未央は一目で理玖の動揺を見抜いた。彼は明らかに何かを隠しているようだ。
「理玖、どんな解熱剤を飲んだの?」
彼女は突然訝しげにそう尋ねた。
博人は理玖が間違えて変なことを答えるのを恐れ、先に答えた。「普通の解熱剤の錠剤だ」
「ガチャンッ――」
未央が立ち上がると、その衝撃でお粥を入れていた茶碗が床に落ちて割れてしまった。
「理玖は錠剤は飲めないから、粉薬しか飲まないのよ。それに、飲んだ後飴も必要なの」
結婚して7年間、彼女は何度も体の弱い理玖の看病をしていたから、彼の好みと習慣を熟知していた。
皮肉なことに、そんな時、博人はいつも仕事で忙しかったか、雪乃と一緒だった。
だからこんなことも知らないのだ。
未央はさらに近づき、理玖にかけられた熱い布団を捲った。案の定、下に敷いてあったのはヒーターマット、それからいくつかの湯たんぽも置かれていた。
これでは頬が赤いのも、体が熱いのも当然だ。
一瞬、空気が凍り付いた。
部屋は静寂に包まれた。
計画がばれたと分かり、博人は慌てはじめ、急いで近寄りながらこう言った。
「未央、説明させてくれ……」
未央は顔をあげ、冷たい目で彼を睨み、口を開き、はっきりと言った。
「西嶋博人、私をからかって面白い?」
彼女は美術展を見るのも諦め、心配してここに駆けつけたのだ。理玖が苦しんでいるのに胸を痛め、彼にお粥を食べさせ、絵本も読んであげた……
それが結局なんだ?
子供にはこんな複雑なことは考えられないだろう。これが誰の仕業なのかは明らかだった。
未央は足元から冷たい感覚が全身に広まり、心が凍り付くような失望感に襲われた。
博人は彼女の全く温もりも感じられない目を見て、言葉を詰まらせた。
心の中に生み出た恐怖が抑えられなかった。
「違うんだ、未央、からかうつもりとかじゃなくて、ただ、以前、家族三人の幸せな日々を思い出してほしかっただけで」
「幸せ?」
未央は皮肉に笑った。
一体誰が幸せだったというのか。
彼は博人を睨んで、冷たい声でこう言った。「あの時に戻ってほしい?あなた達のお世話ばかりしていても、冷たい顔しか見せてもらえなかったあの日々に?」
未央は、はっきりと断言した。「ありえない!絶対に戻らないわ!」
この一年、この父子の傍から離れてはじめて、彼女は自分のために生きるのはどんな