私は慎一を見つめた。彼の瞳には、隠しきれない哀しみが浮かんでいた。
その目に宿る葛藤は、幼いころからずっと憧れてきた家族というものが壊れてしまったことへのものだと、私はすぐに気づいた。彼が私を冷たいと責めるのも、私が彼の気持ちを顧みず、寄り添うことをしなかったからだろう。
霍田当主も、何度もそのことを私に言った。
満たされない子ども時代は、一生かけて癒やしていくしかないって、誰もがそう言う。
慎一が私に恨みを抱く理由は、私が彼のそばに残って、辛いながらも幸せな夫婦の仮面を被り続けなかったから。
だからこそ、私は冷たいんだと。
私は大きく息を吸い込み、鼻の奥がつんとするのを無理やり抑え込む。慎一が私に、ほんのわずかでも情をかけてくれるなんて、私は絶対に信じない。
「そう、あなたの言う通りよ」
額に手を当て、疲れたようにため息をつく。もう、彼と争う必要なんてどこにもなかった。心も体も、もう限界だった。
立ち去ろうとした瞬間、慎一が長い足で私の前に立ちはだかる。黒い革靴、黒いスラックス、黒いスーツジャケット。まるで、私たちの結婚生活に弔いを捧げるための喪服のようだった。
私は彼の靴先を見つめて、思わず笑ってしまう。体を四十五度ほどひねって、彼の横をすり抜けようとする。一刻も早く、この関係から抜け出したかった。少なくとも、彼のもとから!
けれど、また彼が前に立つ。
彼の腕が、まるで二本の鎖のように私の肩をがっしりと掴み、強く揺さぶった。
心の中の鎖が、ぎしり、と音を立てる。
「佳奈!なんで、俺はこんなに苦しいんだ!」
私は呆然として彼を見た。そして、泣き顔よりもひどい笑みを浮かべる。
掠れた声で、思わず懇願の色をにじませる。「もう……いいでしょう。お願い、行かせて。私、もう限界なの」
厚手のコートに身を包み、風に揺れる毛皮の裾。今の私は、それだけで十分に苦しい。
「ホントの紳士なら、こんな寒空の下で私を立たせておかないわよね?」
慎一は、その言葉に反応して、突然コートの前を開き、私を力強く抱きしめた。顎を私の頭に乗せて、その重みが妙に痛い。「なんでお前だけが平気な顔してるんだ?」
私は暗闇の中で瞬きをする。どうして私まで、苦しまなきゃいけないのか分からなかった。別れたふたりのどちらがより苦しいかなんて、そんな物差しで愛を測ること自体、