「……うん、わかった」太郎はうなずき、それ以上は何も言わなかった。
香蘭も、このままではいけないと思い、「あなたたちはもう寝なさい。私がここで待ってるから。大丈夫、明日の朝目が覚めたら、きっとママは帰ってきてるわ」と優しく言った。
「ほんと?」二人の子どもは声をそろえて聞いた。
「私がウソつくと思う?信じられないなら、指切りしようか」香蘭は落ち着いた口調のまま、なんとか子どもたちを安心させた。
翔吾と太郎はようやく寝ることにし、香蘭は二人を部屋まで送り届けた。子どもたちが眠りについたのを確認してから、部屋を後にした。
リビングに戻って時計を見ると、すでに深夜を回っていた。
携帯をかけても繋がらず、香蘭は少し考えた末、雅彦に連絡することにした。
その頃、雅彦は病院で昏睡状態の莉子を見守っていた。夜も遅く、付き添っていた人たちも皆、眠気を堪えている様子だったが、誰一人として眠ろうとはしなかった。
突然着信音が鳴り響き、その場にいた全員が驚いて目を覚ました。
「ごめん」雅彦はそう言ってから、携帯番号を確認し、廊下に出て電話に出た。
「もしもし、お母さん?こんな時間にどうしたんですか?」
「雅彦、桃が警察に連れて行かれたのよ。このこと、あなた知らなかったの?」
香蘭は彼の反応から、この件について雅彦がまったく知らなかったことに気づき、逆に不安になった。
確か、会社の件で警察に協力すると聞いていたはず。なのに、どうして雅彦は何も知らないの?
雅彦は一瞬驚いたあと、ようやく思い出した。莉子の状況が深刻だったせいで、完全に頭から抜け落ちていたのだ。
「お母さん、心配しないでください。すぐに対応します。桃はすぐに帰れるはずです」雅彦はそう言って電話を切ると、すぐに警察に連絡を取った。
電話で警察は、これまでの経緯をざっと説明した。
調査の結果によると、桃が確かに莉子に電話をかけており、その直後に莉子は薬を飲んで自殺を図ったという。それを聞いた雅彦の目が、わずかに翳る。
彼にとって、桃はそんな人間ではない。確かに莉子のことで嫉妬していたのは事実だが、他人の命を軽んじるようなことは、絶対にしないと信じている。
だが、莉子は意識不明で、電話の内容を録音していたわけでもない。通信記録こそ残っているものの、通話の中身まではわからない。何があったのか、誰に