男は片手をポケットに入れ、街灯の下に立っていた。顔半分は暗がりの中に隠れ、どのような表情でいるのか、はっきりとは分からなかった。
そして、未央に気付くと、彼は瞳を輝かせ大きな歩幅で近寄ってきた。
「帰ってきたんだ?病院のほうへ行ったけど、君がいなくて」
「ちょっと用事があって」
未央は今日何をしていたか詳しいことは伝えず、不思議に思って尋ねた。「藤崎さん、何かご用ですか?」
悠生は唇をすぼめ、何か言いたげな様子だった。
この時、悠奈の声が後ろから聞こえてきた。
「明日、父さんの還暦祝いなんです。兄さんは未央さんに彼女のふりをして一緒に来てもらいたいと思ってるんです」
悠生は気まずそうな顔をして、急いで説明した。「白鳥さん、嫌だったら断ってもらっても構わないんです」
未央は少しの間考えて、特に気にしないので頷いた。
「いいですよ、以前約束していたことではないですか?」
彼女と悠生が恋人を演じるのは、博人と理玖の親子二人を諦めさせるためと、もう一つは彼の両親をごまかすためでもあるのだ。
悠生はそれを聞いて心の中で喜んでいたが、それを表情には出さずに頷いた。
「良かった。じゃ、また明日」
「ご両親は何がお好きですか?」
相手に失礼にならないように、未央はやはり聞いておくことにしたのだ。
悠生は彼女のほうを向き、その優しい顔を見つめて首を横に振った。
「別に何も用意する必要はないよ。ただ、白鳥さんに会えるだけできっと喜ぶはずなんだ」
未央はニコリと笑った。「分かりました。できるだけ恥ずかしい思いをさせないよう気をつけますね」
二人は少し話をして、未央は少し疲れたので彼とこれで別れて部屋へと戻っていった。
屋敷の前で。
悠奈は兄を見つめて、ケラケラと笑った。「まだ認めないの?未央さんがここ数日西嶋さんとの距離が近づいたのを見て、たまらず積極的に攻めることにしたの?」
悠生は彼女を一瞥し、注意した。「適当なことを言うもんじゃないぞ」
そう言われても悠奈は兄を恐れず「ふんっ」と鼻を鳴らした。「別に素直に認めたっていいじゃないの。私が男だったら、絶対に未央さんにアタックしてるけどね」
悠生は額に手を当て、どうしようもないなという様子だった。
「可愛い可愛い悠奈、ちょっと声のボリュームを落としてくれないか」
未央は上の階にいるのに、