これが外に漏れたら、本当に馬鹿げた話だ。
悠良は心中で冷笑を浮かべた。
そして玉巳に視線を送ると、相手は楚々とした態度で、まるで無害な子ヒツジそのものだった。
一体どこに策略を秘めた人間に見えようか。
それなのに、その言葉の一つ一つが巧妙に場にいる全員に「小林悠良と寒河江伶は親しい」という印象を植え付けていった。
やがて株主たちもその話題に乗り、議論は熱を帯びる。
「考えてみれば、石川ディレクターが会社に来てから、プロジェクトが奪われたり、前回の徳本プロジェクトも石川ディレクターに持っていかれて、ディレクターの座も失った。悠良は白川社の社長夫人なんだし、私がその立場だったら、もうここにいないで、もしLSがいい条件を出すならさっさと乗り換えますよ」
「それに、もし本当にそんなことになったら、外で白川社長がどんな風に噂されるか......妻がライバル企業とそんな関係にあるなんて話が出たら、これはもう大きなゴシップですからね」
悠良は思わず玉巳に親指を立てたくなった。
今後誰かが玉巳には計算高さがないと言ったら、その人に一発見舞ってやりたいくらいだ。
見た目には軽やかに聞こえる一言だけで、これだけ波風を立てられるのだから。
やがて株主たちは話し合いの末、史弥に提案を投げかけた。
「白川社長、小林ディレクターにはしばらくこのプロジェクトから離れてもらったほうがいいと思います。寒河江社長と親しすぎるようですから」
「そうですよ。もちろん私たちは小林ディレクターを信用していないわけじゃありません。ただ、慎重を期するべきだと思うんです。このプロジェクトは会社にとって重要ですから」
史弥は苛立ちを隠さず眉間を揉みほぐした。
事態が厄介な方向へ向かっているのは明らかだった。
一方、悠良は弁解することもせず、ただじっと史弥を見つめていた。
この状況で、彼がどんな態度を取るのか見極めたかったからだ。
そのとき、史弥が口を開かぬうちに玉巳が声を上げる。
「プロジェクトが遅れたのは私のせいだと疑ってもらって構いません。でも、悠良さんを疑うなんて......彼女がどれだけ会社に利益をもたらしてきたかは、皆さんご存じでしょう?」
「寒河江社長と少し親しくしていたとしても、きっとそれは仕事上の交流です。それに私、悠良さんが寒河江社長の車――A8から降りるのを