は鉛を詰められたように重たく沈んでいった。週三回藤崎悠生の会社へ行く。そ
未央はまだ博人にしっかりと抱きしめられたまま、彼の少々幼稚だが、不安に満ちた質問を聞き、腹立たしいと思ったが少し笑いたくなってきた。博人といえば、彼女の心の中では常にプライドが高いイメージだったというのに、突然こんなに敏感になるとは、少し戸惑う感覚も出てきた。彼女は彼のしっかりした胸筋をそっと一発叩くと、咎めるように言った。「博人、あなたの賢い頭を働かせて考えてみてよ。もし私と彼がただの友達じゃなかったら、今このベッドにいる人はあなたではなくなるでしょう?」うっかり本音を漏らしてしまい、これが博人にどう聞こえるか彼女でもわからなかった。この言葉を発した瞬間、未央は言い間違えたことに気づき、さっと起き上がろうとした。すると腰を締め付ける鉄のような腕がさらに強く拘束してくるのを感じた。博人は彼女をもっと強く自分の胸に抱きしめ、貪るように彼を安心させる彼女の匂いを吸い込んだ。部屋の中は静寂に包まれ、互いのシンクロしていく強い鼓動だけが聞こえている。主寝室の方から、娘の愛理の泣き声が聞こえてきた。未央はすぐに博人の腕から抜け出すと、主寝室へ駆けていった。半分寝ぼけている愛理を抱きしめ、優しく背中をトントン叩いてあげると、彼女はすぐに再び静かに眠りについた。未央はほっとし、博人も水を入れたカップを持って部屋に入って来たのに気づいた。彼はカップを彼女に渡し、飲み干すのを見届けてから、静かに部屋を出て、気を利かせて母子二人のためにドアを閉めてあげた。ゲストルームに戻った博人は、心の中の曇りや不安がすっかり消え、すぐに夢の世界へ落ちていった。翌朝、夜がまだ完全に明けていない時、理玖が博人のベッドに登り、遊ぼうと彼を起こしに来た。博人はぼんやりと寝返しをし、息子を腕に抱き寄せ、かすれた声であやした。「理玖はいい子だ、もう少しパパと一緒に寝よう」理玖はおとなしくできず彼の腕の中でごそごそと動き回り、すぐに博人の眠気も完全に飛んでしまった。彼は起き上がり、息子の頭をわしゃわしゃと撫でると、人差し指を立てて小声で言い聞かせた。「しー、声を小さくね。ママと愛理はまだ寝てるから、起こしちゃだめだよ」そう注意されると、理玖はすぐに母親のことを思い出し、風のように主寝室へ駆け込んだ。彼は主寝室の大きなベッドに登り、まだ眠っ
真夜中、周りは暗闇に包まれ、窓の外の街のネオンが窓越しに床に光の痕跡を落としていた。博人は一人、寝間着を着てリビングのソファに座っていて、暗がりの中でその姿がさらに孤独に見えてくる。彼は目を開いていて、眠気は微塵もなかった。昼間に未央が悠生と電話で話している時の、あの自然な笑顔が、彼の心に刺さった棘のようにどうしても頭から離れなかった。何度も自分に「彼女を信じろ」と言い聞かせているが、トラウマ障害で生じてきた嫉妬と不安は毒蛇のように彼の理性を奪っていく。その心の魔物と激しく戦っている時、主寝室のドアが静かに開いた。未央はシルクの寝間着を来て、水を取りにキッチンへ向かおうとしていた。リビングに入ると、彼女はそこに満ちる強い存在感を感じ取り、ソファに座る大きな人影を見つけて息を呑み、思わず叫び声をあげそうになった。慌ててリビングの灯りをつけた。柔らかな灯りの下、その姿がゲストルームで眠るはずの博人だとわかった。未央はすぐに彼の様子がおかしいと気づいた。彼のそばに歩み寄り、隣に座ると優しく尋ねた。「まだ起きてたの?一人でここにどれくらい座ってるの?」突然、彼女から心配され、博人は自分の中の暗い感情がもう隠せないように感じたが、それでも彼女を心配させたくなかった。顔を背け、ごまかすように答えた。「目が覚めて、もう寝れなくて、ちょっと座ってただけ。ちょうど……さっき座ったばかりだ。大した時間じゃない」そう言い終えると、彼は部屋に戻ろうと立ち上がった。しかし、長く座りすぎて足が痺れており、立ち上がった時によろめいた。このわずかな動きを、未央が見逃すはずがないのだ。彼が嘘をついたのだとわかった。彼の後をついてゲストルームに入り、ベッドがきちんとしていて皺ひとつない布団を見れば、真実は明らかだった。彼はまったく寝ていなかったのだ。未央は、ようやく温かい雰囲気を取り戻したこの家が、互いに疑心暗鬼になって再びピリピリとした空気に戻ってほしくなかった。彼女は積極的にこの問題に向き合うことを決めた。すると、彼の腕をつかんだ。「博人、少し話そう」博人の体が硬直し、少し気まずそうに、聞こえないふりをして彼女の手を振りほどこうとした。「もう遅いよ、早く寝て」二人の力の差は明らかで、未央は彼を引き留められな
暖かな陽差しが書斎に差し込んでいる。博人が書斎でネットで仕事を処理していると、リビングでは未央がきりっとしたスーツを身にまとって出かけようとしていた。彼女は彼に携帯を軽く揺らし、自信に満ちた笑みを浮かべて言った。「立花テレビから青少年メンタルヘルスの特番インタビューに招待されたから、行ってくるね。家はよろしく」彼女の輝くような姿に、博人は笑いながらからかった口調で応じた。「了解だよ、俺の奥様。どうぞ立花市の人々に、君がどれほど優秀なのか見せてやってくれ」午後、博人が会議している時、パソコンの右下に地元ニュースのライブ配信通知が突然表示された――「有名な心理学者、白鳥未央先生の単独インタビュー」思わずクリックすると、画面に慣れ親しんだ姿が映し出された。カメラの前の未央は、プロで、自信に溢れて、流暢に自分の考えを喋っていた。全身から眩しい輝きを放っているようだった。博人は静かにそれを見つめ、誇りと温かさが入り混じった感情で抑えきれず微笑みを浮かべてきた。インタビューが終わった後、未央はテレビ局主催のディナーに参加し、帰るのはかなり遅い時間だった。ドアを開けると、博人がリビングのソファで明かりをつけて待っているのが見えた。近づくと、彼は彼女の服に付いたパーティーの特有のタバコと酒の混ざった匂いを嗅ぎ取った。彼はかすかに眉をひそめた。本能的に「今後はこういう付き合いは控えろ」と言いかけたが、口に出しかけた言葉を無理やりに飲み込んだ。過去の支配欲が彼女を傷つけたことを思い出したのだ。唇をわずかに震わせると、彼は黙って彼女の手から上着とカバンを受け取り、優しく言った。「お帰り、疲れただろう。早くお風呂に入って休んでね」未央は一瞬たじろいだ。説教されるのを覚悟していたのに、このような優しい気遣いの言葉を聞くとは思っていなかった。胸に温かいものがこみ上げてきた。翌朝、未央は重要な業界のサミットに参加するため、朝早く出て行った。行くときに、彼女は博人に二人の子供を学校に送るよう頼んだ。理玖を学校に送る途中、後部座席の子供が突然感慨深げに呟いた。「パパって優しいね。ママがすごく忙しくなっちゃって、もう長いこと送ってくれないんだよ。パパがいてくれて良かった」何気のない子供の無邪気な言葉が、博人の胸を刺した。気
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