史弥もそれ以上問いただすことはなかった。
[まあいい。後で玉巳に言っておく]
悠良は指先をきつく握りしめ、黙り込んだ。
その力に薄い指先は、まるでざくろの実のように鮮やかな赤みを帯びていた。
さっきまで自分を疑い、根拠もなく責め立てていたのに、今は「まあいい」の一言でなかったことにするのか。
ちょうどそのとき、玉巳が病室の扉にやってきて、軽くノックした。
「史弥、悠良さんに会いに来てるのに、なんで私には声かけてくれなかったの?」
史弥は体を向き直し、何気なく答えた。
「さっき見かけたから、ちょっと顔出しただけだ」
玉巳はベッドに座る悠良を見やった。
「悠良さん、さっきまで元気そうだったのに......それにしても奇遇ね、お母さんと隣同士なんて」
その含みを察して、史弥は悠良に目を向けた。
[点滴はあんまり体にいいもんじゃないからな。できるだけ輸液なんてしないほうがいいよ。薬じゃだめだった?]
悠良は顔を背け、冷ややかに答えた。
「医者に点滴するように言われたの」
[何日やるの?]
史弥が点滴の袋を指さす。
「今日だけ」
今日だけと聞いて、悠良は心の中で安堵した。
これ以上続いたら、きっとまた何か言われるに違いない。
[じゃあ今夜送ってやるよ]
そこへ、玉巳が子猫のようにかわいらしく呼びかけた。
「史弥......でもさっき医者に聞いたら、お母さんは今日点滴なしで、明日また来るだけでいいって言ってたよ?」
「ああ、そうか」
史弥は悠良に視線を戻した。
[悠良、少しだけ待っててくれるか?先に玉巳の母親を送ってから戻るから。年配だからな、体が弱いし、早めに休ませてやりたい]
それは相談ではなく、ただの通告だった。
悠良は驚きもせず、淡々とした表情のまま、声にまるで感情を乗せなかった。
「ええ。石川ディレクターにはあなたしかないもの。そのくらいわかってるから」
その言葉に史弥の眉間から皺が解けると、愛おしげにその手で悠良の髪をなでた。
[やっぱり悠良は物分かりがいいな。あとでオアシスプロジェクトが落ち着いたら、ちゃんと時間を作って一緒に過ごそう?]
悠良は大きな波もなく、従順にうなずいた。
「うん」
玉巳も首を傾げ、甘やかに笑ってみせた。
「悠良さん、本当に史弥が言った通りね。今どき悠良さんみたいに心が広い