車が静かに動き出し、団地を離れた。
明日香はずっと黙ったまま、車窓の景色をぼんやりと見つめていた。遼一も何も言わず、ただ前を見て運転している。
わざとなのか、窓は半分開いており、冷たい空気が車内に容赦なく吹き込んできた。まるで冷凍庫の中にいるような寒さだったが、明日香は一言も発さず、その沈黙を破ることを拒んだ。
それが、明日香という人間だった。ロバより頑固で、遼一に利用されていることを分かっていながら、それでも前に進み続けた。まるで道を間違えたと気づきながら、それでも引き返すことなく、黙々と歩き続けるように。
遼一もまた、同じような人間だった。
コートは雪で半ば濡れ、無言のままの二人の間に、ぴんと張り詰めた空気が流れていた。二十分も経たないうちに、明日香の体はすっかり冷えきり、小さく震えていた。
やがて、車は南苑の別荘の前に停まった。
明日香が車を降りると、リビングのカーテンの隙間から、かすかな光が漏れているのに気づいた。閉じきれていないその隙間に、白い手がそっと触れている。窓の結露が、その形をぼんやりと映していた。
玄関に向かわず、明日香はその場で足を止めた。そして中から聞こえてくる、耳を塞ぎたくなるような、生々しい音に気づいた。
明日香はくるりと背を向け、雪を避けられる片隅にしゃがみこんだ。ここなら、その音も聞こえない。ここは静かで、痛みから少しでも逃れられる場所だった。
雪を踏む足音が近づく。遼一だった。
「ここで一晩中しゃがんでいるつもりか?」
「どこに行けばいいのか、わからなかったの」
むっとした声で、明日香は答えた。少し、怒りが滲んでいた。
遼一は、明日香が誰かに辱められても、それを見て見ぬふりをしてきた。なのに今になって、帰る場所すらなくなった彼女に、同情の手を差し伸べようとしている。気まぐれに優しくなったり、冷酷になったり、その態度に振り回されるのはもう、うんざりだった。
彼に会うたび、心が擦り切れていく。
「ここは......私の家だった。でももう、行く場所なんてどこにもないの。遼一......私を傷つけたいなら、同情なんかしないで。そんなことするくらいなら、最初から助けてくれなければよかったのに」
明日香はぽつりと続けた。
「送ってくれてありがとう。もう帰って。私のことは気にしないで」
以前、明日香が珠子をど