直人は顔をしかめて言った。「紗希、もう一度言ってみろ!」
紗希は唇をかみしめ、冷ややかな目で彼を見つめた。「あなたのことは知らないわ。帰って」
彼と舞衣が一緒になったあの日から、彼女ははっきりと別れを告げた。それからはずっと連絡も取っていなかった。
もう何も引きずることはない。
彼に対して耐えてきた気持ちも、今は全て消え失せている。
今は、自分の人生を大切にしたいだけ。
「紗希、なんでそんなに冷たくできるんだ!」直人の顔は赤くなり、怒りが滲んだ。「俺と一緒に行くか、それとも俺に抱えられて行くか、どっちだ?」
選択肢は二つ。
「私は行かない!」紗希は言うと、振り向いて走り出した。
彼女は直人と顔を合わせたくなかった。
直人は彼女の背中を見送り、冷たい怒りがこみ上げてきた。
まさか、彼女は自分から逃げたのか?
こんなにも避けられているのか?
その時、突然、まばゆい光が一瞬閃いた。
次の瞬間、悲鳴が聞こえた。
直人は急いで振り返ると、車が目の前を通り過ぎた。風が彼の服を揺らし、車はすぐに角を曲がり見えなくなった。
「直人、助けて!」
紗希の震える声が聞こえた。
直人は瞬時に頭を切り替え、急いで駆け寄った。
紗希は地面に倒れ、血が周りに広がっていく。鮮やかな赤はまるで美しいバラの花のようだった。
その血の赤さが、直人の目を刺すように痛かった。彼は急いでしゃがみ込んで、「お前......大丈夫か?病院に連れて行く!」と慌てて言った。
言葉もろくに出ない。
もし紗希が死んだらどうしよう?
「足が痛い、骨が折れたみたい......気をつけて!」
紗希は言い終わると、目を閉じ、すぐに意識を失った。
直人は慎重に彼女を抱き上げ、車に向かって歩き出した。
車に乗せると、すぐに携帯を取り出して電話をかけた。
「全員準備、10分後に正面口で集合!」
電話を切り、彼はすぐに運転席に座った。
手が震えるほど慌てていたが、車を発車させた。
10分後、家にある病院に到着。
病院の前にはすでにスタッフが整列して待っていた。
車から降りると、直人はすぐに紗希を担架に乗せ、急いで救急室へと運んだ。
「急いで!」
紗希はすぐに救急室に入れられ、直人はその前で待っていた。
赤いランプが点灯しているのを見つめながら、彼の胸は苦しくなった。