義姉が言い終わると、義母の顔が瞬時に青ざめた。
私はその場に立ち尽くし、何が起きているのか理解できないままだった。
重苦しい空気が漂う中、義姉はまるで何事もないかのように飲み物を口に運んでいる。
すると、津川海人の父が義母の袖をそっと引っ張った。
義母は一瞬ためらったあと、口を小さく結びながらこう言った。「渼乃香は霞原県出身だから、霞原料理を作ってくれるって」
その言葉に、私は眉をひそめた。義母への印象が心の中でじわりと下がるのを感じた。
なぜなら、家に入ってからそんな話を一度もした覚えがなかったからだ。
私たちは結婚して間もなく、今回が初めて義実家で過ごすお正月だった。
母はいつも「人を思いやる気持ちを大切にしなさい」と教えてくれた。
確かに世間では、嫁姑の関係は難しいものだと言われている。
それでも、夫の海人のために私は誠意を示そうと心に決めていた。
「こちらが相手に親切にすれば、きっと同じように返してくれるはず」――私はそう信じていた。
だから、義母に「何かお手伝いしましょうか？」と声をかけたのだ。
ところが、その言葉をきっかけに、義母はキッチンの全てを私に丸投げした。
「腰が痛いから」と言い訳したり、「娘一家を迎えに行かなきゃ」と口実をつけたりして、一切手を貸そうとしなかった。
夫とは「お互いを守り合おう」と約束していたが、義母は何度も夫を捕まえては話し込むので、
彼は私が一人で家事をこなしていることを忘れてしまったようだった。
台所では私は、野菜を切り、魚を煮込み、肉を炊き、鯉の形をした饅頭を蒸した。
忙しさの合間に、「次回は絶対来ない」と密かに心に誓った。
しかし、一日中頑張って準備したにもかかわらず、食卓には私の席すらなかったのだ。
「もう限界だ」と思い始めたその時、義姉が突然声を上げた。
「渼乃香ちゃん、席がないの？まるでお義母さんがわざといじめてるみたいじゃない」
その言葉はまるで鋭い針のように全員の耳を刺した。
場の空気が一瞬で凍り付き、家族は互いに顔を見合わせた。
義母の顔色はさらに変わり、夫もようやく状況を理解したらしく、慌てて椅子を持ってきて、自分の隣に置いた。
「渼乃香、ここに座って」
その青いプラスチックの椅子を見た瞬間、胸の奥がじくじくと痛んだ。
他の人は皆立派な椅子に座っているのに、私だけが安っぽい椅子だ。
夫が私のそばに来て、肩をそっと抱きながら小声で言った。
「ごめん、渼乃香。辛い思いをさせたね。俺の椅子に座って」
愛する夫の顔を見て、胸に込み上げるわずかな悲しみを押し込んだ。
「こんな小さな出来事で、新年のお祝いムードを壊すわけにはいかない」――私はそう自分に言い聞かせた。
食卓では、夫の家族が楽しそうに会話をしながら食事を続けていた。
ただ一人、義姉だけが無表情で、まるで他人事のように食卓を眺めていた。
その時、義母が咳払いをし、ポケットから赤い封筒を取り出した。
「渼乃香、今年は初めてうちに来てくれたから、これは心ばかりですが、どうぞ受け取ってください。
ただ、うちの決まりで、嫁には今後は渡さないから。海人と子どもができたら、その時は孫にあげるからね。
義姉だって、もらっていないんだから」
目の前に差し出された封筒は、本来なら喜ぶべきものだった。しかし、その言葉にはどこか胸に冷たいものが突き刺さるようだった。
受け取るべきかどうか迷っていると、義姉がくすっと笑い出した。
「お母さん、こんなこと言って、誰を騙そうっていうの？」
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