家に帰ると、時刻はすでに深夜だった。
リビングの電気は明るくついていて、智也がソファで寝ていた。
鍵を開ける音で彼は目を覚ました。
「雪乃、今日仕事の後どこ行ってたんだ?会社に迎えに行ったけどいなくて、秘書に聞いても分からないって言われた」
そう言いながら、私にキスをしようと近づいてきた。
私はスマホを取り出すふりをして、さりげなく避けた。
「あ、言い忘れてたけど、今日は優花の家に行ってたの」
智也は眉を少しひそめ、不満そうな顔をした。
「友達付き合いに口出しする気はないけど、優花ってバーやってるだろ?怪しい人間と付き合いが多そうだし、あまり関わってほしくないんだ」
「暇なら、他の奥様たちと付き合ったらどう?」
もっともらしいことを言ってるけど、彼の友達にもろくでもない人間はたくさんいるはず。
お坊ちゃま育ちの彼は、人を自然とランク付けして見る癖がある。そんな上から目線がふとした言葉に滲み出ている。
私は彼の首に腕を回し、顔を近づけて軽く鼻で匂いを嗅ぐふりをした。
智也は驚いて私を支え、転ばないように慌てて腕を回してきた。
優花の言うことは正しかった。
智也は私を愛している。ほんの少し誘えば、すぐに桜を捨てて私に泣いて謝るだろう。
智也は桜に初恋の幻想を抱いている。未練や少しの好意があるのかもしれない。
でも、裏切りは裏切りだ。
どれだけ些細でも、一瞬でも心が揺らぐのは、立派な裏切り。
嘘はどんなに取り繕っても嘘に変わりない。
もし私が何も持っていない人間だったら、今の裕福な生活を失うのが怖くて、黙って耐えていただろう。
でも、今の私は違う。私は全てを支配する力を持っている。
智也は笑いながら言った。
「なんだよ、犬みたいに嗅ぎ回って。何してるんだ?」
私は口角を上げて笑った。
「他の女の匂いがしないか確認してるの」
彼の腕が一瞬硬直するのが分かった。
智也は真面目な顔で言った。
「ちょっと、冗談でもそんなこと言うなよ。俺が......」
「冗談よ。そんなに真剣にならないで」
前回、私が軽く探りを入れてからというもの、智也は私に前よりも優しくなり、一日中私に気を使うようになった。
そ