警察はそう言い終えると、桃を外へ送り出し、それきり関わろうとはしなかった。
さきほどの言葉と、あの隠しきれない軽蔑のまなざしを思い返しながら、桃の心の中には冷たい風が吹いていた。
きっと、外から見れば、私は嫌な女に見えるんだろうな。
そう思うと、たとえ無事に解放されたとしても、気持ちが晴れることはなかった。
数歩歩いてから、彼女はタクシーを止めて乗り込み、自宅へと向かった。
車内で桃は、窓の外に広がる夜の風景をじっと見つめていた。今は深夜。街灯がちらほらと灯っているだけで、人通りも車もほとんどなかった。
ふとした瞬間、胸の奥にわびしさが広がる。けれど、幸いにも道中で何ごともなく、すぐに家にたどり着いた。
家に着いた桃は、そっと玄関のドアを開けた。音を立てないように気を配り、家族を起こさないようにと気を張っていた。
ところが、ドアを開けた瞬間――ほの暗い灯りの中、香蘭がナイトライトの明かりだけを頼りに、そこに座って彼女の帰りを待っていた。
その姿を見た途端、桃は鼻の奥がツンとして、思わず胸が詰まった。どんなときも、自分のことを一番に案じてくれるのは、やっぱり母親だった。
「帰ってきたのね?」香蘭は、桃が警察に連れて行かれてから、ずっと眠らずに帰りを待っていた。
娘の無事な姿を見て、香蘭はようやくほっとした。
それから、彼女の後ろをのぞき込みながら尋ねる。「ひとりで帰ってきたの?」
香蘭は雅彦に電話もかけていたのに、それでもこんなに遅い時間に桃を一人で帰らせるなんて……
桃はこくりとうなずき、母の目に浮かぶ不安を見て、慌てて理由を作った。「彼、会社でまだ仕事があって……だから、運転手さんが送ってくれたの。」
「そう……分かったわ。」香蘭はその説明に納得したようで、それ以上は何も言わなかった。
彼女は身体が弱く、普段はこんな時間まで起きていることもめったにない。桃は、そんな母を心配して、すぐに寝るように促した。
部屋に戻った桃は、留置室の不快なにおいが全身に染みついているように感じ、まずシャワーを浴びに行った。
身体を洗いながら、今日起きたことをどうしても思い出してしまう。
もし、以前だったら、雅彦は絶対に迎えに来てくれたはず。ちゃんと家まで送り届けるまで、安心しなかった。けど、今は……
あの人、私が外で危ない目に遭ってるかもしれな