真夕がやって来た。
ショッピングモールでの買い物を終えた幸子は、真夕をそのままバー1996へ連れて行った。今夜、彼女はここで真夕のためにシングルライフのお祝いパーティーを開くつもりだった。
真夕はここで司たちに出くわすとは思ってもみなかった。当然、彼らの彼女に対するあざ笑う言葉も耳に入ってしまった。
真夕は豪華なボックス席にいる辰巳たちを知っていた。彼らはいつも司と遊んでいて、辰巳は特に司の親友だった。かつて司と彩が愛し合っていた頃、みんな彩を気に入っており、辰巳は彩のことを「彩姉さん」と呼んでいた。
この三年間、真夕は彼らに全く馴染めず、誰も彼女を仲間として認めていなかった。
彼らが真夕に貼ったレッテルは、「押しかけの代理妻」、「醜いアヒルの子」、「田舎者のダサ娘」などがあった。
男性がある女性を愛していなければ、彼の友人たちもその女性を尊重しないのだ。
幸子は激怒していた。袖をまくって、「私、あいつらの口を裂いてやる!」
真夕は幸子を引き止めた。「幸子、もういいのよ。離婚したんだから、あんな人たちに腹を立てても仕方ないわ」
真夕の冷静で淡々とした様子を見て、幸子もなんとか怒りを抑えた。この時、周囲の視線が真夕に集まり始め、「女神だ」と口々に言われる。幸子の気分もよくなってきた。「真夕、さあ行こう、独身パーティーよ!」
幸子は真夕を別の豪華ボックス席へと連れて行き、手を振って言った。「ここのホスト、全部呼んできて!」
一方その頃、別のボックス席では御曹司たちがまだ真夕を嘲笑っていた。そのとき、彼らは冷ややかで鋭い視線が自分に向けられたのを感じた。
彼らが顔を上げると、主席に座っていた司が、気だるそうに鋭い目を向けて一瞥した。
その視線は冷たく、不機嫌で、威圧的だった。
御曹司たちは一瞬で笑顔を失い、二度と真夕の悪口を言うことができなかった。
辰巳は司を見た。兄貴は今まで真夕を正面から見たことはなかったが、真夕が三年間も献身的に彼の世話をしていたことを、彼は多少なりとも気にかけていた。
そのとき、周囲のざわめきがさらに大きくなった。「なんて美しい女神だ!」
女神?
どこに?
辰巳も皆の視線を追ってその前方を見ると、すぐに驚愕した。「うわっ、本当に女神じゃん」
周囲の御曹司たちも目を見張った。「こんな女神がいつ浜島市に降臨してきたんだ?見覚えがないぞ」
辰巳は司の腕を引っ張った。「兄貴、女神を見てみて」
司の周囲には女性が絶えない。どんなタイプも見慣れていた彼は、最初は見る気がなかった。しかし真夕のボックス席はちょうど向かいにあった。
司が顔を上げると、真夕が見えた。
真夕は黒縁メガネを外し、普段の地味で堅苦しい姿を一新していた。彼女の小さな白い顔は雪のように透き通り、骨格が美しかった。その気品は冷ややかで非凡で、絹のような長い黒髪が肩にかかっている姿は、まさに絶世の女神だった。
司は一目見て、二秒間視線を止めた。
辰巳は興奮した。「兄貴、あの女神、どう?」
他の御曹司たちも言った。「堀田さんはそんなに気に入ってないだろ。堀田さんのタイプは彩姉さんみたいな柔らかくて可愛い美人で、こういうクールで近寄りがたい女神じゃないだろ」
「あの女神の脚、彩姉さんに全然負けてないよ。見て見て」
真夕はオーダーメイドのミニスカートを着ていた。普段と違い、初めて脚を露出していた。
彼女の脚は形が美しく、バランスもよく取れていた。男たちを想像の世界に誘うような脚だった。
彩に引けを取らない。
司はその「女神」を二秒間見て、どこか見覚えがある気がした。
そのとき、ホストたちが次々に入場し、全員が色白でイケメンだった。長身モデルたちが真夕の前に並んだ。
幸子は笑って言った。「真夕、八人選んで!」
結婚生活という苦痛から抜け出した祝いに、真夕は思い切って自分を解放することにした。「あなた、あなた、あなた……ここに残っていいわ」
辰巳は数えていた。「一、二、三、四、五、六、七、八。女神が一気に八人も選んだぞ!」
他の御曹司たちは言った。「そんなお金の無駄遣いは必要ないよ。一言くれれば、俺たちタダでいけるのに」
みんな笑った。
ピン。
そのとき、司のスマホが鳴った。また消費のお知らせが届いた。
司はスマホを手に取った。真夕がまた何を買ったの?
[VVIPユーザー様、末尾の番号0975のカードがバー1996にてホスト八名の消費金額は計10,000,000円です]
司の表情が凍った。「ホスト八人」の文字を二度も見返してから、向かいの「女神」を見上げた。
一気に八人のホストを指名したその「女神」が、真夕じゃないか。
司「……」
ホスト八人が真夕の周りを囲み、次々にグラスに酒を注ぎながら、「お姉さん、ゲームしてお酒飲みましょう」と言った。
幸子は嬉しそうに、「いいね、やりましょやりましょ」
第一ラウンドで真夕が負け、ホストがグラスを持って真夕に酒を飲ませた。「お姉さん、飲んでね」
真夕が一杯飲むと、他のモデルたちが文句を言い出した。「なんであいつの酒だけ?俺たちのも飲んでよ」
甘くて重たいこの感覚に、真夕は心の中で苦笑した。
司の鋭い目が一気に細まり、整った顔立ちは険しい怒りに満ちていた。彼は立ち上がって外に向かった。
辰巳が驚いた。「兄貴?どこ行くの?」
真夕が酒を飲んでいると、すっと大きな手が伸びてきた。彼女の細い手首を掴み、まるでひよっこのようにソファから引っ張り上げた。
真夕が驚いて顔を上げると、司の整った顔が視界に飛び込んできた。
真夕は慌てて手を振り解こうとした。「司、放して!」
司は冷たい顔で彼女を引っ張って行った。
幸子が立ち上がった。「堀田、何しているの!真夕を放してよ!」
追いかけてきた辰巳と御曹司たちは呆然とした。「『真夕』だと?」
「女神が池本真夕だったのか?」
「あれがあの『醜いアヒルの子』の池本真夕なの?」
「池本真夕って、こんなに綺麗だったんだ……」
司に引っ張られていくその冷ややかな美しい姿を見て、辰巳はその場で固まった。「ありえない……兄貴を追わなくなった池本真夕は、超美人になったじゃない!」
……
司は真夕の手をしっかり握り、彼の手の力はまるで鉄のように強かった。どれだけ真夕が振り払っても逃げられなかった。
彼の歩幅は大きく、真夕はよろけながらもついて行くしかなかった。「司、放してよ!」
そのとき、司が手を振ると、真夕の華奢な背中が冷たい壁にぶつかった。
次の瞬間、視界が暗くなり、司の長身が覆いかぶさるように壁に彼女を追い詰めた。
司の目には怒りの炎が揺れていた。「真夕!遊びやがって。俺が死んだと思っているのか?」